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舞踏会


「ふぅ…」


 シェーラが今日何度目かの溜息をつく。


 机の上の書類はまだ目を通していないらしく、重石を乗せたままになっている。今日は仕事もあまり手についていない。


「御嬢様…やはりお断りになられては?」  


 心配そうに老執事が声をかける。

 物憂げな表情で首を振ったシェーラが、溜息混じりに応えた。


「そうもいかないのよ。今日のパーティーの主催は何かと御世話になっているモレット伯爵ですからね。一応御挨拶はしておかないと…」


 そしてまた、憂鬱な溜息をつく。

 このモレット伯爵は誰にでも好かれている優しい老人なのだがかなりの世話好きで、若者に縁談を勧めるのが生き甲斐のような人物だった。


 今日のパーティーも未婚上流階級の若者ばかりが招待されていて、この老人に特に気に入られているシェーラは、顔だけでも出してくれ…と直接招待状を手渡されてしまったのだ。


「全く、あの伯爵にも困ったものですね」


 リカームも苦笑を浮かべる。

 主の望まない縁談は執事も承服出来ない。


 だが、個人的にはモレット伯爵は嫌いではなかった。いや、尊敬していると言った方が正しい。そのため、強く反対することも出来なかった。

 シェーラは、先程から流れる雲をぼんやりと眺めたままだ。そんな主を同情の眼差しで見つめ、いつの間にかリカームも同じ様な溜息をつくようになっていた。

 今日は仕事が捗りそうもなかった。




ガラガラガタゴト…


「どう~どうどう…」

ブルルルッ、ブフッ!


 二頭立ての馬車が大きな屋敷の前で停った。

 舗装路についた幾つもの車輪の跡からすると、この馬車が最後のようだ。 他の馬車は既に屋敷の裏に回って主達を待っているのだろう。


 馬車から御者をしていた老紳士が降りる。

 馬車の扉を開いた老人は、中から白い手袋をはめた細い腕を取った。老紳士に手を取られ、馬車から薄いピンクのドレスを着たレディが降りてきた。


 美しいレディだった。

 誰もがはっとするような容姿もさることながら、その落ち着いた物腰には嫌味の欠片さえ見つからない。ドレスは遠目に見ると白にさえ見えるような桃色で、この少女の控え目なセンスを窺わせる。頭には少し地味な髪飾りをつけているが、綺麗な栗色の髪にはむしろそれくらいがいいのかもしれない。一目見て好印象を抱かない人間はいないだろう。


 馬車を降りたレディが老紳士に声をかける。


「ありがとう、リカーム。なるべく早く帰ってきます」

「お気をつけて」


 寂しげに微笑むシェーラ。


 伯爵家の使用人に案内され屋敷の中へと入って行く主を、不安気な表情で見送るリカームだった。




 きらびやかに輝くシャンデリアの下では、妙齢の紳士、淑女達が楽しく語らい、踊っていた。

 気に入ったレディを口説くのに躍起になっている若者もいれば、ある所ではレディ達が集まって噂話に花を咲かせている。

 皆こういうパーティーに場慣れした者ばかりなのだろう。


ギイ~ッ…


 パーティー会場の入口の扉が小さな音を立てて開いた。

 なにげなく視線を向けた若者がそのまま動かなくなった。それを見た者達が訝しげに視線の先を見やると、先の者と同じ様な態度を取った。


 現われたのはシェーラだった。

 彼女が来たのを知るや、皆が口を塞ぎ会場が静まりかえった。男達は陶然とシェーラの姿に魅入っていたのだが、反対にレディ達の反応は冷たい。

 嫉妬や羨望がその眼差しから容易に読み取れる。会社経営を任されるほど聡明にして、思わず羨んでしまう程の容姿を持つシェーラは、異性の関心を集めることが全ての彼女達にとっては疎ましい存在なのだ。


