第二話:キミとの出会い〜甘酸っぱい夏〜
高校一年生、一学期、夏―――
僕は部活がある友達と別れ、体育館裏にある駐輪場に向かって走っていた。バイトがあったので遅刻するわけにはいかなかった。
不自然に植えられた木々達を横切って体育館裏に着いた。体育館のドアは開けられていて、中にはバスケットボール部がレイアップシュートの練習をしていた。
僕は横目で見ながら自分の自転車の鍵を開け、ストッパーを外し、急いでまたがった。立ちこぎで一気にスピードを上げると、風が体を撫でていき気持ちよかった。
あまりに気持ちよすぎて目をつむってしまった僕は自分が今自転車に乗っているということを忘れていた。もちろん、そんなことをしていればぶつかるのは誰でも予想できたことだった。
案の定僕は体育館外の角を曲がるときに、ぶつかってしまった。
僕はダサく自転車から転けて、とりあえず謝った。
「ごめんなさい!すいません!」
僕は自転車をほっといてぶつかった女性徒の鞄を拾って渡した。
まさか、まさかあれがこれから3年間心を縛り続ける人との出会いだったなんて、今にしてみればまるで漫画みたいな出会いだなと思った。……ただ、漫画のように絶対にうまくいかなかった恋ではあるのだが………
僕はしゃがんで彼女の顔を見た。彼女は顔を上げると僕の顔を見て笑いながら。
「うん、大丈夫だよ。気にしないで」
とだけ言った。僕は一瞬なにを言えばいいのか分からず、とっさに鞄を渡して、
「そうですか、すいませんでした…」
と目をそらしながら尻すぼみに言った。
彼女は笑いながら鞄を受け取りながら
「鞄、ありがとう」
と言ったと同時に僕は自転車を起こし、またがり去った。
こんなに心臓がおかしく鼓動するなんて初めてだった。だんだん体全体が熱くなってきて自転車はフラフラに動いていた。
「別に、美人じゃないし、かわいくもないし、スタイルだって良いわけでもないし、たいしたことはないな」
と独り言を言って気持ちを沈めた、つもりだった。だけどたしかに僕はあの時恋をしたのだ。
後に聞くとあの子は運動部に入っていて、クラスは一番奥の八組だった。
こうして僕の恋は静かに始まったのだ。少なくともこの一年、僕は甘酸っぱい幸せな恋をすることになるのだった。