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第七章 矢ヶ部の論理

 矢ヶ部 奈津子は、任意同行に素直に応じた。


 取調室でも、動じた様子を見せなかった。


「防犯カメラの映像をご覧いただきます」と大倉が言った。


「どうぞ」と矢ヶ部は言った。静かな声だった。


 映像を見せられても、矢ヶ部は無表情のままだった。


「これは私ではないかもしれない。体型が似ている人はいくらでもいる」


「では、あの夜、エレベーターで一階から再び二階へ上がりましたか?」


「……」


 矢ヶ部はしばらく黙っていた。


 そして言った。


「上がりました」


 取調室が静まり返った。


「なぜ?」


「山路が心配だったから」と矢ヶ部は言った。「あの男は、ああ言えば引き返してくる。しかし、十分以上経っても一階に降りてこない。私は心配になって確認しに行った」


「そして?」


「トイレの前まで行ったが、鍵がかかっていた。ノックしたが返事がなかった。……私は何も疑わず、またエレベーターで一階へ戻った。だから、捜査員には黙っていた。怪しまれると思って」


「針金で鍵を閉めましたか?」


「していない」と矢ヶ部は言った。目が揺れなかった。「針金など持っていない。調べてもらえばわかる」




 大倉が美佐男に電話してきた。


「矢ヶ部さんの持ち物を調べましたが、針金の類は出てきませんでした。鞄の中も、コートのポケットも」


「使ったあとで捨てた可能性は?」


「ロビーのゴミ箱は全部確認しました。それらしいものは出てきていません」


 美佐男は電話を切り、考えた。


 矢ヶ部が犯人ではないとすれば……あの夜、二階へ引き返した者は、矢ヶ部と、もうひとりいたのか?


 それとも……矢ヶ部が引き返したときには、すでに山路は死んでいたのか?


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