 痛いほどの視線の中を気付かないふりをして通り過ぎたシェーラは、このパーティーの主催者モレット伯爵の前までやってきた。


「伯爵、この度はお誘いいただきありがとうございます」


 軽くドレスの裾をもって会釈する。その美しさと落ち着いた物腰に、会場内に幾つもの溜息が洩れた。


「おお…シェーラ嬢、よく来てくれた!君が来るのをいまかいまかと待ちわびていたところだよ。今宵は心ゆくまで楽しんでいっておくれ」

「はい」


 伯爵に微笑みを返したシェーラ。

 が、その場を離れるとあまり人のいない方へと歩き出す。


 会場内には彼女の親しい人物はいない。商売上のパーティーなら会話もスムーズに運べるのだが、ここには明らかに敵意を向けてくる同性と、薄っぺらな仮面を被った狼しかいないのだ。


 ひそひそと囁き合う淑女達の横を通り過ぎ、あまり目立たぬ場所へとやって来たシェーラは、壁にもたれかかって会場をぼんやりと眺めていた。

 そんな彼女をちらちらと見ている男は多かったが、何故か話しかけてこようとする者はいなかった。

 少し気にはなったが、シェーラにとっては好都合だった。


 会場の中央では若い男女が管弦隊の演奏に合わせてダンスを踊り、テラスでは熱い抱擁をかわしている者もいる。皆それぞれにこのパーティーを楽しんでいるようだ。

 一人取り残された自分がなんだか惨めに思えてくる。


(私って駄目ね。とてもあんなふうには出来ないわ。やっぱり私には恋愛って出来ないのかなあ…)


 シェーラも年頃の娘である。恋も夢見るし、ときめきというものも経験してみたい。しかし、言い寄って来る異性に心動かされることは一度もなかった。どんなに甘く囁かれても、どんなに巧みな話術を用いて来ても彼女にはなんとなくその本心が読めてしまう。

 十四歳の時から一筋縄ではいかない大人達を相手にしていたせいか、それとも老人とはいえ身近に理想の男性がいるせいか…。


 そういうわけでダンスに誘われても断る事の方が多かったし、約束を取りつけられても丁重に断ってきた。気になる殿方がいないわけではないが、もう二度と会うこともないと思っていた。


 自分が無意識に溜息をついていることにも気付かず、シェーラは時間が過ぎていくのをただただ待つしかなかった。




 その頃リカームは、


「心配になって来てしまいましたけど…やはり肩身の狭い思いをしていらっしゃるようですね。ううっ、おいたわしや、シェーラ御嬢様…」


 ハンカチで目頭を押さえてむせび泣く老執事がいた。

 彼は今、二階のテラスの一つに身を隠しシェーラの様子を覗いている。

 主を心配するあまり、立木をよじ登ってこの二階のテラスに飛び移ってきたのである。

 姿はほとんどいつもの格好だが、隠密行動用の黒マントをかけていた。引け目を感じる行いをする時、心理的に何か身体を隠す物がないと気が済まないのだろう。


 そして、もう一人…壁際に佇むシェーラを他の男達とは違う視線で見る青年がいた。先程から話しかけて来るレディを適当にあしらっては、すぐに場所を移動している。


 金髪の髪にすらりとした長身、目もとの涼やかな端整な容貌。年は二十歳くらいに見えるが、外見以上の落ち着きや風格というものを身につけていた。

 名はラファエル=ウェン=ファラード伯爵。

 一応、王都からこのティフラン市に静養で来た若き当主ということになっている。


 彼は近くにいた青年を捕まえて、シェーラのことを尋ねてみた。


「君、すまんが、あの美しいお嬢さんのことを教えてくれないか?」

「えっ、あの娘を知らないのかい?この街でも一、二を争う事業家マイエル家の長女シェーラ嬢さ。あの美しさに加えてかなりの才媛で、一度は傾きかけた家の事業を持ち直したのは彼女の力だと言われてるんだ。それでいて気取った所もないんだからね、狙っている奴は多いはずだよ」


