そろそろ杖を直そうかな
作者:「四章本格始動です」
レン:「長いね~」
作者:「そんなに長くする予定じゃなかったのにな~」
ワイバーンの討伐依頼から二週間程が経った。
三回程街道沿いの魔物退治に参加した。
フウカにしてもソウジにしても転生したての頃よりかなり成長してギルドでは「期待の新人」と呼ばれるようになっていた。
中でもソウジの成長ぐあいはフウカを軽く越えており、転生当初はオーガ一匹と互角だったが今ではオーガをゴブリンかと思わせるような戦闘内容で既に新人と呼ばれる冒険者の中では頭一つ、いや二つも三つも抜けていた。
まあ、それもこれもVRと向こうの世界のお陰であることは言うまでもないが
ソウジ君のお話はどっかに置いといて…
フウカはドルクスの店に来ていた。
「んで、この杖を直すかーまあ出来ないこともないとは思うが・・・この業物を直すとなると、かなりいい武器職人と錬金術師が必要になるな」
「誰か、直せそうな方を知りませんか?」
「直せるかは解らないが、錬金術に人生捧げてる奴なら知ってるが…」
「何か問題が?」
「いや、ここからちょっと離れた所に居を構えてて行くにも手紙を出すにもちょっと苦労する所でな」
「そんなに遠いんですか?」
「そうだなー、なにせエネシスに住んでるて、途中に山脈があるから連結馬車で10日、単発馬車で行こうとすれば8日、途中で馬車を降りて歩けば7日って所だな」
「貿易都市エネシスですか。海浜領を治めてる方の町でしたっけ?」
「うむ、ある種アリシアの姉妹都市とも言えなくはないな」
「姉妹都市ですか?」
「ああ、彼処の領主とおやっさんはかなり仲が良かったと思った。距離があるからそんなに会ってはいなさそうだが」
「そうなんですか」
「にしても、俺は驚いたぜ?嬢ちゃんが男拾ってくるなんてさ」
「いえ、決してそういう関係ではありませんよ?ちょっと色々あって、頭を潰しちゃって」
「あの兄ちゃんよく生きてたな」
「幸い傷も浅かったですし、直ぐにポーションを飲ませたのが功を奏しましたね」
「だが、女パーティーに黒一点だと問題も多いんじゃないか?」
「いえ、大した事は無いですよ?」
「兄ちゃんも大変そうだな…」
「確かにいつも忙しそうにしてますね。それ以外の時は主に寝てますね」
「酷使しすぎだろ…」
「最近は仕事はあまりしてないんですけどね」
「いや、私生活の話さ。兄ちゃん相当気を使ってるぞ?」
「そうなんですか?」
「同棲中の二人の所に居候するぐらい気不味いと思うぞ?だから兄ちゃん、単独行動が多いんじゃないか?」
「いつもケイトと居るような気がしますね。私は一人で仕事とかその他雑務をこなしてる場合が多いのでよく知りませんが」
ドルクスは右手を額に当てる。
「それたぶん、お嬢ちゃんのフォローに徹してるぞ。フォローもして仕事もして鍛冶もしてるなんて働き者だな…ずっと寝てるのも頷ける」
「今度、なんかの機会に労ってあげた方がいいですよね…」
「そのがいいだろうな」
この日、ドルクスの中でソウジの立ち位置が居候から専業主夫に変わった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
同時刻、ケイトは家の談話室で読書に耽っていた。
ケイトが読む本は魔法書と歴史書が主だが、時には物語や伝記と言ったものも読む。
今読んでいるのは後者だ。
物語と言ってもこの小説みたいなラノベじゃなくてもっと確りした物語かつ短編物が多い。
そういった点においては吟遊詩人と呼ばれる人々の影響が大きいのだろう。
彼らは各地を移動しながら物語や唄にできる出来事を集め、それを歌や演奏に乗せて披露して見物料を取ることで生計を立てている(それだけじゃ賄いきれず冒険者の仕事を兼業していることも多いが)で
短い時間で沢山見物料を取るにはどうしたらいいのか?
