職は盗賊、名はレリック
作者:「今回はケルビン側だけだよ」
レン:「レリックって誰?」
作者:「・・・・・mobです!」
俺はなんとか霧を掻き分けて二人の所まで戻ってきた。
「こんな魔法、こうして!こうして!こうしてやります!」
エレナは空中に魔法陣を描いていた。
『解体!』
すると周囲の霧が渦巻いて消え始めた。
「凄いですね」
「術に干渉して解体しただけです。そう難しい事ではありません」
「そうなんですか?俺でもできますか?」
「練習次第ですね」
「そうですか…ケイトさんは?」
「ケイトさんならそこでウサギを愛でてます」
「じゃあ放っておきましょう。今からこいつの尋問をしますがエレナさんはどうしますか?」
「尋問を手伝います」
「そうですか、ではさっそく始めますか」
俺は地面に転がした盗賊男に魔法で作った水球をぶっかけた。
「ゲホッゲホッ…なんだ…」
「さてと…状況を説明してやる、お前はさっき俺に気絶させられて拉致られた。お前の態度次第では今後の対応を約束してやる、洗いざらい吐け」
「そうかさっきの少年か…俺をどうするつもりだ?」
「さあな、それはそっちに聞いてくれ。別に俺は、こちらが欲する情報について嘘偽りなく話せば相応の待遇は約束するつもりだ。知りたいことは二つ、お前の仲間とか同業者がこの辺に何人ぐらいいるかと」
「大きな本を片手に他にまともな武装も持たずに潜ってる男をみてない?」
「仲間はいない。取り分で言い争いになるから手を切った。同業者はざっと15人は居ると思う。魔物に殺されたり、獲物に殺されたりしてる筈だから正確なところはわからない」
「なるほど、二つ目は?」
「ああ、その男なら見た。俺の獲物だったんだが、魔法が上手く機能しなかったから見逃した。その後は知らない、俺はこの森を狩り場にしてる。逆に言えばこの森の外のことは殆ど知らない」
「なら用済みで良いですか?」
「待って、その男の魔法は何?」
「霧の魔法だよ、一定範囲内に霧を発生させて霧の反応でその空間内を把握できる」
「なあ、お前なんで盗賊やってんの?」
「あ?そりゃ借金抱えたからな」
「その魔法が使えるなら斥候としてどこでも買って貰えると思うんだが…」
「そうですね、非常に優秀です。どこかのパーティーに雇ってもらうと良いかと」
「正直に言えば家で雇いたい所だけどケイトさんが何て言うか…」
「そうですね…では一先ずこの依頼の間は臨時に雇う事にしてそのあとのことは依頼達成後に決めては?」
「そうですね。お前、名前は?」
「レリックだ。レリック・ゴルーゾ」
「ゴルーゾ?」
「えーと、東の方の町で平原の近くですね」
「いや南ゼレゼス王国は平原ばかりだと聞いてますよ?」
「あれですよ、アンダル帝国と北ゼレゼスとの境界の」
「あ、境界の平原ですか」
境界の平原、北ゼレゼス民国と南ゼレゼス王国とアンダル帝国の間にある平原でその位置もあって小競り合いが絶えない地域だとケイトさんから聞いている。
「確か今は停戦状態で移動は自由でしたよね?」
そう、緊張状態という訳ではない。
事実上終戦しているようなものだ。
それもこれもアンダル帝国の意向なのだが…
◇◆◇◆◇◆◇◆
レン:「アル君の意向だね」
アル:「そうだ、これ以上の戦争行為にメリットを見いだせなくなったのだ」
作者:「悪魔の諸行も書かなきゃなんだけどな~」
アル:「もう諦めた、俺はコッチでの出番が増えるように努力することにする」
レン:「おー流石はmobカイザー」
アル:「そうだな、コッチではmobカイザーだな」
ジン:「mobでもカイザー付けるのか?」
作者:「当たり前でしょ?皇帝なんだからさ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうですね、なのでアンデッドの被害が少ないのであまり儲からなかったんです、それに平原だと局所的に霧が出ると目立つということでして」
「これはアレですね、貧困による識字率の低さが原因のやつでは?」