 声を掛けられた青年はシェーラをちらちらと見ては、切ない溜息をついていた。


「それにしては誰も声をかけないようだが…」

「かけられないのさ。周りのレディ達を見ろよ。露骨に離れてるだろ?彼女達から見れば綺麗で頭のいいシェーラ嬢は嫉妬の対象なのさ。声をかけたら俺達まで仲間外れにされちまう」


 御近づきにはなりたいが、危険は冒したくないというわけだ。もっとも、シェーラが相手では玉砕する可能性が高いと見た上での判断なのだろう。


(ふん、臆病者どもが。それにしても、これほどの獲物がいたとはな…)


 ラファエルの顔に、見た者を凍りつかすような壮絶な笑みが浮かんだ。

 しかし、それも一瞬のことで、金髪の貴族はすぐに甘いマスクに戻ると、壁際に立つ獲物のもとへ歩き始めた。




 まだ、時間はあまり経っていなかった。

 相変わらず無視されているが、視線だけは痛いほどに感じる。そんな中、ただ立っているだけでは落ち着くものではない。

 何か飲み物でも頂こうかとシェーラが壁際を離れた時だった。


ドンッ!

「きゃっ!」


 いきなり、横から来た何者かにシェーラは突き飛ばされていた。

 転びそうになるが、なんとか踏み止まる。


 振り返って見ると、そこには派手な装飾のドレスに身を包んだ、自分と同じ年頃の娘がいた。つい先程までとりまき達に囲まれていた貴族の娘である。


 シェーラに声をかけようとしていたラファエルが、小さく舌打ちをして歩みを止めた。


「あら、ごめんなさい。少し急いでいたものだから…」


 意地の悪い笑みを浮かべて、とってつけたような言い訳をする貴族の娘。

 空になったカクテルグラスを左手で玩んでいる。


 シェーラは、その笑みに嫌なものを感じ、自分のドレスに視線を落した。


(…やっぱり)


 右腿の上辺りに小指くらいの大きさの赤い染みがついていた。おそらく、これが目的でぶつかってきたのだろう。


「あらあら、本当にごめんなさいね。けど、たかが染みくらい誰も気にしませんわ」


 心にもないことを言う貴族の娘。

 しかし、意外にもシェーラは平然としていた。


「ええ、それよりあなたのドレスにも…」

「ええっ!」


 貴族の娘は慌てふためいて自分のドレスを確認する。

 先程、自分で言ったことを覚えていないようだ。


 その横を通り過ぎ、シェーラは何事もなかったかのように先程の場所に戻った。染みの部分には、軽くハンカチをあてていた。


(これじゃ、パーティーは無理ね。早く帰ってミアラに染み抜きしてもらわなくちゃ)


 平静を装ってはいるが、このパーティードレスは彼女のお気に入りだ。悔しくないはずがない。

 だが、これで帰る理由が出来たと内心ほっとしたのも事実だった。このまま、みじめに突っ立っている方がよっぽど気が滅入るのだから。


 しかし、テラスにいる怪しい人物はそれを良しとしなかった。


(もう我慢出来ません!!)


 既にリカームの我慢は限界に達していた。このまま帰らせてしまっては、シェーラは恥をかかされたままになってしまう。

 街一番の資産家と言っても、平民であることには変わりない。きっと今までも同じような思いをしてきたのだろう。

 怒りに震えるリカームは、その立派な口髭をむしり取っていた。


バササッ!


 突然、何かがはためく音と共に黒い何かが会場に舞い降りた。


 驚きに彩られた視線の先…そこに立っていたのは一風変わった青年だった。

 黒いタキシードをびしっと着こなし、裏地が赤の黒いマントをはおった黒髪の青年。整った顔立ちに反して、全体から滲み出る精悍さは会場中の男達にはない野性味を感じさせた。


 どよめくパーティー会場の中、シェーラだけがその人物を知っていた。


「シオ…!」


 慌てて口に手を当てたシェーラは、心の中でその続きを叫んでいた。


(シオン様!怪盗がこんな人前に出てもいいんですか!!)