答えは簡単
「解りやすい話を派手に幾つも披露すればいい」
つまり校長先生のお話とかみたいな長ったらしい話ではなく、短くてオチが派手な話を幾つも用意して置いて、魔法や演奏あるいは手品を交えて派手に披露するればいい。
そして吟遊詩人の作ったお話を纏めた本は巷に出回り安く民衆の理解を得やすいと言うこともあってか短編物の物語が多いのだ。
という勝手な蘊蓄はそこら辺に置いておき視点をケイトの向かい側に座って同じく本を読む少年に移す。
ソウジはケイトの読んでいる物とはまた違ったものを読んでいる。
彼は少し前にレンから貰って以来幾度となく開き、多用してきたソレ「継なる門」だ。
継なる門もここ数日で一気に内容が改変されて、外見は古ぼけた革表紙のままだが中は旅行ガイドブックみたいになっている。
たぶん暇を持て余したレンが継なる門の向こうの世界を大幅に改変したのだろうとソウジは推測しながらパラパラとページをめくる。
今までは解りにくい文章と魔法陣が書かれていたのだが、売って変わって写真と解りやすい簡潔な文章が書かれている。
恐らくこの文章の下の魔法陣に触れると転移するのだろう。
写真も多種多様で、森林が写っていると思いきやその隣のページには海の写真が乗っており、さらに次は山、次は湖とかなり自然豊かな空間になっている。
作者:「ソウジ君はレン君に頼んでミニチュアサイズの温泉を作って貰ったんだよね?」
ソウ:「そんなもの作って貰ってない」
コツコツ
ページを捲る音だけがする部屋に突然軽く固い物で窓を叩く音がした。
「ん?鳥?」
そこには白い無機質な小鳥が居た
ソウジは窓を開ける
「あ、それ私宛の鳥だわ」
「ケイトさんのですか」
鳥は窓から入ってきて部屋の中を一周するとケイトさんの上でホバリングしてその体を紙の巻物に変化させてケイトさんの手の上に落ちた。
「手紙ですか?」
「そうよ、手紙鳥って言ってね。ちょっと習得が難しいけど覚えると便利な魔法よ」
「鳥を作るだけなら俺でも出来ますけど?」
「この魔法はね、手紙の相手を自分で探して相手の所に飛んでいってくれるの。空気中の魔力を使って形を維持して飛行してくれるから距離に関係なく相手に手紙を届けてくれるの。連結馬車だと凄く時間が掛かるし、盗賊とかに盗まれる可能性も無くはないから、大事な事とか人に知られたくない事を手紙に書いたときはこの魔法がおすすめよ」
「スゴイですね」
「長い間、研究されて使いふるされた魔法だからね」
ケイトは手紙に目を通す
「ちょっとやってみますか『氷よ、汝は鳥、汝は風、汝は我が声となりて、此の物を彼方ヘ届けたまえ 渡鳥便』
ソウジの手の上に氷の卵が表れて、それはそのまま鳥に形を変えて飛び上がる。
ソウジは手元の茶菓子をサッ包み紙に包んで鳥に持たせる。
「届けてきてね」
鳥は窓から飛び出していった。
「うーん、嬉しいんだけど…今のタイミングかー」
「どうかしたんですか?」
「注文してた本が手に入ったらしいんだけど、場所がケルビンなのよ」
「絶対温度?」
「いや、ここの北にある町なんだけど馬車で半日ぐらいかかるから」
「馬車だと行って帰って一日、飛べば行って帰ってで半日ぐらいですね」
「そうなんだけど時間が掛かりそうなのよ」
ケイトは手紙をソウジに渡す
「御店主がケルビンの近くにできたダンジョンに潜ってて、御店主が金庫の鍵を持って行ってしまったらしくて、御店主の捜索に協力する事が依頼されてるの。金庫に件の本を入れてるらしいから依頼を受けるのが必須みたい」
「ダンジョンって言うとあの迷宮とかですか?」
「詳しくは掛かれてないからどんなかはわからないけど、たぶんそれで合ってる」
「そういった依頼が来るって事は相当難度が高いか、規模が大きいかですね」
「物資の運搬とか、罠の解除とか、見張りに、戦闘に、かなり大変だけどやるしかないんでしょうね」
「そうですね~、俺は少しこっちの世界のダンジョンに興味があるから行くのに賛成ですよ」
「フウカが戻って来てから考えましょうか」
ケイトは手紙を丸めてテーブルの上に置いて再び読書に戻った。
レン:「次回、最終回!!『それぞれの道を逝く』」
作者:「嘘言うな!嘘です、虚偽です、フィクションです。まだ続きます!今後ともよろしくお願いします」