秋口の翼竜討伐依頼
作者:「四章突入ーー」
レン:「三章終了から大分かかったね」
作者:「まあ、いいじゃん。ちゃんと四章入ったし」
収穫祭の翌日の朝
ケイトさんはいつも通りティーカップ片手に紅茶を啜っている。
俺は向こうから持ってきたコーヒーを片手に朝の静かな時間を過ごしている。
いつもドタバタしてる家の朝もフウカさんが起きてくるまでは静かな物だ。
フウカさんが起きてくるとレンが何処からともなく湧いて出てきて、一気に騒がしくなる。
「はあぁ…、おはようございます…」
噂をすれば影では無いがフウカさんが降りてきた。
「なんか今日は朝から疲れてますね」
「単刀直入にハッキリ言います。今、家の家計は火の車です」
「あれ?俺こないだ依頼受けましたよ?」
「ソウジ君はもう少しこの世界の物価に関して勉強した方がいいですね」
「はい?」
「一部例外を除いて冒険者一人当たりの一日の報酬の相場が金貨300~450枚で私達が一日の生活に使うお金は金貨50枚~500枚、だいたい一日一回依頼を受けて金貨50枚貯金できればいい方なんですよ。でも、私達はここ一週間ほどまともに仕事をしていません。それに続いて昨日のお祭りで私の貯金は底をつきました。と言うことで今日はガッツリ稼ぎます。2、3週間遊んで暮らせるぐらいに」
「2,3週間もですか!?」
「確かにそろそろ働かないとね。じゃあ今日明日でパパッと狩りまくって稼ごうか。幸いソウジ君のお陰で死体は腐らないし、フウカのお陰で荷物は増えないし」
「じゃあ久々にモンスター狩りしますか」
そして流れるようにギルドに来たわけで
「高額な依頼ですか」
「なんか緊急性の高い依頼ないかな?今なら即行で片付けて来るけど」
「移動可能範囲はどのぐらいまでですか?」
「どうでしょうね。ここからケルビンぐらいまでなら数時間ぐらいですねその先も行けないことはないですよ」
「そうですね。では皆さんにお願いしましょう」
アリアは一枚の依頼書を広げる
「こちらは南の山脈の麓の村々から寄せられた依頼なのですが、現状有効な手が打てていなかったのでお願いしますね」
「ワイバーンね、確かに私達が適任ね」
「ワイバーンって言うとあの飛ぶやつですか?」
「そうよ。ランクはB、でも実際飛ぶからランクがたかいようなものだからね」
「まあ、何とかなりますね」
「数と報酬はどうですか?」
「数は沢山、報酬は一羽当たり150枚、まあまあね」
「私は構いませんよ」
「質問、そのワイバーンは九割がた狩り尽くしても大丈夫ですか?」
「こちらでは特に何匹か残してほしい等といった要望は聞いていません」
「なら気にしなくてもいいですね」
「ではお気をつけて」
と言う感じに話は進んで30分程
俺達は風の翼と時魔法の併用で南の山脈まで来た。
ランクDとCの集団だが戦力的には一個大隊に匹敵すると思う。
特に時魔法によるサポートと空間魔法による広範囲殲滅とすこぶる速い移動速度を惜しみ無く使えば、国家転覆ぐらい軽いとすら思う。
まあ、今回はその力をワイバーン相手に奮うんだけど。
「では手筈通りに片付けてしまいましょう」
「このまま速度で圧倒する、捻りはないけど効果的よね」
「効率患者の方には喉から手が出るほどほしい能力ですね」
「凄い重宝してますよ。これと金貨に関してはレンに感謝します」
俺は時魔法により加速した動体視力でゆっくりと飛行しているように見えるワイバーンを見定める。
道中、ケイトさんから聞いたところによるとワイバーンはやはり竜種に含まれるらしい。
その甲殻は圧倒的な硬度と柔軟性を持ち、冒険者の剣戟はおろか軍艦の砲撃でさえも一切ダメージを許さない。
一部、体内魔力の利用で魔法を無効化する種もいるらしい。
聞けば完全無欠の超生物に思えるが、弱点もある。
逆鱗だ。
喉元の逆さに生えた逆鱗と甲殻の隙間を狙えれば、そのまま頚動脈なり脛椎なりを破壊して即死させることができる、骨に当たらなければだが。
なお、ワイバーンは上空の極寒から活火山の火口まで多様な地域で生息するため、その体は急激な温度変化にも強いため、その甲殻を煎じて飲めば一年間病気しないとかって話もあるが実際効果があるか?と言われるとそこまででもないらしい。
と色々凄かったり、そうでもなかったり、ラジ〇ンダリーなワイバーンが空を埋め尽くす程は言い過ぎだが、見てて吐き気がする程度に飛んでいる。
それを凝視して見定めようとしてみたものの全部同じに見えるから止めた。
「じゃあ早速、始めますか」
右手にいつもの刀、左手に魔法で作った氷の刀を持って飛翔する
「あっちょっとソウジ君!?」
「大丈夫ですよ、空中戦は初めてですがステップ踏みながらの攻撃はいつものことなので」