 思わずシオンの仕事の心配をしてしまう。

 …が、それとは裏腹に、この時の彼女の表情は嬉しさで弾けそうになっていた。


 そんなシェーラの胸中を知ってか知らずか、シオンことリカームはずんずんとモレット伯爵へと歩いて行く。

 伯爵の前へとやって来たシオンは、(うやうや)しく身分の高いものに対する礼をとった。


「モレット卿、突然の御無礼を御許しください。

私の名はシオン、あまり人に言えない職業をしている者です。今宵はあなたのパーティーに参加致したくこうしてやって参りました。

誠に失礼ですが、飛び入りを許可して頂けないでしょうか?」


 堂々と”あまり人に言えない職業”などと言ってしまっているシオンに、見ているシェーラの方が目眩を起こしそうになった。


 伯爵は突然の変わった来客にしばし目を丸くしていたが、


「……ああ、飛び入りを許可する。特に二階から入ってくるような客は大歓迎だとも」


 老人は自慢の髭をしごきながら、楽しそうに口の端をつり上げた。

 同じように頭を下げたシオンの口元も緩んでいる。

 この老人の性格を熟知しているリカームは、このような登場をすれば伯爵が喜ぶことは分かっていた。リカームにとってこのモレット伯爵も、彼の憧れる老人の一人なのだから…。


 伯爵に挨拶を済ませたシオンは、わざとらしくぐるりと周りを見渡した。


 周りの視線は全て自分に向けられていた。

 紳士達は自分達の持たぬ雰囲気を持つこの青年に嫉妬のようなものを抱きつつあったし、淑女達は平凡な日常を打ち破ってくれるナイトに憧れの眼差しを向けている。


 シオンは颯爽とマントを靡かせて歩き始めた。

 進行方向の娘達が期待に目を輝かせたが、すぐに落胆へと変えて行った。黒マントの紳士は淑女達の脇を通り抜け、脇目もふらず壁際に立つ少女のもとへと向かったのだ。


 その先ではシェーラが耳まで赤くして顔を俯けていた。


 もう会えないと思っていたシオン様に会えるなんて感激だった。

 しかし、こう真っ直ぐに自分の所へこられると他の娘達に悪いという気になり、表立って感激を著すことが出来なかったのだ。


 足音は自分の前で止まった。


「御久しぶりです、シェーラ嬢。今日はまた以前にもまして御美しい…」


 見てないのに、シオンが優雅な会釈をしているのが見えるようだった。

 社交辞令と分かっているのに一瞬、胸が高鳴ってしまった。

 自分の顔が赤くなっていないかを気にしながら目の前の紳士を見上げた。


「ありがとうございます、シオン様。まさか、また会えるなんて思いませんでしたわ。でも、いいんですか?こんな人前に出てしまって…」


 周りを気にして少し声を落すシェーラに、シオンは笑いながら答えた。


「ははは、私にとっては大したことじゃない。それにちょっと憤慨することがあってね、思わず出てきてしまったんだ」


 そこでシオンは少し声を大きくして続けた。


「これほどの美しいレディがいるというのに誰も声をかけないというのが、男としてどうにも許せん。腑甲斐ない若者に代わってこの私がお誘いに来た次第だ」


 自分も今は若者になっているのだが、忘れているようだ。

 シオンのこの言葉に、周りの男達が全員下を向いてしまった。


「うふふ…シオン様らしいわ」


 無邪気に笑うシェーラを見て、リカームは出てきて正解だったと思った。

 本当はシェーラが恥をかかされたことが我慢出来なかったのだが、そのようなことを言うわけにはいかない。あくまでも通りすがりの怪盗として、自分のポリシーに反する行いを正しにきたのだ。


