悪魔と魔王と拘束具
「コイツ使ってなんとかしといて、俺はちょっとやることがあるから、終わったら帰っていいからな?」
「りょーかい」
俺は注射器三本とソレ用の薬をレンに託して再び転移する。一旦リアルに戻って様子を見てくる必要があった。
まあ、ケイトさんが本調子なら今ごろ花園が展開されているはずだが、ちょっと怪しいから一応戻るってだけだ。
他意はない。
そうして一度部屋に転移して、家の中を見て回る。
浴室じゃない。
談話室じゃない。
食堂でもない。
談話室でもない。
残るは二人の部屋と壱なる門だ。
まあ、気配がないから居ないだろうと言うことでもう一度氷の工場に転移する。
「さてととりあえず準備…」
俺は醤油の樽の中身をかき混ぜて、トランクの中のアレコレを作業台の上に並べて、ニヤニヤしてから、作業小屋に戻った。
レンは書き置きを残して居なくなっていた。
『僕もお薬作ってくる』
サイドテーブルの上の瓶が空になっている所から察するに一度目が覚めたらしい
「無用心だな~、人ん家で熟睡してるよ。まあ、ある意味俺も同じだけどさ」
俺は外に出る。
「どうもこんにちは、こんな辺鄙な所でどうなさったんですか?」
俺の前にはプレイヤーが三人
「この辺にスゴイ錬金術師の小屋があるって聞いて来たんだけど?あんたがその錬金術師か?」
「いえいえ、錬金術師ではありますがそんな大した者じゃありませんよ」
「俺はその錬金術師を殺りに来たんだ。ダチがソイツの使い魔に殺されたもんで仇討ちってヤツだな」
「あー、こないだのミートペーストのお友だちさんですか」
「てことで、さっさと死に戻りしてくれよな」
「銀次郎には勝てないから俺の所に来たんだろうけど、銀次郎に勝てないのに俺に勝とうなんて無理だよ」
俺は支給品の刀を抜く
対して男は紫色のオーラを纏った戦斧を構える。
男は、飛び上がり斧に赤いエフェクトが掛かる。
「スキル:打墜撃」
「遅いな」
俺は攻撃をサイドステップで回避して男の首に刀を滑り込ませる。
刀は首を通り抜け、男は傷口から大量の血を吹き出し、ポリゴンとなって消滅する。
「はー、ああいう奴は弱い癖に絡んでくるからめんどくさい」
ワラワラと後から後から人が出てきた。
「皆さんお仲間で?仕方ない…全員まとめて相手してやる」
俺は刀を振って一度血糊を落とす。
数分後
「あーあ、血だらけになっちゃったな」
なんでこんなシステムにしたのやら…
どうせなら血糊もポリゴンと一緒に消滅すれば楽なのに…
血に濡れた手をコートの裾で拭ってページを捲った。
風呂入ったり、醤油の樽の中身をかき混ぜたり、刀打ったり、醤油の樽の中身をかき混ぜたり、晩飯作ったり醤油の樽の中身をかき混ぜたりしている内に夜になった。
我ながら忙しい日だった気がする
そんな事を考えながら俺は醤油の樽の中身を絹の布と綿の布で包んだ物を木枠の中に入れてソレを桶の上に置いて、その上に板、重石(氷の板)の順番で載せて生揚醤油を絞っている。
「これはこのまま放置でよし」
次は刀を仕上げないと
俺は作業を続ける。
何だかんだで仕上がる迄に一時間程掛かってしまった。
もう良い子は寝て、ゲーマーはログインする時間だ。
「あっやっと帰ってきたね」
「戻ってきて早々お前の顔を見るとげんなりするな・・・」
「いや居るの知ってたでしょ?」
「てっきりもう帰ったかと思ってた」
俺は仕上がった刀を壁に立て掛ける
「おじゃましてます」
「こんばんは、アオイさん。事前に連絡を頂ければ銀次郎を止めて置いたんですけどね。既に一戦やった後みたいですね」
そんな事は数時間前から知っているが
「そう、どんな戦闘内容だったのかは知らないけど内臓を幾つか潰されてたから結構重症だよ」
この会話も数時間前にしたあとだ。
「ここまで来たってことは、依頼ですね?」
「ソウジ君、もうちょっとなんか無いの?」
最近気になって居たが、レンは俺に対してアオイさんに対する何かしらを望んでいる様なんだが…さっぱりわからない。
