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地下の迷宮、港の魚市場

「はあ、本当に嫌になりますね…」


階段を下ってから早数時間

俺達は地下二階を彷徨っていた。

というか迷っていた。


地下二階は読んで字のごとく迷宮だった。

なにせ全く景色の代わらない迷路なのだから


「ここは?」


「さっき通りました」


俺達はT字路に来ており、床にはたくさんの光る氷の足跡が残されている。


「今はこの辺かな?」


エレナは持ってきた本の白紙のページにマッピングしている。


「そろそろ日が暮れるんじゃない?」


「迷宮内で昼夜が関係あるんですか?」


「多少ね、だって私達は外から来たわけだから中に居ても外に居ても夜が来ると自然と眠くなるでしょ」


残念ながら俺は既に生活リズムなんてゴチャゴチャになってるから夜が来ても眠くはならないんですね


「幸いこの階層は比較的魔物との遭遇が少ないですしこの辺で一度休憩してもいいかも知れませんね」


「そうですね、でもちょっと怖いところですね。まだまともな戦闘は一回しかしてないのでここの敵の平均的な強さが解らない現状、長時間の休憩は控えるべきだと思います」


「それもそうですね」


「なら短時間で十分な休憩を取ればいいじゃない」


「そうしますか」


「へ?二人だけで納得しないでくれませんか?」


「ソウジ君の魔法で加速してる内に休むのよ、それなら大幅に時間を短縮できる筈だし」


「だいたい百倍速ぐらいにすれば五分でそれなりにぐっすり眠れる筈ですよ」


「ひゃ百倍!?」


「いや、百倍ぐらいなら小さい方かと」


「かなりですよそれ」


「俺なら5000倍ぐらいまでは楽に行けるしここは魔力濃度が高いので青天井ですよ」


「じゃあ私から休ませて貰うわ」


『我、時を繰る者、我が意思に沿いて彼の者の内なる時を制御せよ タイムコントロール』


急速に体から力が抜けるのを感じた。


「ふぅ…対象が自分以外の人間だとちょっと重いな…」


「自分だと軽いんですか?」


「そうですね」


「なんの差なんでしょうか電導率の問題?」


「なのでしょうか、俺はそういうのはよくわからないのでなんとも言えませんが」


「私もそんなに詳しくはないのではっきりとは言えませんが…」


「でもこの方法で攻略して行けば予定より早く終わりそうですよね」


「まだわかりませんよ?この迷路だってまだ途中ですし、ダンジョンは一定周期で間取りを変化させるので帰りに行きと道が変化しているなんて事も度々あります。だから完全に安心はできません」


「所謂、不思議のダンジョンってやつですね」


「不思議のダンジョン?とは何を表す古代語ですか?」


「ここみたいに一定周期だったり人が入る度だったり不定期だったりで内装を変化させるダンジョンの事です」


「それは普通のダンジョンでは?」


「では、間取りが変化しないタイプのダンジョンはなんと言うんですか?」


「それはただの迷路ですよ」


「そういう感じですか…やっぱり文化は奥が深いな~」


「もしかして、ソウジ君が住んでた地域ではダンジョンを不思議のダンジョンと呼んで迷路をダンジョンと呼んでいたんですか?」


「そうですね」


「たしか東の方にそんな国があると本で読んだことがあります」


「そうですね、俺の故郷は東の方にありますよ?」


「じゃあその国に住んでたとか?」


「いや、違うかもしれませんよ?東って言っても広いですから」


「そうですね…深追いするのはやめましょう。わざわざ東の方からアンダル帝国を越えてまで西に来たと言う事はそれなりの事情があってのことでしょうし」


「察してもらえると気が楽です」


「お互いに余計な詮索はしないようにしましょう。今、詮索しあって気まずくなっても得はありませんからね」


「そうですね、俺も依頼主とは良好な関係を築いておきたいのでそれには賛成ですよ」


「あの、何か摘まめる物とかありますか?おなかへっちゃって…」


「うーん、今は炒飯ぐらいしかないですね…」


「チャーハン、本で読んで一度食べてみたかったんですよ!是非ください」


「そう慌てなくてもチャーハンは逃げませんよ?」


「これが慌てずに居られますか、なんてったって失われたレシピの再現を口にできるなんてそんな幸運はそう訪れませんよ?」


「失われたレシピ?チャーハンが?」


「そうです、古代の書物にはよく登場する料理ですがその製法はおろか材料すらまともに解っていないのです。いえ、今のは少々語弊があります。材料は解っていますがショウユという食材がいったい何なのか、その他にベーコンとかハムとかわからない食材だらけで、味は事細かに書かれているのにどんな形をしているのかも不明なので、腕利き料理人を何十人集めても再現できないのです」


