抱き寄せて
作者:「遅刻してすいません」
レン:「まあ年末だけども遅刻はダメでしょ」
作者:「年賀状の製作に追われてまして…」
「えっちょっとフウカさん!?」
今、私はフウカさんに抱えこまれている。
「このぐらい大丈夫ですよ、それになんの問題もありませんよ。何度もケイトに使ったので」
「そう言うことじゃなくて…恥ずかしいです」
フウカの胸が顔に押し付けられてて、自分は全く非がないのに恥ずかしくなってしまう
「こんな上空に要るのは鳥だけです、見られることもないので楽にしてていいですよ~ちょっと冷たいけど多少は我慢してくださいね」
首の後ろから何か冷たい液体が注がれる。
「ひあっ、なんですかこれ?」
注がれた液体は少し粘り気のある物だったが、直ぐに乾いてなくなった
「すぐわかりますよ」
「ふあ?一体何を──」
そして私は意識を失った。
気がつくと、真っ先に視界に入ってきたのは少し寂しそうなフウカさんの顔だった。
だがその表情は間もなくいつも通りの笑顔と礼節に上書きされた。
「気分はどうですか?」
「不思議な感じです」
「アリアさんに睡眠魔法を掛けてから約七時間が経過しました。現在地は南の山脈の手前です」
「もうそんなとこまで」
「そろそろ、夕食を兼ねて休憩にしようと思います」
「えーと、ここから一番近いのは…」
「それはたぶんもう無理ですね。あと十分で日が沈みます。あと十分で辿り着ける距離に町はありません」
「では今夜は野宿ですか」
「そうなります。では一度地上に下りましょう。飛べますか?」
「はい」
いつの間にか藤色の壁と天井は消えていた。
私は予め受け取っておいた水晶球を起動する。
私の背に翼が出現して、私を空へ引っ張りあげる。
この足に力が入らずなんとも言えない不安定な感覚には未だに馴れない。
私はなんとか下降し始める。
「やっぱり飛ぶのは苦手ですか?」
「いえ、まだ馴れてないだけで…」
「ゆっくり慣らして行きましょう」
私はゆっくりと下降していき、街道沿いの平原に降り立った。
「なんとか下りれた…」
私は確りした足の感覚に安堵する。
「アリアさん、夜営しますよ。ちょっと物を取ってくるので暫く見張りをお願いします」
フウカさんはトランクを地面に置いて広げて、入っていった。
「あのトランクどうなってるんでしょうか?」
とりあえず覗く事は止めて、適当に薪になりそうな小枝を集めて組んで、魔法で火を付ける。
フウカは幾つかの金網と氷の容器と水晶球を持って出てきた。
「?」
「ああ、これですか?当分の間の食料です。ソウジ君にお願いして、蓋開けたらすぐ食べれるか、焼けば食べれるようにしといてもらったんです」
「ソウジ君がやったんですか?」
「家の料理は殆どソウジ君がやってますよ。掃除は私が、洗濯は各自、料理はソウジ君かケイト、買い出しは私とケイトっていう役割分担ですので」
「フウカさんは料理はしないんですか?」
「お恥ずかしい話なんですが、料理は苦手で…魔法作るのは得意なんですけどね」
「多少覚えておいた方がいいですよ?」
「そうなんですけどね、どうも味音痴と言いますか、人の感覚を予想するのが苦手で…」
あー、確かにそんな節があった気が…
「時間を掛けて慣らしていけばいいかと」
「難しいですね、アリアさんはなんでも器用にこなしてそうですよね」
「まあ、殆どの事は…」
実は片付けが苦手だったりするが、言わなくてもいいでしょ
「やっぱり片付けとかも上手なんですよね?」
前に言ったかもしれないがフウカの机の上はアリアの机の上の数倍散らかっている。
「いえ、ちょっと片付けは苦手で」
