天女は死神(後編)
「映画楽しかったね」
「あ、うん」
映画の内容的に少し照れ臭いものがあった為か、ぎこちない空気が流れる。
「さて、映画も観たことだし、帰るか」
「うん……」
当然のことだが、私は明らかにテンションが落ちていた。
恋人同士なら、これからどうする? なんてことになるのだが、私達はただの幼なじみ。
映画に付き合ってもらっただけ、よしとしなければいけないのだが、私には時間がない。このままでは間違いなく地獄行き――。
――地獄ってやっぱり最悪な場所なんだろうな。
「はぁ……」
「どうした? 疲れたか?」
「何でもない……何でもないよ」
強がってみせたけど、涙が流れていた。
「大丈夫じゃないじゃん」
心配そうに大翔が私の顔を覗き込む。
「映画を思い出しちゃって」
私は嘘をついた。
“あなたと結ばれないと、私は地獄行きなの。私には時間がないの”
そう言いたいけど、それは言えないこと。
そんな私を知ってか知らずか、デスプレートに鈍い痛みが走る。
結局私は大翔に何も伝えることが出来ず、貴重な一日が終わってしまった。
◇◇◇◇◇◇
余命六日――
死への恐怖と焦りから、あまり睡眠は取れなかった。
こんなに一日が短く感じるなんて。今まで生きてきて、どれだけの時間を無駄にしてきたかがわかる。
“行動を起こさなければ”
しかし、ごく普通の会話程度のメールのやり取りだけで、肝心なことは何一つ言えなかった。
その日から私は自分の殻に閉じ籠ってしまった。
正に諦めモード。
気付けば私の命は残り一日に迫っていた。
余命一日――。
一か八かの覚悟で、私は一言だけメールを送った。
“会いたい”
携帯と睨めっこしてどれくらい時が経ったろうか? やっと返事が来た。
“いいよ。会おう。いつでもいいから連絡ちょうだい”
私はすぐさま大翔に電話を掛けた。
「もしもし、大翔。なるべく早くウチに来れない?」
切羽詰まった私は、大翔の都合を考えず一方的に話した。
「わかった。今から行くよ」
大翔の優しさなのか、気分よくそれに答えてくれた。
電話を切って僅か数分、大翔は来てくれた。
「この前もそうだけど、どうしたんだ? 何か最近変だぞ?」
「あのね……あのね」
切り出そうと思うが、言葉が続かない。
「頑張って」
ローズも応援してくれてる。
「あのね、私は……」
その一言が運命の別れ道――。
「あのね、忘れちゃった……」
「なら、俺が先に言いたいこと言ってもいいか?」
「別にいいよ」
私は心の準備をするために、先に言いたいことがあるという大翔に話を譲った。
「なぁ、俺達ってずっと昔から一緒にいたじゃん。小学校の頃、結衣に告ったの覚えてる? 実は今も気持ちは変わらない」
「それって、それって……」
私は内臓が飛び出そうなくらい緊張した。
「結衣を忘れようと努力しようとしたけど、無理だった。結衣……俺はお前が好きだ」
気が付くと私は涙が溢れていた。
「私も……私も大翔が好きだよ」
長い年月を越え、やっと自分の気持ちに素直に慣れた。
私は気持ちを押さえきれず、大翔の胸に飛び込んだ。
大翔は優しく私を抱きしめ、キスをした。
やがて私の左腕のデスプレートは、眩い光を放ち消えていった。
それと同時に大翔の左腕もまた眩い光を放つ。
「デスプレート? 大翔……まさかあなたも?」
そう、お互い死してなお、想いを遂げる為にこの世に魂をとどめた死人――。
「ローズ姉さん、上手くいったわね」
「あら、ミント。そのようね。まだこの二人の魂を送るには早いみたいだから、私達は帰りましょ」
「は~い」
“ローズ……ありがとう”
異世界からの使者は、私達に幸福と命を与え帰って行った。
――もう誰もあなたのことを死神なんて呼ばないわ。私達幸せになるから、見守っていてね。私の天女様。