開催 内緒内緒の収穫祭
すがすがしい秋晴れの朝
私は部屋に入ってきた光を肌で感じて、張り付いた瞼を上げる。
日の入り方から察するにもう日の出からそれなりに時間が経っているのが解る
「えーと…今日は収穫祭でしたね」
「えっそうなの?じゃあ僕も遊んでこようかな」
レンが湧いてきているのはいつものことだから無視して、いつも通り着替える
「そうでした。ソフィアさんと一緒にお祭りを回るんでした」
「フウカ君って以外と女子力低いよね」
「別に必要がないからしないんですよ」
「僕はアウトオブ眼中なのね」
準備を整えた私はその場にレンを残して部屋を出る
「えっ僕は放置!?そんなことされたら僕、好き勝手動くからね!」
レンの声に対して反応する人は居らず、いつもなら飛んでくる筈のジンも来なかった。
そしてとりあえず談話室を覗いて誰も居ないのを確認してから食堂に入る。
食堂にはいつもより数人多くの人が集まっていた。
ケイトはいつも通り紅茶を啜っている。
その向かいにはここ数日毎日顔を合わせていて、この家の地下の秘密も知っているソフィアさんと最近は忙しくて会えなかった戦場の華の二人ツバキとユリが並んで座っている。
四人は和気あいあいと会話に華を咲かせているように見えるものの、ユリとソフィア(特にソフィア)は少し言葉遣いが堅い気がする。
「おはようございます」
「遅いですよ。フウカさん」
「お邪魔してます」
「お久しぶりです、ユリさんツバキさん」
「そうでもないわよ」
「そうでしたっけ?ここ数日間が濃密すぎて感覚がボケてるみたいですね」
「ケイトさんから聞きましたよ、月光の竹林亭でバイトしてたんですってね」
「バイトって言ってもギルドを通した依頼ですよ」
「見てみたかったです。フウカさんの制服姿」
「あはは、また機会があったらですね」
「制服で思い出しましたが、フウカさんっていつもその格好ですよね」
「似た服を何着も持ってるだけで毎日同じ服を着てる訳ではないですよ?コートも洗える時は洗ってますし」
「そういえばフウカが服を買いに行ってるところを見たことが無い気が…」
確かにエリアスに来てから服を買いに行くことに必要性を感じなくなったから、さして気にせずにレン印の高性能な支給品を使っていた。
幸か不幸かレン印の服はどれも洗えばどんな汚れも落ち、物によっては防刃、防弾の効果を発揮する程の強度を誇って、なおかつ肌触りも良いものばかりだった。
白ばかりと言うことに目を瞑ればどれも最高の品質を誇っていた。
まさに神のクオリティーだった。
…でなんだかんだ服を買いに行く事が最近なかった訳で…つまりフウカ君の女子力は最底辺ってことだね。
「でも嬉しいな~僕の作品をそこまで高く評価してくれてたなんて」
とナレーションを朗読しながら厨房から出てきたレンは、食堂を横切って暖炉の中に入っていった。
「あれ、一昨日の知らない人さんじゃないですか?」
「あれは構うと五月蝿いから、基本的に無視することにしてるので気にしないで下さい」
ツバキはカップをテーブルに置いて少し考えてから発言する。
「待って、構う構わないの前に気にするべき所があるんじゃない?」
「あの暖炉はどうなってるんでしょうか、彼は上に上っていったのでしょうか?それとも隠し通路が?」
「あれはどん詰まりのただの暖炉よ」
「いや、そこじゃなくて。知らない人が家の中を歩いてるのが問題じゃないのか?って言おうと思ったんだけど」
「確かにそうですね。捕まえて警備兵に引き渡した方がいいのでは?」
「あれは警備兵の手に負えるような存在じゃないから無理ね」
「警備兵じゃダメなら騎士ならどうでしょうか?」
「あれをどうにかするなら監視員殿を召喚するしかないんじゃ」
『もしもしジン?レンが遊んでるが良いのか?えっ?有休消化中?レンの仕事が終わったからお前も休んでる?レンは放置して良いのか?あっそう?じゃあいい休暇を』
ソウジは肩で電話しながらベーコンエッグが乗った皿を六枚乗せた盆を持ってキッチンから出てきた。
「おはようございますフウカさん」
「おはよう、ソウジ君」
「ソウジ君はどうですか?勝てそうですか?」
「五分五分ですね」
「何か参加するんですか?」
「料理対決に参加する事にしたので」
「料理対決ですか、せっかくのお祭りだし私も何か参加しようかな…」
「俺は他に麦俵上げと烈火の栗拾いに参加するつもりです」
「ソフィアさんは?」
「私は今年も観戦だけにしようかと」
「じゃあ配達競争だけ参加しようかな」
「フウカさんは配達競争に参加しちゃうんですか?」
「置いてったりはしませんよ?ソフィアさんも含めて配達するので」
「私達は訓練も兼ねてパイ合戦ね」
「ツバキさん、やるからにはちゃんと避けて下さいよ?」
「大丈夫よ、今回は外套を着て参加するから」
「避けて下さい」
「なるべく頑張るから」
「じゃあ俺はそろそろ時間だから行きますね」
ソウジは食堂を出ていった。
「じゃあケイトさん、私達も行きましょうか」
「そうねじゃあそろそろ行きましょうかフウカ、戸締まりよろしく」
「はい、やっておきますね」
ケイト、ツバキ、ユリの三人も食堂から出ていった。
「じゃあ私達も戸締まりして行きましょうか」
「そうですね」
私は手始めに食堂の窓を閉めた。