チャーハンぐらいなら、醤油なしでも作れるだろ…


俺は塩コショウとカレー用スパイスをうまい具合に調合して使ったがそれじゃダメなのだろうか…まあ、こんど醤油使って作ればいいか。


「略式ですがコレがチャーハンです…」


俺はトランクから容器に入れて時間を止めたチャーハンを取り出した。


魔法を解くと、チャーハンは再び湯気を上げて出来立てに早変わりする。


「時魔法はそんなこともできるんですね。正直羨ましいです」


「俺も便利な力だと思いますよ」


そしてチャーハンの皿にレンゲの代わりのスプーンを乗せてエレナさんに渡す


「いただきます、さて古代人も愛したその味はどうなんでしょうか興奮が止まりません」


すごいな…ここまで喜んで貰えると作り甲斐があるな…


ケイトさんはいつも残さず美味しく食べてくれて、かつ反応もいいから作ってて楽しい


フウカさんもちゃんと残さず食べてくれるし、感想も言ってくれるが反応が薄い。

見ている感じではどうも食への関心があまりないらしい。

というか、かなり三大欲求を軽視している。

徹夜二日は当たり前、相当暇か相当な空腹時でもなければ自分で食事の事を考えようともしない。

性欲に関しては、ケイトさんが頻繁に処理してるみたいだからなんとも言えないが…

それら以上にロック鳥と研究とお金に執着している様に俺には見えている。


まあ、瞬撃の隼の食生活の大部分を支えている俺には少し面白くない訳で…


「美味しそうに食べてくれて俺も嬉しいですよ」


そうして見ている内にエレナはチャーハンを平らげていた


「食べるの速いですね」


「そうですか?私としてはかなり味わって食べたつもりなんですが?」


「普通の人に比べるとかなり速かった気がしますよ」


だって普通のカレー皿一杯のチャーハンを1分って…


「裏に住んでるとご飯食べれない事も少なくないですし、落ち着いて食べれない日の方が多いので自然に速くなったんですよ」


すると予めセットしておいたアラームが鳴った。


「おっと時間だ」


俺はケイトさんに意識を集中して時間の流れを元に戻した。


「くぅっ、よく寝させてもらったわ、次はエレナの番ね」


「ホントに大丈夫ですか?元に戻せるんですよね?」


「もちろんですよ」


「ほらソウジ君やっちゃって」


「じゃあ、いきますね」


俺はエレナに意識を集中して時間の流れを加速させていく。


そして無事に百倍ぐらいにすることに成功した。


戻すときは『戻れ』って強く念じるだけだから簡単だ。


そして俺はケイトさんの分の朝食を用意した。


▲▽▲▽▲▽▲▽


じたばたし終えた私は港で開かれている魚市場に来ている。


「なにか気になるものはありましたか?」


私の隣に居るのはアリアさんではなくカイさんだ。


「そうですね~秋もだいぶ深まってきているのでそろそろ秋刀魚が旬になってきてると思うんですけどね」


前世の知識を引用してみた。

どうせ通じないけど


「詳しいですね。確かにサンマはそろそろ時期ですね。獲りに行くのが大変なので供給量は少ないですが」


「そうですか…確かに沖合に出るのは危険が伴いますしね」


「まあ、船を出すにも金がかかるし、魚で元は取れても魔物の危険もあるからな簡単には行かないのさ」


「そうなんですか、まさか海中にも魔物が居るとは…」


「まあ、内陸から来たんじゃしょうがない。海の魔物は陸や湖の魔物とは全く違うと思った方がいいですよ」


「そうなんですか?」


「海の魔物はあくまで水中で活動している。文字通り余所者の俺たちが自由に活動できるほど海は優しくない。そんな場所を自由に動けるという事もあるから、海中の魔物は陸の魔物よりも高ランクになりやすいんですよ」