「フウカ、ソウジ君ってほんと前の世界で何してたの?フウカ?」
既にそこにフウカは居なかった。
直後、藤色の魔法陣が複数展開して消滅してを繰り返し、文字通り鮮血の雨を降らせる。
「ははは、金貨150枚×沢山…」
「うわぁ…」
「言わないどきましょう。それに関しては皆解った上ですから」
「お金ってそんなに大事かな」
「まあ、最低限は必要ですよ。豊富に生きるならそれ以上に」
「ソウジ君、あっち行ったんじゃなかったの?」
「ワイバーンと一緒に撃ち落とされたら洒落になりませんから」
二人は藤色の光が絶え間なく点滅し、血の雨が降り頻る下で小躍りする少女を見て、それぞれ思うところはあった様だが口にはしなかった。
こうして特に言うこともないぐらいにワイバーン討伐は順調に進んで、あっという間に視界内から一羽も残さず消え去った。
「それで、アリアさんに伝えた時間よりかなり早くメインイベントが終わっちゃったわけなんですが、これからどうします?」
「今からは街道沿いに戻りながら適当に狩って帰るわよ」
「途中の町で休憩してもいいし」
「じゃあ適当にやりますか」
そうして街道沿いに出てきた「はぐれオーク」を殲滅したりしながら移動して、俺達はとある森に来ていた。
道中捕縛した盗賊がゲロった所によるとこの先にアジトがあるらしい、それなりに有名な盗賊団らしい。
これも縁だ、と言うことでそのアジトだという森の中の砦を攻略している。
ちょっとしたゲームだ。
三人で別々の方向から攻めて、誰が盗賊のリーダーを捕縛するか競っている。
そしてフウカさんは無詠唱無し、俺は時魔法無し、ケイトさんは特に縛り無しでそれなりに大きな砦を攻略している。
んで俺は何処から入るのかと言うと
裏の勝手口から普通に入ります。
そしたら中に真っ黒でザワザワーって動く何かが居たりはしないが代わりに盗賊が二人居た。
とりあえず片方は鞘付きの刀で黙らせて、もう一人には氷の棘を土手っ腹にプレゼントする。
「さてと、それっぽい部屋を探すか」
俺は、隣の部屋に繋がるドアを蹴破った。
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その頃フウカはと言うと
「代替品はダメですね。まるで耐久性能がありません」
そういって薄紫の結晶が表面に析出したそれを放り捨てる。
杖を一本犠牲にして作った風の弓を引き、正面の天井に向かって放つ。
剃刀のような風の塊に穿たれた天井には歪な穴が開き、砂埃が降ってくる。
そしてフウカは上の階へ上った。
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そしてケイトは一際豪奢な扉の前で腕を組んでいる。
後ろには縛り上げられた盗賊が幾人も転がされている。
「どうやって開けようかしら」
蹴破るか魔法で吹き飛ばすか。
そしてケイトは観音開きの扉の鍵穴に短剣を突き立て詠み上げる。
『光よ、此物を消し飛ばせ! バニッシュ!』
短剣の切先から出た光は鍵穴に入って、他に何も見えなくなる程の閃光を放つ。
そして閃光が消えると、扉の鍵は綺麗に消滅しており、その痕跡は扉と床に残った溶けた金属のみだ。
「ふう、たまには魔法も悪くないわね」
扉の向こう、部屋の真ん中にはそれなりに高そうな椅子でふんぞり返っている男がいた。
「客が来るとは聞いてないんだが?」
「だって客じゃないもの」
「遠路はるばるご苦労様です。なんならここに泊まっていくか?」
「いいえ結構よ」
ケイトは短剣を男に向ける。
「いい女がそうカッカするもんじゃねーぞ?いい女はいい男に媚び諂うだけで遊んで暮らせるんだからな」
男は傍らに置いておいた斧を手に取る。
とほぼ同時に、左隣の壁が一瞬で粉塵に変わる。
「やっと見つけましたよ賞金首さん」
「なんだお友達が居たのかよ。んじゃ後は友達同士ごゆっくり。俺は退散するからさ」
賞金首は部屋の奥の窓に向かって走る。
そして窓まであと少しの所で上からアクション映画の如く窓をぶち破って少年が突入してくる。
賞金首は運悪く窓と一緒に蹴飛ばされる。
「あー、誰か蹴っちった…すみませんね。見えなかったから…あっ賞金首じゃん!」
「結局全員集合しましたね」
「賞金首どうする?」
「縛って近くの町にポイしたらどうですか?後のことは警備兵なり騎士団なりギルドなりがやってくれますよ」
「そうしましょう。ついでに町で休憩しましょう」
「絶対後者が本音ですね」
「盗賊退治がついででしょ?」
「そうでしたね」
そうして俺達は盗賊団をまるっと丸ごと藤色の箱に放り込んで町に向かって飛んだ。