フウカ 依頼最終日
作者:「はい、次回をもって閑話編を終了とします」
レン:「お引っ越し準備しないと…」
作者:「あとお気づきの方がほとんどだと思いますがタイトルを「ウインド」からウインド(元祖)に変えました。単に引っ越し先の「ウインド(新生)」と区別するためなので気にしないでください」
そして長かった五日間(実際は七日間)は終わりを告げようとしていた。
私は六回目になりだいぶ着なれたメイド服を軽く叩いて整える。
「さてと今日もお仕事始めましょう」
「そうですね」
二人はスタッフルームから出ていった。
▲▽▲▽▲▽▲▽
さてと、視点は移ってソウジとケイトはドルクスの店に居た。
「んで、兄ちゃんを引き入れたと」
「そうなの」
「うむ、言葉は悪いがやっぱりお嬢ちゃんってかなり尻軽だよな」
「だからソウジ君は愛人じゃなくてただの仲間」
「冒険者はパーティー内でそういう関係になる事も少なくないって聞くぜ?」
「私、男に興味ないから」
「だよな…オヤッサンも苦労するな。んで兄ちゃん、なんかお眼鏡に叶う品はあったか?」
「イマイチですね、硬度、重量、扱いやすさ、どれもまあまあです。消耗品としては優秀ですが、命を預ける物としては少し信頼性に欠けます」
「いや兄ちゃん、そりゃどういう意味だ?」
「要するに冒険しない冒険者向けの消耗品としては優秀だと言うことです。まあ、俺ならこいつと同等は言い過ぎですが責めてこいつと打ち合える程度の硬度は欲しいですね」
ソウジは刀抜き、手近にあった片手用直剣を手に取る
「ちょっとソウジ君!?」
片手用直剣と刀の刃を向かい合わせて、刀を振り下ろす。
キンッ
片手用直剣まるで端から切られていたかのよに切断された。
刀の方には傷一つ見られない。
「柔らかっ!何使ったらこんな柔らかい剣が出来るのか俺にはわからないな」
「兄ちゃんその剣はなんだ」
「これは知り合いに貰った物なんだ。ドルクス殿も武器屋の端くれなら鑑定ぐらいできますよね?」
ソウジは刀を鞘に戻してカウンターテーブルの上に置く。
ドルクスは刀を一瞥して頷く
「この剣を打った鍛冶師はフウカの嬢ちゃんの槍を打った奴だな」
「おおー、やっぱり見れば判るんですね」
「まあ、これが解りやすかっただけだ。何しろそれらしい傷が見当たらない上にこの硬度でこの切れ味、ここまでの業物はそうそうお目にかかれる代物じゃねぇからな。このレベルの物を打てる人間は世界に一人いたらいい方だろうな」
そして刀をカウンターテーブルに戻した。
「大方正解ですね。じゃあこのやわやわ剣がダメなのは使っている鉄の方に問題がありそうですね」
ソウジは刀を腰に戻しながら言う
「やわやわ剣って、それでも家の剣の中では高い方だぞ」
「ソウジ君、さすがにその刀と町の市販品の剣を比べるのはちょっと違うと思うわよ?」
「これでも支給品なんですけどね。試しに俺が打った剣も見てくれませんか?」
「兄ちゃんも鍛冶師だったのか」
「いえ、そんな胸を張って言えるような腕ではありませんよ。鍛冶って言っても趣味程度で最近主にやっているのは錬金術なので」
「おお、それはそれで良いじゃないか。なんだかんだ言って戦士より魔法使い、鍛冶師よりも鋳物屋、武器職人よりも錬金術師のが優遇される世の中だからな」
「別に魔法使いが戦士より優遇されるなんて事はあんまりないわよ。敵を引き付ける前衛が居てこその高威力の魔法を撃てる魔法使いなんだから」
「これが俺が打った剣なんですけど」
ソウジはトランクから一振りの刀を取り出してカウンターテーブルに置く。
これはソウジがリアルでも二刀流を使うために作成している刀で、杖の代わりになるかつ魔法の付与に適した刀と言う理想の二本目をコンセプトとして設計されている。
「うむ、剣として使うには使うには少し脆い気がするな。切れ味もそんなに良くなさそうだ、ただ杖として使うならそれなりに使えそうではある」
ドルクスはそっと刀を戻す
「そうなんですよ、ミスリル銀鉱石を精製して玉鋼と混ぜて魔力とミスリル水晶の粉末を練り込んだんですが、どうも練り込んだ魔力と金属が何らかの反応を起こしたらしく硬度は上がったんですがとても割れやすくなってしまっていて」
