どうして彼は私を振ったの?
それは一目惚れだった。
大学の食堂でラーメンをすする彼を見たとき、雷が体に走ったような衝撃に襲われたのだ。たくさんの芋みたいな奴らの中で、彼は一際輝いて見えた。
そしてそんな彼に寄り添う腐った芋が一つ……
彼にはまったく相応しくない酷い見た目の女だ。本当に、誰がどこから見ても美人だなんて口が裂けても言えない。偏見なしに、本当に二度見してしまうほど酷い。
一方、私はこの大学のミスに選ばれたほど……まぁ自分で言うのもなんだけど美人だ。昔から容姿には自信がある。
どっちが女として優れているのかは、火を見るよりも明らか。
勝負は初めから決まっている――そう思っていたのに。
「ごめん、君とは付き合えない」
彼は私の告白を冷たく突き放した。
こんなことは初めてだった。いつだって私は男から言い寄られる側の人間で、私が微笑みかければ男たちの目は輝いた。
そんな私がどうしてあんなブスに負けるの?
こんな、こんなことが……こんな事があって良いはずない!
私は男に掴みかかった。
「なんでよ! あんなブスのどこが良いわけ? ほんと信じらんないッ」
男は無表情のまま私の手を振りほどいて突き飛ばした。
地面に倒れ込む私に、男はこんな言葉を吐き捨てていった。
「もう俺に近付くな、ブスはお前だ」
ショックで言葉がでなかった。
今まで生きてきた二十数年の中で、ブスなんて言葉を吐かれたのは初めてだったのだ。
最初の数日は怒りが収まらなかった。
ブス? この私が? アイツの目、腐ってるんじゃないの?
そんな事ばかり考えてしまって他の事には手が付けられなかった。
自分の輝かしい人生を振り返りこんな事ってありえない、と何度も呟いた。男を振るのはこの私で、振られる側じゃない。
それに! 振るとしても、あんな酷い振り方って――
あれ。
私、今までどんな振り方してた?
『あんたみたいなブサイクが私と付き合えるってちょっとでも思ってたの?』
『ほんとにキモイ。もう二度と私の視界に入らないで』
『話しかけないでよ、豚!』
ああ、そうか。
私は「ブス」だったんだ。性格ブス、心が醜い……あのヒトはそれを見抜いてた。
きっとあのヒトの彼女は心が清らかなのね。あのヒトは顔じゃなく、心を見て彼女を選んだんだわ。
私、見た目ばかりにこだわって大事な事を忘れていたのかもしれない。
……反省しなくちゃ。
そして数か月後、友達と歩いている時あのヒトとすれ違った。
彼の傍らには変わらずあの女の子が――あ、あれ?
違う女になってる。
「あの子別れちゃったのかな」
そう呟くと友人は彼を見ながら苦笑いを浮かべた。
「ああ、アイツしょっちゅう女変わってるよ。しかもブスばっか。ブス専なんだろうね」