「いえ、それはあまり無いかと。南アリシアでは国の方針で初等教育が義務となっています。それでも教育の質が悪いので満足な結果を出せていない所も多いですが、それにゴルーゾは平原に一番近い事もあり国防の要でもあるので三都市と同じぐらいに国の手が入ってるので」
「うーむ、だとするとそう言うことかな?」
「たぶんそういうことですよ」
「なんの事だ?」
「お前がちょっと抜けてるってことだ」
「学校は卒業した。別に無知じゃないぞ」
「知識はあっても応用できない、典型的な頭でっかちさんですね」
「確かにちょっと頭が大きいとは言われたことはあるが、そこまで大きいとは言われたことはないぞ?そんなに大きいか?」
「なるほどね、冗談とか言い回しが苦手と…」
「どうやらかなり真面目な方のようですし、契約さえ結んじゃえば縄は解いていいと思いますよ」
「そうですね、レリック取引だ。今日から暫く俺らのパーティーに臨時で入れ」
「は?なんでだよ?」
「まあ待て、そうだな一日辺り金貨200枚だな。それでだいたい二週間を予定している。その間パーティーの人探しに協力しろ、内容は付近の偵察役だけ戦闘には参加しなくてもいい。食料と傷の手当てその他必要な物は俺が用意する、キャンプ用品もこっちで負担してやる。で、この依頼の間に見たこと聞いた事に関しては一切口にするな」
「簡易ですが契約書を作りました」
「ナイスジョブですよ」
「それほどでも」
「なあ、これを拒否した場合は俺はどうなる?」
「どうも?俺たちは一切関与しない、このまま立ち去るだけだ。お前がそこら辺のならず者に抵抗できずに殺されても何もしない」
「要約すると、現状のままあなたは放置されます」
「はあ!?最早脅迫じゃないか!」
「取り引きだって言ったろ?俺らは貴重な斥候を得てお前は報酬と身の安全を得る。蹴れば何もなかったことにする、俺らはお前を捕縛したが荷物になるから捨ててってたって事になるな」
「それが脅迫だと…」
「取り引きって言うのはこういう物ですよ?相手が退けない状況でウィンウィンの関係を築くのですよ。ほらね?」
「別にお前を消すのは容易いんだ。この刀を振り抜けばお前はただの肉と化すんだから、でもさあそれはそれで味気ないよな?だってそれをやっても今日の俺が積み上げた死体が一つ増えるだけだし。な?お互い手を取った方が得だろ?脅迫するなら端から報酬用意しないって、だってこれを首に突き付ければ事足りるんだからさ」
俺は刀を抜いて見せる
「殺るなら殺れよ」
「殺しはしない、せっかく生け捕りにしたんだからな。さっ、返事を聞こうか」
俺は刀を納める
「引き受ける、しかないだろ?」
「じゃあ契約書にサインな?」
俺はレリックの縄を外す
「Sin?」
「あー、頭がぁぁあぁ。三角関数は嫌いなんだーー」
「ソウジ君、三角関数とはなんですか?」
「俺に聞かないで下さい!というかさっさと契約書にサインして」
「しましたよ?」
「ホレ、これがお前の控えだ。この紙はエレナさんに預けときますね」
「え、私ですか?」
「持っといて下さい」
「で、あんた達が探している人って言うのはあの本の人でいいんだな?」
「そうそう、その人探してるんだよ。たぶんそう簡単にやられる人じゃないからまだ生きてるから探すぞ」
「因みにその見たのは何時の話?」
「昨日の昼頃でしたね」
「意外と進みが遅いですね」
「お父さんはここに本を探しに来てるの、たぶん隅々まで調べながら下ってるんだと思う」
「ならまだこの層に居るかも知れませんね」
「はい、私達は下る事に専念しましょう。途中で会えれば儲け物ですし、例え会えなくても最下層で待ってれば直に降りてくるので」
「ではそのように。レリック、階段の場所は判るか?」
「この森を抜けた所に広場がある。そこにあったな」
「よしじゃあサクッと下るか」
「じゃあ準備しましょうか、レリックさん準備手伝ってください」
で、なんだなんだで森を抜けた。
結構長い間この森で活動していたというレリックの案内もあって森を抜けるのにさほど時間は掛からなかった。