「あっ同じですね、色々考えてるといつの間にか散らかっちゃうんですよね~」
「フウカさんって片付け上手なイメージがありました。いつも槍もコートもキレイですから」
槍はまともに使っていないだけだ。
コートは洗えばどんな汚れも取れるレン印のチートコートだからだ。
「そうですか?」
フウカは氷の容器から取り出した肉を金網に乗せて火に入れた。
「一、二、三…七匹ですか。アリアさん、ちょっと目をつぶっていてください」
いつの間にかフウカの手には緑色に輝く弓が握られている。
「へ?」
フウカは矢をつがえていないのに弓を引く
弓を引くにつれて、風が集まって矢を形作っていく
『穿て』
言葉と共に矢が放たれて遠くで血飛沫と断末魔が上がった。
「うっ…」
「見ると食べる気が失せるからと付け足すべきでしたね」
そして夜は更けていって、数時間ずつ交代で見張りをすることになった。
昼間殆ど寝てたから私が全部やってもいいと言ったが、全部任せたら悪いですからと押しきられてしまった。
月が真上に上がっている。
時折出てくる魔物に対して黒い柄で対処している。
アリアの持つ黒い柄からは真っ直ぐに赤い刀身が伸びている。
魔法剣クロヅカ
これがこの黒い柄の名前らしい。
エネシスの近くの洞穴に祀られてた所謂「抜けない剣」を柄だけ抜いてしまい、使えるからそのまま使っている。
確かに便利なんだ。
魔力を流せば自分の魔力に適性のある属性の魔力の刀身を形作ってくれる。
刀身の長さは自由自在、切れ味は折り紙つきだ。
どうも私の魔力は炎に適性があるらしく、刀身は赤く、時折火花を散らせる。
私はクロヅカをしまって、私の横で眠る少女を見る。
適齢期を迎えてこそいるが、未だにあどけなさが残っている。
その反面、言動にはそんなことはなくむしろ私よりも落ち着いているような気さえする。
「不思議な人です」
そしてプライベートに謎の多い人物でもある。
今年の夏以前の記録が一切残っていないのだ。
国境を越えた巨大組織ギルドの情報網をもってしてもフウカさんの経歴はわからなかった。
まるでそれまで存在していなかったかのように。
「…むふふふ」
「不思議な笑い方してる…」
「そんなとこさわっちゃらめですよ…」
そんなとこってどんな所?
(※ケイトが勝手に机の上を片付ける夢を見ています)
もしかしてこんなとこ?
(※机の上です)
「やっぱりケイトさんとそういう仲なんだ…」
そういう仲です。
「らめですよ、そうじくんがみてるまえで…」
え?待って、彼も交ぜてるの?
(※机の引き出しを開けました)
(中からはごちゃごちゃと大量のレポートが…)
「ワンッ」
すぐ後ろにコボルトが居た。
「ニャーッ!!」
私は咄嗟にクロヅカを手にとって、魔力を流さずにクロヅカでコボルトを殴る。
クロヅカがコボルトの眉間を砕く。
直後クロヅカから赤い刀身が伸びて、コボルトの脳天を貫いた。
コボルトの体はたちまち燃え上がり、炭となった。
「どうかしました?」
フウカはむくりと起き上がり左手で目を擦りながら、右手で短剣を掴んでいる
「なんでもないですよ?ちょっと野犬が通っただけです」
「…そうですか」
フウカは短剣を置いて静かに眠りにつく。
いいところだったのに聞き逃した…
アリアはクロヅカを置いて冷え込んできた夜空を眺めた。
作者:「三周年目最初かつ今年最後の更新でした、お楽しみ頂けましたか?」
レン:「僕の出番は?」
作者:「ここだけだよ。では皆さん2017年はお世話になりました。遅刻してご迷惑をお掛けしたことも度々有りましたが今年も一年書けました。来年も書くのでよろしくお願いします。ではよいお年を~ヽ( ̄▽ ̄)ノ」