戦闘開始!?旬の料理対決
フウカが町の外周を飛行している頃、ソウジは月光の竹林亭の前に居た。
そこには簡易の作業台が幾つか並べられており、その上にそこらで売っている調理器具が並べられていた。
『今年も食べ物が美味しい季節が巡ってきましたね』
何処かから電子音に近い無機質な音声が響く。
『いつもお世話になっております。月光の竹林亭の支配人でございます』
声質からして男性だろう。
『旬の料理対決にご参加の皆様、本日は存分に皆様の料理を家の料理長にぶつけてください』
これが開催宣言か…
『まあ、家の料理長には到底及ばないでしょうが…』
今のはちょっと頭に来た。
そっちがそう言うなら、こっちも異世界の料理を存分に堪能させてやる。
電子音が止まり、花火が打ち上げられる。
それとほぼ同時に料理人達が一斉に作業を始めた。
「それじゃあ始めるか」
ソウジは左手に意識を集中させつつ継なる門を開いた。
その頃ケイト達は朱雀通りの茶屋のテラスで休憩していた。
テーブルには色とりどりの甘味が並んでいる。
秋らしい所があるとすれば黄色系統の色の甘味が多いことだろうか
「ケイトさん、そんなに飲んだらお酒が入らなくなっちゃいますよ?」
「お酒と紅茶は別腹よ」
「そんな言葉初めて聞きました」
ツバキはパンプキンパイを口に運ぶ。
「それにしても最近はかなり賑やかになったわね」
「そうですか?ここ数年はさして変わらないと思いますよ」
「私が子供の頃はもっと沈んでたからさ」
「そう言えばそうでしたね。あの頃はまだ停戦してから十数年しか経ってなくて、よく男の人が戦場に借り出されてましたね」
「そうだったんですか?ゼレゼスは余りそう言うことはありませんでしたが」
「王都なんだから当たり前でしょ?」
「王都は北とも帝国とも近いし、帝国との緩衝材だった商人も北に行って何時停戦が破られてもおかしくなかったからね。確かに今でも帝国との国境は警備が厳重だけどエネシスでは海路で帝国からの品も入ってきてるらしいし、その内停戦も終わるでしょ」
「終わるといいですね」
そんな三人の脇を颯爽と歩いていく悪魔と猫が一匹
「ヤツが居ないと平和だな。なあライト?」
「マスター、あくまでもここは敵地ですにゃよ?もう少し緊張感を持ってくださいにゃ」
「今日は皇帝としてではなくレンの世話になってる一人として遊びに着てるんだ。それにここはお祭騒ぎだ、張り詰めた空気を出してたら逆に目立つだろ?」
「確かにですにゃ…」
そのまま目立たずに猫と悪魔は朱雀通りを歩いていった。
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そして話は月光の竹林亭の前に戻る
ソウジの作業台には普段通りの格好をしたソウジと女体化したソウジが並んでおり、時折魔法陣からアッチの世界で霞と呼ばれる姿のソウジが出てくる、不思議な光景が繰り広げられていた。
「明日の俺、あとは任せた」
「わかった、あとは任せろ。今日の俺、下準備終わったか?」
「今終わった、次の行程行くから明後日?の俺は火を用意してくれ」
「じゃあ代わりにコレ捏ねろ」
「了解なり」
◇◆◇◆◇◆◇◆
作者:「訳わかんなくなってきた…」
ジン:「要するにだ、明日と明後日のソウジが今日に来てるだけだろ?」
作者:「それによる未来への影響は無いわけ?」
ジン:「その影響が反映されるのは『本来、ソウジが取る筈だった行動と違う行動を今日のソウジがしたとき』だから、明日のソウジはその影響を受けて変化しながらここに現れる。よって影響はあるが問題はない」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「即席巨大ガスコンロ作ってきた」
「システムアシストと物理法則と魔法の合わせ技は強いな」
「お前がそれ言う?」
「いや、そう言うお前もな」
なんだこの不毛な会話
三人?が今作ってるのは「黒猪と豚人と野牛の合挽き肉のハンバーグ」と「道中、八百屋で売ってたカボチャっぽい野菜と野芋こコロッケ」という家庭料理感満載の二品である。
