第一話「幽霊」
青空の下、周りを草木におおわれた田舎道をいつもより楽しみに歩く。
今日は学校に転校生が来るという。
この見渡しても田んぼと山しかない田舎村に、わざわざ引っ越してくる人なんて生まれて初めて見る。
もうすぐ夏休みっていうこの時期に転校してくるのも珍しいな。
「おはよー、ユウキ君」
後ろから声をかけてきたのは一つ年下のタケヒコだ。
みんなからは「タケ」って呼ばれてる。
俺はタケにあいさつを返すと、さっそくあの話題を出した。
「そういえば知ってる? 昨日また学校に幽霊出たんだって!」
「うん、お母さんから聞いた。朝学校の窓ガラスが割れてたんでしょ? 嫌だなー僕」
最近この村の話題はこの幽霊の話で持ちきりだ。
初めて幽霊が現れたのは一週間前、朝学校に行った校長先生が鍵を開けると、職員室が少し荒らされていたという。
最初は強盗かと思ったが特に盗られた物もなく、そもそもこの小さな村にそんなことをする奴はいないということで、その件は悪ふざけで幽霊のしわざということになった。
だがその二日後。またもや今度は図書室で本棚が倒される事件が起こった。
しかも図書室の中には人間のものではない、動物の足跡のようなものが残っていたという。
もちろん学校の窓やドアには鍵がかかっており、職員室も図書室もしっかり施錠されていて、そして事件は皆が学校から帰った後から、校長先生が鍵を開けに来る朝までに行われている。
最初こそ面白がっていた俺たち子供も大人たちも、今では不気味でしかたなかった。
そんなときに転校生が来るという話を聞いて、今日の学校への足取りは少し軽かったのである。
「ユウキ君、幽霊の正体って何なのかな?」
「んー。それはやっぱり死んだ人間なんじゃないか」
そう言って俺は両手を顔の前で揺らして幽霊のまねをした。
「やめてよー! でも何で化けて出てきたんだろうね。本当に幽霊なのかな……」
しばらくすると俺たちが通っている小学校の校舎が見えてきた。
全校生徒たったの五人。いや、転校生が来るから合わせて六人の小さな小学校。
昔はたくさん生徒がいたそうで、校舎だけは無駄に立派である。
「おはよー! みんな早いねー」
教室に入ると残り三人の生徒はすでに席に着いていた。
「おはよう。転校生が楽しみで早く来ちゃった!」
そういってニコッと笑っているのは、俺と同じ五年生で幼馴染でもあるユイだ。といってもたった五人しかいないので、全員幼馴染といってもいいのだが。唯一同い年ということでよく一緒にいるため仲も一番良い。
「おっす! 今日も暑いなー。あとで水浴びしに行こうぜユウキ」
肌をこんがり焼いて気怠そうに机に突っ伏していたのは、この中で一番年長者である六年生のダイチだ。体が大きく腕っぷしも一番だが、一番仲間思いであるのもダイチである。むかし野生のイノシシを一人で捕まえた伝説持ちだ。
そして最後の一人、俺の妹のハルカ。二年生なので一番年下になる。最近早く行って勉強するとかで先に学校に行くのだが、要は恥ずかしいから一緒に登校するのが嫌らしい。早起きしているので俺が着くとだいたい眠っている。今もスヤスヤと眠っているので頭を叩いて起こしてあげた。
それから担任の先生が来るまでみんなで幽霊の話や転校生の話で盛り上がっていたが、しばらくするとチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。いつも通り幽霊についての話をしばらくしたあと、いよいよ転校生の話題に移った。
「それじゃあ入ってきてー」
先生が廊下に向かってそう声をかけると、一人の男の子が教室に入ってきた。