第1話:現在から回想へ〜出会い〜
初夏―━
氷がとけたせいで麦茶は薄くなっていた。僕は畳に転がりながら右手に花火大会の日程と赤い花火が大きく描かれているうちわをパタパタさせて、ため息をもらした。
外は鳥たちがもばててるのか寂しく鳴いていた。都心とも田舎ともいえない地域に住んでいた僕は、住宅が密集している地域性からかのびのび呼吸が出来ずに苦しい生活を送っていた。
今年、僕は志望していた大学に蹴落とされ浪人生として過ごしていた。それでも、現役生の時のような新しい生活への切望が消沈してしまったのか、未だに勉強はできていなかった。親が心配するのに、適当に言い訳しかできない自分がまったくもって滑稽でしょうがなかった。
「花火か………」
もうそんな季節になっていたんだと改めて実感した。もう暑さや、息苦しさで実感していたはずなのに。
僕は台所に行って麦茶を捨て、氷を溢れんばかりにグラスに詰め込みその上から麦茶をつたらせた。
再び部屋に戻ると、不思議と棚にある卒業アルバムが目に留まった。
「ああ、そっか」
僕は花火を見ると妙な実感があることに納得した。
花火は僕を薄暗い穴のなかにたたき込んだ光だったのだ。その花火の日は最も夏らしく、僕の短い人生で一番記憶に刻まれたのだった。
棚のガラス戸しばらく開けてなかったのか埃がうっすらとつもっていた。
僕はガラス戸を開けると卒業アルバムを取り出し、おもむろに開いた。しかし、アルバムが開く場所はいつも一緒だった。
刷り込まれた学生達の中に一枚の写真があった。
それは、僕がこの短い人生で一番愛した人と僕との最初で最後の写真だった。
氷は溶けて麦茶はまた薄くなっていた。
僕は自然と彼女と出会った日を思い出していた。