「へ~そうなんだ、それじゃあその刀はスライム相手ぐらいにしか使えないわね」
ケイトは刀の柄を持ち持ち上げる。
「重いわね、ほんとにこんなの戦闘で振れるの?」
「俺はいけますけど」
「ふーん」
ケイトは正眼に構えて振る
そして勢い余って切っ先が石畳の床にぶつかる。
「あっ!」
「え?」
ピシッ、カシャン
刀の切っ先から三寸程が割れて石畳の上で粉々になった。
「兄ちゃん、よくあんな脆い剣を打てたな。尊敬するぞ」
「ガラス細工並みに精神磨り減らして打った刀が…」
「ガラス細工って確かにガラスみたいな音がしたけど」
「お嬢ちゃん、今物凄く高い物を壊したぞ」
「別にミスリルぐらいならすぐ手に入るわよ」
「ミスリル純鉱石って言ったろ、相当純度の高いミスリルだったんだろうぜ、更にミスリル水晶だろ。武器としては二流品だったが貴金属としては一級品だった訳だ」
「別に材料に関してはどうでもいいんですけど、やっぱり自分で作った物には愛着が湧くわけで」
「あっそっちか」
「そっちなの?」
「材料はまた取りに行くとして、どうやって仕上げるかだな」
「おっ兄ちゃん切り替え早いな」
「こんな失敗はよくあることなので、失敗したら次を考えることにしてるので」
「まあ、お互い頑張ろうや」
ドルクスとソウジは武器を作る者同士の絆(?)を作った午前中だった。
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そして時は流れて…夕刻
西に傾いた日に照らされてアリシアの町並みが黄金に輝いているように見えなくもない
「ホントに今日が最後なんですね」
私はメイド服からいつもの服装に着替えて竹林亭の前でソフィアさんと話していた。
「今回の依頼はそうですね」
ソフィアの顔は逆光になっていてよく見えないがなんとなくどんな顔をしているのかに想像つく。
「ソフィアさん、一つ我が儘を言ってもいいですか?」
「内容によりますよ」
「この服を頂いてもいいですか?またいつかソフィアさんの頼みを聞くために」
「えっ?」
「今回の依頼は今日までですが、また依頼を受けることもできる筈です。それにこの前話してくれた正規雇用の話もいつかは引き受けれるようになるはずなので」
「ふふっいいですよ。代わりに今度私の我が儘も聞いてくださいね?」
「内容によりますよ」
「フウカさんは明日暇ですか?」
「空いてますよ」
「明日、収穫祭なんですけど一緒に回りませんか」
「あっ例の収穫祭、明日なんですか」
「他の人には内緒ですよ?」
これは決まり文句だ
今日は沢山のお客様が同じことを言っていた。
「他の人には内緒です」
「じゃあ明日の朝八時頃に迎えに行きますから、ちゃんと寝て下さいね?お祭り回ってる途中でひっくり返っちゃ嫌ですよ?」
「心配かけますね」
「もうフウカさん、冗談じゃなくてちゃんと寝て下さいね」
「なるべく寝ますよ。ではソフィアさんまた明日」
「はい、また明日」
そして私は家に帰るために黄昏の朱雀通りを歩いていった。
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その頃、ソウジは金物屋に居た。
「もっと大きな平鍋ありませんか?」
「これ以上の大きさとなると新しく作るしかないな」
「そうですか、じゃあこのサイズの平鍋で頑張るしかないか…」
「なんだい兄ちゃん、店でも初めるんか?」
「収穫祭の料理対決に参加しようと思って」
「余程腕に自信があるみたいだが止めといた方がいいぜ」
「なぜ?」
「あれは料理対決とは言っているが半分戦闘みたいなもんだからな」
「戦闘なら得意なので大丈夫ですよ。俺、見ての通り冒険者なんで」
「でも今からじゃ特注しても間に合わねーな。収穫祭は明日だからな」
「そういうの解るんですか?」
「実は裏で回覧板が回ってる、この事は内緒だぞ?」
「内緒なんですね…」
「そういう伝統だからな。収穫祭の事は当日まで秘密にする、もし喋る時は最後に『内緒である』の意の言葉を付けるってな」
「そういう物ですか…」
「そういう物だ」
ソウジは大きな平鍋を三枚買って帰っていった。
そして内緒内緒で収穫祭の準備は進められていった。