二話 「個性を見つける一歩」
「個性研究部」と書かれた貼り紙が貼ってある扉をノックする。
「はーい」と返事が返ってきた。
「失礼します。」
と言いながら入るとそこには……たった2人の男女が座っていた。
「君が、嵐山 悠生君?」
ふわふわした感じの茶髪を低めの位置でツインテールにした優しそうな女の生徒が尋ねてきた。
…というのはどうでもいい。先生からは、殆どの生徒が入部しているって言われたから楽しそうだと思って入部したのに、目の前にはたった2人。
面食らってしまった。
「…はい、そうですが。」
与えられたショックで頷くのが精一杯の僕に、もう一人の眼鏡で茶髪の男の生徒が話しかけてきた。
「どっか他の部活。掛け持ちしてないの?」
先生と似たような質問だった。
「あ、そうなんですけど…」
何か問題でも?と逆質問するのは止めておいた。
2人のブレザーの組章には2年の二文字が見えたからだ。
「君、凄く面白いよ!!というか、物好きだね!」
俺が頷くと男の先輩が上機嫌そうに笑う。
馬鹿にしてますよね。とも言えず、苦笑を浮かべる事しか出来なかった。
「ショウ、話、ちゃんと聞こう。わたし達も自己紹介しないと。」
「そうだね。じゃあ、嵐山 悠生君。適当に腰かけてくれないかな。」
先輩の言葉に流されるまま、男の先輩と向かい合う形で椅子に座った。
「僕は、部長の立島 翔貴。こっちは、副部長の立島 柚葉。俺達2人で、この個性研究部を立ち上げた。……ここまでで質問は?」
翔貴さんの一言に、口を開く。
「お二方は兄弟なんですか?」
「血は、繋がってないけどね。まぁ、気にする事じゃないよ。」
十分に悪いことを聞いてしまった気がした。でも、
目の前の2人は平然としていた。
「じゃ、続けるよ。…君はなんで多くの部員がいないんだーって思ってると思うんだけど…。これは、彼らには活動に協力してもらう為に″掛け持ち″という名目の下で、入部してもらってるだけなんだ。」
「じゃあ、お二方は何を研究してるんですか?」
「君って、食い付きが良いね。」
普通、殆どの人なら気になるだろう。ただ、協力者が多いということはそれだけ凄い事を研究しているのだろう。
すると、翔貴さんが分厚い本を取り出した。
「わたし達の研究している事だよ。読んでみて。」
柚葉さんに薦められて読んでみると、〇×系男子とか×〇系女子とかを文系とか理系とか血液型とか様々な方法や性格で、行動パターン等を事細かに記していた。例えるなら「人間広辞苑」みたいな物だった。
「これで、人間の個性について研究して協力者に生き方をアドバイスするのが僕達の仕事。どう?興味でてきた?」
翔貴さんが一通り読み終えた僕に尋ねた。
個性について研究するのは興味がある。
でも、それで俺の個性が見つかる訳じゃないし。
ましてや、個人情報を調べているような気がしてならない。
それに、個性の無い人が他人の個性なんて研究していいものなのだろうか。
「…俺には、個性が無いんです。何もかも普通過ぎて、運動神経も成績も何もかも平均だからつまらない奴だって言われるんです。」
気がつけば、俺はぽつりぽつりと語りだしていた。
「そんな俺が他人の個性なんて研究しても意味無いし、して良い訳が無いと思います。…すみません、やっぱり俺止めた方が良いですよね?」
2人は表情1つ変えずに話を聞くと互いに顔を見合わせて笑いだした。
そんな反応されるとは思わなかったので俺は1人でポカーンとしていた。
「…寧ろ、君みたいな人の為に立ち上げたようなものだよ。この部活。」
「研究員としても、協力者としても一緒に頑張ろうよ。ショウも、それが良いって思うよね?」
「もちろん!約束するよ、僕達が卒業するまでに君の個性を見つけてあげる。だから、協力…してくれるかい?」
2人が俺に向かって、手を差し伸べる。
なんか、やっていけそうな気がした。
この人達なら俺の個性を見つけてくれると思った。
「…宜しく、お願いしますっ!!」
俺は、2人の手をがっちり握った。