アマチュアにしては手際がいいが他のシェフ達の作業台と比べると幾らか見劣りするのも事実なのだ。
「おい、まだかよ。俺もいい加減疲れたぞ」
それでもこの場で最も注目を浴びているのもまたソウジの作業台であるのは、たぶん一重にこの世界の物ならざる物をフル活用しているからと作業台の前で両手に刀ではなく片手にお玉、片手にしゃもじで大立ち回りしているソウジが理由だろう。
「しょうがないだろ?他のシェフが色々ちょっかい出してくるんだから」
「わかってるけどさ」
ソウジはお玉で飛んできたフォークを打ち返す。
なぜお玉を使っているのかと言うと、つい数分前、妨害行為が始まった頃に二刀を抜いたところ審判から『抜刀は危険なので禁止』とのことを言いつけられてしまったからである。
言ってる間にカボチャの皮が飛んで来る
ソウジはバッティングフォームを取る
「片手棍スキル:豪腕打ち!」
お玉が黄色に輝き、まんまバッティングフォームで皮を打ち、砕いた。
今日になってわかったことだが、エリアスでも向こうの世界で習得したスキルが使えるようになっていた。
「今度はこっちから行くぞ、両手棍スキル:アースクエイク」
ソウジは黄色いエフェクトを纏ったお玉としゃもじを地面に叩きつける。
するとソウジの前数十メートルで地面が揺れた。
「あい、衣付けたよ。カラッ揚げたって」
霞が出てくる
「イエス マム」
それに鉄板と油の入った鍋を見る明日のソウジが答える
「マムじゃない!マムだけど…お前にマムって言われるとなんかイラつく」
「肉丸めた、アツアツの鉄板は?」
今日のソウジは肉の乗った氷の板を持って言う
「アツアツの鉄板はそこな、もう出来てるから並べてくれ」
「二式 十文字」
お玉としゃもじが十字に振り抜かれて飛来物を弾く。
「きりがない」
「どけ俺!」
「ちょっと待っ」
肉を鉄板に移し終えたソウジは肉が乗ってた氷の板を縦に持って投げつける。
氷の板は回転しながら飛んで行き、さっきからちょっかい出してくる料理人の作業台を半分ぐらい切断して止まった。
「あっいけね、時間止めてあるんだった」
「やっちった…」
相手方は呆然と立ち尽くしている
「でも、アッチはアッチで包丁とか投げてきたし」
「お前はそれをまな板で砕いたけどな」
「そんなこともあったな」
そうしてソウジ達は異界間貿易をフル活用して料理を進めていった。
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そして再び、視点は三人にもどる
ケイトは広場のまん中で読書に耽っていた。
それが普段ならただ邪魔なだけだが、今は普段ではない。
周りには数十人の人が互いに意識しあいながら互いにパイを投げ合っている。
ツバキとユリはケイトとは別行動をして飛び交うパイの真っ只中でパイを投げている。
ツバキは二発被弾して、ユリは一発被弾した。
ケイトに向かってパイを投げる人はもちろん少ない。
今はコレでも前は一応領主の娘だったからというのが主な理由である、だが一発も当たっていないのにはもう1つ理由があった。
ケイトに向かって飛んできたパイはケイトから半径数十センチの所でまるで見えない壁にでもぶつかったかのように飛び散り、パイは空中に痕跡も残さず地面に溢れた。
「便利ですよね、アレ」
「あーゆう魔法は習得するのにもスゴいお金が掛かるからダメ」
「でも、いつかは覚えたいですね」
そう言った直後、ユリの顔面にクリームパイが炸裂した。
「ユリも当たってるし…」
「誰ですか!コレ投げたの!」
ユリは両手にパイを持ち手当たり次第に投げ始めた。
収穫祭はまだ始まったばかりだ。
作者:「今日もなんとか乗り切りました」
蒼次:「なんとかかよ」
蒼次(向こうの男の姿)(以後:蒼K):「しっかりやれよな」
蒼次(向こうの女の姿)(以後:蒼霞):「あー疲れた。やっぱり元の姿に比べると肩凝るんだよな~」
蒼次(女体化):「それな」
レン&ジン:「蒼次大集合回だな」