「ではシェーラ一曲お相手願えますか?」

「で…でも、ドレスに染みがついてしまって…」


 暗い顔で俯いてしまうシェーラ。先程はあまり気にしなかったのに、今は何故か無性に悔しい。染みの部分を強く握り締めていた。


 だが、シオンはゆっくりと頭を振ると、


「そんなものあなたの気品を汚すものではない。もっとも、その気品も持ち合わせていないお方もみえるようだが…」


 そう言って貴族の娘に視線を向ける。

 娘はわなわなと震えてその場を逃げて行った。


 シオンの言葉がシェーラの心に染み込んでいく。


「お相手願えますかな?」


 同じ言葉を繰り返すシオン。涙が出るほど嬉しかった。


「……こちらこそ…喜んで!」


 染みの部分を手放したシェーラは、はにかんだ笑みを浮かべて右手を差し出した。




 ゆったりとした曲に合わせて優雅に踊る、黒マントの青年と美しいレディ。

 マントを翻させて力強いステップを踏むシオンに、流れるように軽やかなステップを踏むシェーラの息がぴたりと合っている。周りの者達は二人のダンスに見蕩れてしまい、いつの間にか踊っているのはシオンとシェーラだけになっていた。


「私…こんなに楽しく踊るのは初めてです」

「はは、私もだよ。実を言うとあまりダンスは得意ではないんだがね。君のリードが上手い御蔭だよ」


 シェーラの頬が朱に染まる。シオンに誉めてもらえると素直に嬉しい。

 それからは言葉はいらなかった。まるで、目と目で会話するかのように。


 シオンの瞳は大好きな老執事にそっくりだった。そう思うと、何故かまた頬が火照ってくる。


 やがて、曲は終わり、二人は名残惜しげに足を止めた。

 シェーラとしてはもっと踊っていたかった。しかし、シオンの仕事のことを考えると、あまり引き留めるわけにはいかない。


「シオン様、ありがとうございました。今日は……お会い出来てとっても嬉しかったです!」


 今のシェーラに言える精一杯の言葉だった。だが、乙女心にはてんで疎いリカームが気付くはずがない。


「うむ。私はもうこれで帰るが、君も早く帰った方がいい。染みは早めの処置が肝心だからね」

「くすっ…シオン様ったら…」

「どうしたんだね?」


 口を押さえて笑いを堪えるシェーラを見て、疑問符を浮かべるシオン。

 シェーラは、外見に似合わず所帯じみたことを言う紳士に親近感を覚えていた。まるで、どこかの老執事のような口振りだったのだ。


 シオンは来た時と同じく…柱を一蹴りして二階に跳び上がり、テラスから華麗に帰って行った。

 あまりの鮮やかさに一同が声も出せなかった。


 名残惜しげに見送るシェーラに並び、歩み寄っていたモレット伯爵が感慨深げに口を開いた。


「出会いは多くの擦れ違いの中の、一つの接点に過ぎない。だが、思い続ければ何度だって交わる事が出来る。……今日の出会いは必然だったのかもしれないね」


 シェーラは静かに頷いていた。


「伯爵…ありがとうございました。今日のことは一生に残る思い出です」

「うむ。また会えるといいね」

「はい!」


 満面の笑顔で応えるシェーラに、伯爵は眼を細め、嬉しそうに大きく頷く。

 彼が世話好きなのも、この笑顔を見たいがためなのだ。






 会場を去り行くシェーラを邪悪な眼で見つめる者がいた。


 金髪の貴族ラファエルだ。


 彼の周りには人がいなくなっている。

 だが、何かに気付いたというわけではない。彼の発散する邪気を無意識に感じとり、自然と離れて行ったのだ。そして、その邪気を抑えることなく、ラファエルがうすら笑いを浮かべる。


(ふふふ…シェーラ=マイエルよ。近々、迎えを寄越す。それまで、この世に未練を残さぬよう精一杯生きるがいい)


 この時、彼が数カ月ぶりに食欲を覚えたことによって、シェーラの運命は大きく変わってしまった。


 絶望へと。

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