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再開の宝箱~洞窟に潜む罠~

作者: とらまさ

「小説家になろう」初投降です。とりあえず、色々手探りな感じです。よろしくお願いします。*一応、見やすくした方もあります。

 王都から離れたとある農村。その近くに、不気味なくらい木々が生い茂った森がある。

 森の奥深くにはひっそりと口を開いた洞窟の入り口あり。中には山賊が隠した財宝が眠っているとの噂だった。

 だが、森へ入った者は誰一人として戻ってこない。ゆえに宝を持ち帰った者はいない。


 話を聞いたイリスは、村人の忠告を無視して森の中へと足を踏み入れる。

 その手にはボロボロになった一通の手紙が握られていた。

『すまない。困った事になった。帰れそうにない』

 短い文面と共に記された村の名前。彼女の婚約者からの最後の手紙だった。



「っ――」

 目を覚ました時、最初に感じたのは全身を駆ける痛みだった。

 イリスは冷たい岩肌に横たわった身体を起こし、周りを見渡した。

 新月のような闇が洞窟内を満たしている。松明を持っていたはずだが、手元から無くなっていた。

「仕方ない……」

 イリスは懐からライターを取り出した。

 パッとついた小さな炎が、目鼻立ちの整ったイリスの顔とその周囲を照らし出す。

 すると、目の前に見知らぬ少女の姿があった。

「うわっ!」「きゃぁぁぁぁ!!」

 イリスが、そして少女が驚く。

 少女は伸ばしていた手を引っ込め、慌てて距離をとった。

「ごごご、ごめんなさい」

 ひどく怯えた様子で謝る少女。年は十三かそこらだろうか。

 儚げな印象を受けるその顔立ちは、まだ幼さが残っている。

「わ、わたしマリアンと言います。皆はマリーって呼んでます。事情がありまして今は森で暮らしています」

 マリーと名乗った少女は日々の苦しい生活の表れなのか、みすぼらしい恰好をしていた。

 伸びに伸びきった長髪に、ボロボロのワンピース。痩せ細った手足が彼女の境遇を物語る。

「ここへは山菜を取りに来たんです。でも、運悪く足を踏み外してしまって……。

 そしたら、お姉さんがいたので息を確認しようとしてました」

 少女マリーは自身とイリスの置かれた状況を淡々と説明してあげた。

 イリスはライターを掲げると、頭上を見上げる。淡い光は闇に溶け、天井までは届かない。

「踏み外すなんて、勘が鈍ったかな……」

 現役の頃ならこんなことなかったはずだと、イリスは一瞬苦い表情を浮かべる。

 だが、幸いな事に壁面はでこぼこしており、登る分にはそれほど苦労しなそうだった。

「あとは、くっ……」

 立ち上がろうとすると、腰に激痛が走る。落下の際に強く打ち付けたのだろう。

 このままでは壁を登るどころか、歩くこともままならない。

 やむなく、イリスは痛みが引くまで身体を休めることにした。

 そんなイリスの様子を、マリーはじっと観察するように見つめる。

「あの……お姉さんは冒険者ですか?」

 マリーの視線は、イリスが腰に下げた鉄の剣に向けられていた。

 それは決して高価なものではないが、使い慣れたイリス愛用の装備であった。

「うん。でも『元』だけどね。最近は剣より包丁を握る方が多かったから」

 数年前、イリスは子供が出来たのを境に冒険者を辞めた。お相手は同じ冒険者の戦友だった。

 その後は夫の帰りを待ちながら、家事と子供の世話に専念してきた。もう二度と剣を握ることはないと思っていた。