「なんか、上手く行きすぎてる気がしますね」
「そうかしら?人生山あり谷ありでしょ?たまたまよ」
「念のため周囲の警戒を」
「そうそう、この辺は巨人が出るって噂だぞ?」
「巨人?」
「遠目で見た同業者から聞いた話だ。常に居るわけではなく、時々現れてまた消えるらしい。誰かの幻覚魔法じゃないか?とも言われてるな」
「幻覚魔法ね~この辺りのダンジョンは前に巨人が出てるから無い話では無いと思うけど」
「うーん、スプリガンだったりして…」
「私もそんな気がします」
直後、茂みが揺れて小さくて汚い灰色の小人が飛び出してきた。
「なんだこいつ」
「うげっ、案の定かよ!」
「戦闘準備!」
「この程度俺一人でも…」
レリックの言葉が途切れた。当然だろうすぐそこに居た小人が一瞬で身長5m近い巨人に変身したのだから。
「レリック!逃げろ!」
「わわっ、グハッ!」
レリックはその巨体に蹴りあげられて空中でかなり回転して地面に落ちた。
「・・・・・死ぬかと思った」
「良かったな、運がいいぞ?」
「うーんどうしよっか、レリックがそうなっちゃったから倒す方向も考えなきゃね」
「そうですね、まあ俺達の敵じゃないですね」
巨人が強いのはその巨体故に飛道具でしか急所です狙えないからだ。
その他、筋肉が異常に発達してて動きが速いとか巨体故にリーチが長いというのもある。
「エレナはレリックを連れて退避して!ソウジ君は私と一緒にアイツの相手よ!」
「処刑人は俺がやりますね、ケイトさんはアイツを森の方に誘導してください」
「解ったわ、ちゃんとアイツの首落としてね?」
「大丈夫ですよ簡単なお仕事です」
翼を展開して飛ぶ。
これはもう俺達の常套手段になっている。
翼で機動力を底上げしつつ空を飛んで、相手を撹乱しつつ切り刻む。
いつもなら、ケイトさんが相手を牽制してケイトさんに飛んできた攻撃を俺が防いで、その間にフウカさんが魔法を叩き込むか首を落とす。
だが、今はフウカさんがいないから止めを刺す役は俺に回ってくる。
理由は単純、ケイトさんの獲物は短剣の双剣だからこれほどの巨体になると致命傷を与えにくいからだ。
その点、俺は刃渡り65cmちょいの打刀だから確り狙えば致命傷を作れる。
刺突には向かないがその気になれば出来なくもないからなおさらだ。
「今回は俺が貰いますね」
「はいはい、私は牽制するわ」
ケイトさんは手持ちの投げナイフをスプリガンに放つ
ナイフは全てスプリガンを捉えたがその刃をスプリガンの皮に少し沈めて止まった。
「固いわね」
スプリガンは動じていない。
「へぇ、反応なしね。詠唱するから時間稼いで」
「了解ですよ、コッチ見ろデカブツ!」
俺は氷棘をスプリガンの顔面に集中させる。
流石のスプリガンも顔面に氷の棘が十数本も飛んできたから驚いたのか、一瞬ぐらついた。
だが氷棘は全部皮膚に弾かれてしまったのだが、牽制には十分だったようだ。
『───ライトスフィア』
ケイトさんの手には光の球が浮いている。
そこから幾つもの光の弾が放出されて、様々な軌道を描いてスプリガンの顔を狙う。
「いい魔法でしょ?」
ケイトさんは自分の首下で杖を横に振った。
わかりました。
ケイトさんが作ってくれたこの隙を俺は逃さない。
「やるぞ天雨丸!」
『汝に力を貸そう』
俺の手の中の刀が蒼く輝いて、まるで俺の体の一部となったかのように俺の理想通りに閃いた。
光の弾の直撃を受けて黒々とした影と化したスプリガンの体の頭の間を背後から断ち切る。
確りとした手応えがあった。
その結果だとでも言いたげに首は空中に飛んでいった。
「ふう、このぐらいなら私達の敵じゃないわね」
「そうですね、二人なのでちょっとキツいかもしれないと思いましたが意外となんとかなりますね」
「まあ、フウカが居ればもっと簡単だったんだけどね」
「さ、こんなお荷物は捨て置いて下に行きましょう」
「そうね、早く終わらせてフウカと合流したいしね」
「そうですね」
一行はエレナとレリックと合流して階段を下っていった。