まあ、レンの頼みなんか聞く気もないが…
「だって一応ここ、青髪の野良猫の名義で買ったエリアで、店舗兼作業小屋だし」
「ランが悪魔落ちして、暴走と鎮静化を繰り返してて危険な状態なので悪魔の力を抑制か制御を手助けできる物を探してるんです」
「ランさんが悪魔落ちですか・・・物に関しては探すより作った方が早そうです」
「だよね。僕が作ってもいいんだけど・・・下手に作るとどんな副作用が出るかわからないからね」
「副作用!?」
「当たり前でしょ?溢れる力を外的要因で無理矢理抑えるんだから多少の副作用は付き物だよ」
「下手に聖属性の物とか近づけると逆に強くなったりするかもだし」
「そうですか…」
「とりあえずアル君に聞いてみようか」
レンはウインドウを弄る。
「もしもし、アル君?ちょっと情報提供して欲しいんだけど」
『今、忙しい』
「政務でしょ?解ってるから。そのまま聞いてね」
『さっさと済ませろ』
「アル君のとこで悪魔が暴走した場合ってどうするの?」
『暴れるだけ暴れさせて力を全て放出させる。その後は力を抑制する拘束具で抑えつけて暴走が止まるまで待つ』
「それによる副作用とかは?」
『俺らは体が丈夫だから特に無いな。あぁ?謀反だと?すぐ行こう。ライト、後頼んだ。セイスティーネ、第三師団を連れていく。300秒で出発する、準備急がせろ。んでなんだった?』
「副作用は?」
『ああ、暴れて周りが被害を受けるかもな。後は力に耐えられずに内臓が破裂する程度だな。終わりか?なら切るぞ?』
「あっ、じゃあその拘束具を一式用意して執務室にでも置いといて」
『しょうがないな・・・レフト、暴走対策の拘束具を神界のレンの執務室に届けてくれ。それじゃあもう掛けてくるなよ?ブツッツーーツーー』
「だってさ、内臓破裂だって」
「レン、パッと執務室行って拘束具取ってこい」
「いや、もう取ったよ」
レンはウインドウに手を突っ込んで、引き抜く。
その手には重々しい印象を与える黒い拘束具が握られている。
「それでアオイちゃん、どうする?この拘束具を使うか、この拘束具をソウジ君に改造してもらうか、僕がこれと同じ効果を持った物を作り出すか」
「たぶんレンに任せるのが最善だと思うよ。なんだかんだ言っても神だし、こういう時は変な小細工はしない…しないよな?」
「流石にTPOはわきまえてるつもりだよ。」
「え~と、基本的にはこの拘束具と似た効果を付与できればいいんだよね?」
「いや、力を吸収してワイヤレスで拘束する方がロマンがあるだろ。どのみち力をどうにかしないといけないんだから」
「じゃあ力を吸収して別の何かに変換できるようにしよう」
「力を吸収して魔力に変換して回復効果を発動させるとか?」
「それなら悪魔の力をそのまま回復効果に変換しちゃおうよ」
「デザインはどうする?」
「そうだね~、この重々しいのはナンセンスだからね。赤にしようか」
「赤?」
「そ、僕が好きな色だから。加護が掛かったりするかもだし」
「まあいいか、赤ベースに銀か金か」
「じゃあ銀だね。金は成金みたいだし」
「まあ、なんかの弱点らしいし?」
「狼男とか吸血鬼とか魔女とかね」
「そうだっけ?」
レンは右手に赤色の腕輪を乗せて弄ぶ
「うーん、なんか違くないか?」
「えーそう?狼男じゃなかったけ?」
「いや、そうじゃなくて腕輪」
「そうだね、思ってたのと違うね」
「銀ベースに赤にしたらいいんじゃないか?」
「そうだね」
レンは腕輪を右手で隠して、左手から出す
「なぜ手品風?」
「なんとなく」
「赤いとこ光らせてみれば?」
「そうかな~」
腕輪の赤い部分が光出す。
「なんか不気味じゃない?」
「うん、稼働してる時だけとかにしよう」
「他にギミック欲しい?」
「俺は特に」
「意図的に流入したときに色を緑に変えない?」
「それ、なんか見たことあるぞ」
「ダメかな?ただ発光色が赤から緑に変わるだけだよ?」