 しかし、そんなイリスが再び冒険者に舞い戻ることになったのは、あの一通の手紙だった。

 隠す必要もないからと、イリスはマリーに自身の目的について白状する。

「旦那は次の冒険を最後に、子供と三人でのんびり暮らしたいって言ってたの。

 でも、あの人は帰らなかった。代わりにこの手紙が届いたの」

 手紙に記された村の名前を頼りに、イリスはこの洞窟へと辿り着いた。

 文面から只ならぬ事態が起きたのは間違いない。

 冒険者とは常に危険と隣合わせの職業だ。だから、もしかすると夫は既にこの世にいないのかもしれない。

 それならそれで確証が欲しかった。いつまでも落ち着かない気持ちで待ち続けることが、イリスには耐えられなかった。

 手紙を握るイリスの手に、自然と力がこもる。

 すると、マリーは揺れる炎に照らされながら、あどけなさの残る顔に微笑みが浮かべた。

「大丈夫ですよ。きっと、また会えますから」



 暫くして、ようやく腰の痛みが引いたイリスは立ち上がる。

「さて、私はそろそろ行こうと思うけど、あなたも行くでしょ?」

「あ……いえ、わたしは足がよくないので」

 そう言って、マリーは布越しに足を擦っていた。

 落下した時に挫いたのか、元々悪いのかはわからない。どちらにしても、自力では壁を登れないという。

「だったら背負ってあげる。それなら問題ないわよね」

 マリーは辛い心境に共感し、励ましてくれた。そんな彼女を放って行くなど、イリスにはできなかった。

 これでも昔は冒険者として、大陸中を駆け回ったものだ。華奢な少女一人抱えて登るくらい、なんてことはないだろう。

 しかし、イリスの提案にマリーはすぐには同意しなかった。代わりに少し考え込む仕草を見せる。

「もしかして嫌だった?」

「あ、いええ。その……出ていく前に、お姉さんに見せたいものがあるんです」

「見せたいもの?」

 すると、マリーは自身の背後に続く洞窟の横穴を指差した。

 底知れぬ闇に包まれ、先の見えぬ道。頬を撫でる冷気がその奥へと吸い込まれていく。

「本当は秘密なんですが、お姉さんには特別に教えちゃいます。

 中身はわたしも見たことがないんですが、この奥に誰も開けたことのない宝箱があるんです」

「宝箱……」

 マリーの言葉に、イリスは村人から聞いた噂を思い出していた。

『山賊が隠した財宝が眠っている』

 夫も冒険者の端くれなら、そのお宝を狙ったはずだ。ならば、その場所に向かった可能性は高い。

 一通の手紙から続く、唯一無二の手がかり。ここでそれを逃すわけにいかなかった。

「わかった。見てみよう」

 イリスは用心して剣を引き抜くと、慎重に暗闇の中へと進みだした。


 横穴を抜けた先の行き止まりに、それは忽然と置かれていた。

 宝箱。そう呼ぶにはあまりにも大きく、まるで棺のような印象を受ける。

「ちょっと、これ持ってて」

 周囲にモンスターの姿がないことを確認すると、イリスは剣を収める。

 そして、ライターをマリーに渡し、片手では開かない宝箱の蓋に両手を添えた。

「ぐっ、結構重いわね……」

 重厚な蓋に体重をかけるようにして押し上げる。音を立てながら、箱がゆっくりとその口を開き出した。

 中から埃っぽさに混ざって、血の匂いが漂ってくる。盗賊が集めたものだけあって、奪った持ち主の血が付着しているのかもしれない。そういうこともあり得ると、イリスは過去の経験から推測していた。