「そうなんですか、やっぱり自分で獲りに行った方が早そうですよね」


「いや、漁業組合と揉め事になるからやめた方がいいかと…」


「そうですか…では仕方ありませんね、サンマはダメでも鯵ぐらいなら」


「鯵の旬は過ぎましたね。獲れなくはないですが脂っぽいですね」


「そうですか…あ、あれは」


「どうかしましたか?」


知識として親しみのあるフォルムを見つけた。


翼のように大きなヒレの小魚


トビウオがそこに並んでいた。


「トビウオです。これなら知ってます」


「バードフィッシュですか、それは比較的取りやすいの安価ですよ」


「そうなんですか?すごい速さで飛ぶって聞いてたので捕まえにくいと思ってました」


「こいつら飛ぶのは逃げるときだけで、普段はポケーっとして光に寄ってくるので網とランタンさえあれば獲れるのですごい簡単ですよ」


「そうなんですか、ちなみに味の方は?」


「鯵は竿を使わないといけないので少々面倒ですね」


「いえ鯵じゃなくて味です。トビウオの味はどうなんですか?」


「基本的に淡白な味ですね。魚醤なんかつけるて食べるのがおすすめですね、塩焼きも良いですし、面倒ですが蒲焼きもいい、なんでも有りな魚ですね」


「ちなみに卵は?」


「卵はそうですね、刺身と一緒にご飯に乗せたり塩焼きならそのままいきますね。ちょっと変わった所だと海草と一緒に佃煮と小さい海老と会わせてかき揚げにしたりしますね」


「捨てるところのない魚ですね」


「いえ、流石にヒレは捨てますよ」


「そうですか…」


トビウオからヒレを取ったらそれはもう鯵と変わらないじゃないですか…


「どうかしましたか?なんか俺まずいこと言いましたか?」


「大丈夫、ちょっと驚いただけですから」


「じゃあ、今日の晩御飯はトビウオにしましょうか」


「そうですね」


ということで、私たちはその場でトビウオを十尾程買った。

その他貝類とか改装とか海老とかをカイさんが買って、その後もしばらく港を見て回った。


『またシーレッドにやられた』


そこでは漁師っぽい感じの人が荒らされた船で何か嘆いていた。


「シーレッドってなんですか?」


「海の比較的浅い所に生息する赤い水性生物ですよ」


「赤い水性生物?他に特徴はありませんか?」


「確か、ヌルヌルした粘液で体が覆われてて、攻撃されるとどこからか黒い液体を噴射する、触手系の奴だよ」


「ちなみに触手の本数は何本ですか?」


「わかりません、六本だったり七本だったり八本だったりするので」


「その触手には吸盤がありますか?」


「吸盤はありますね」


「タコですか…あれもちゃんと処理すれば美味しく食べられる筈ですが…」


「え、あれ食べるんですか?あんな魔物かどうかも解んない触手を?」


「いえ、そういうのに詳しい友人が居て、その人は美味しかったと言っていたんですが…どうなんでしょうか」


「少なくとも俺は食ったことないですよ?使っても魚の餌ですね」


「あー、まあ見た目からか嫌煙されがちだとも言っていましたししょうがないでしょうね」


「俺はアレを食べるっていう発想に驚きですよ…」


「そうですか?火が通ればどれもただのタンパク質ですよ」


なぜかカイさんに引かれてしまった。

いったい何がいけなかったのだろうか。


そんな気まずい空気のまま私たちはギルドに来た。


理由は調度帰り道だったからだ。


何をしに来たのかと言うと単に挨拶に来ただけだ。


「でも挨拶なんて実際に仕事するときにすればいいのでは」


「まあ、一応ここに来た事を報告しておこうかと思って」


「じゃあ、俺の担当の受付嬢を紹介しますよ」


「ありがとうございます」


「まあ、向こうも姉さんの友達なら無下にはできないだろうしな」


私はカイさんと受付待ちの列に並んだ。


時間も昼前だから人はそう多くない。

並んでる人も極少数だからすぐに順番が来た。


「おはよう、セレナ。こちらは姉さんの友人のフウカさん、家のお客様。フウカさん、こちら俺の幼馴染みで担当受付嬢のセレナ。姉さんの子分みたいなもん」


「よろしくお願いします、今日は挨拶に来ました。アリアさんに担当して貰ってる冒険者のフウカです。しばらくエネシスに滞在するので、その間に仕事をするときは手続きお願いします」


私はギルドカードを提示する。


「はいギルドカードを確認しました、御姉様のご友人なら私も誠心誠意対応させて頂きます」


「じゃあセレナ、仕事頑張ってな」


「お仕事の邪魔をしても悪いので、私たちはこの辺で失礼しますね」


「お気をつけて」


セレナさんの言葉を背に受けつつ私たちはギルドを出た。

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