 最後に特段大きな音をあげ、箱が完全に開放される。

「これは……何か、ある!」

 中を覗き込むと、薄ら白い塊が見えた。宝石の類にしては大きく、色もくすんでいる。だが、ただの石ころにしては形が整いすぎているようにも見えた。

 何にしても、底が深くて暗いままでは判断もつかない。

「灯りをもう少し近くに!」

「は~い」

 マリーが軽薄な口調で返事を返していたが、この時イリスはその事を気に留めることはなかった。

 冒険者の性なのだろう。お宝を前にしたイリスは心を躍らせ、その姿を一目拝みたいという気持ちで一杯だった。

 うまいこと窪みに指を引っ掛け、イリスは球体に近いそれを引っ張り出す。

 背後から照らす淡い光が、持ち上げたそれの姿を鮮明に映し出した。そして――

「ひぃっ――!?!?」

 イリスは驚きのあまりに、掴んだそれを投げ捨てた。

 身を引こうとしたその瞬間、突然宝箱の蓋が閉まる。それはとてつもない重量であり、凶器だった。

 劣悪な刃を備えたギロチンのように、挟まれたイリスの腕が二の腕からばっさりと食いちぎられる。

 よろつきながらどうにかバランスと保とうとする、イリス。だが、不意に両足を掴まれ転倒した。

「なにが起きて――!?」

 倒れ込んだイリスは顔を上げ、自分の足元を見た。

 程よく肉がつき健康的なイリスの両足。その足を宝箱から伸びた腕が掴んでいたのだ。

「綺麗な足。丁度新しいのが欲しかったんです」

 声に反応して振り向くと、マリーが横たわるイリスの傍まで歩いて来ていた。

 その時、必然的に衣服の間からマリーの素足が目に入る。

 マリーの両足は太もも辺りから、まるで別のパーツを取り付けたかのように縫い付けられていた。しかも左右が不揃いのように、骨格からして別の物に思える。

「あなた一体……」

 この少女は人間ではない。イリスは驚愕を通り越して、恐怖の色をその表情に浮かべる。

 いま思えば、少女の言動には怪しむべき点がいくつもあった。

 誰が来るとも知れぬ洞窟にいて平静だったことや、誰も持ち帰れなかった宝の場所を知っていたことも、疑問に持つべきだった。

 儚げな少女を装ったそいつは、イリスが隙を見せるその瞬間を虎視眈々と待ち続けていたのだ。

「ぐっ、情けない。せめて一太刀!」

 殺意を込めた一撃を浴びせるため、剣に手を伸ばした――その時。

「……え?」

 宝箱の方から、忘れようもない彼の声が聞こえてくる。

 慌てて振り返ると、イリスはその相貌を見開く。

「イ、リス……イリ、ス……」

 灯りに照らされた宝箱の側面に、紛れもなくイリスの夫の顔が浮かび上がっていたのである。

 それは口の部分を動かしながら、イリスがもう一度聞きたいと願っていた声で、何度も名前を呼んだ。

「だから言ったでしょう。また会えるって」

 マリーの明るい声に、再開を祝う乾いた拍手が続く。

 込み上げてきた想いに、イリスの唇が震えていた。

「本当に、あなたなの……」

 まだ信じられないイリスは、足を掴む手に銀色に輝く指輪を見つける。

 疑惑は確信へと変わる。見間違うはずなどない。それは二人の結婚指輪だった。

 イリスは身体を曲げて、氷のように冷たくなった夫の手に触れた。

 すると、堰を切ったように、イリスの瞳から大量の涙が溢れだす。

「うそでしょ! こんなの――!」

 やりきれない想い。亡くなってても仕方ない。そう口にしながらも、心のどこかでは生きていると信じていた。

 それがこんな形で打ち砕かれようとは思いもしなかった。

「うんうん。手紙を書いてもらった甲斐がありました」

 イリスの嗚咽に混じって、岩肌にぶつかる金属音が響き渡る。

 マリーは転がっていたつるはしを引きずりながら、イリスの元へと近づいた。

 振り下ろされる死神の鎌。だが、イリスは最後のその瞬間まで、愛する夫の手を離そうとはしなかった。



「やっぱり家族は一緒が一番ですね」

 宝箱に腰掛け、少女は新しくなった足をぶらつかせる。

 見下した視線の先には、指を重ねた二つの手。そして、宝箱の側面に男女の顔が浮かび上がる。

「そうだ。せっかくですし、次は子供も仲間に入れてあげましょう」

 少女は飛び降りると、手にしていた頭蓋骨を宝箱の中へと放り投げた。




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