第六章 過去の共鳴
美佐男は再び元山 達雄を訪ねた。
元山はパソコンの前に座ったまま、美佐男を見た。
「針金の話を聞かせてくれ」と美佐男は言った。
「針金?」
「密室の仕掛けだ。あの夜、あなたは何を持っていたか」
「財布と、スマートフォンと……」と元山は答えかけて、止まった。「……ああ」
「何だ」
「俺はいつも、コードを束ねる細いビニールタイを持ち歩いている。技術者の習慣だ。エレクトロニクスの仕事をしていると、現場で何かを固定したくなることがある」
「そのビニールタイ、あの夜も持っていたか」
「……持っていた」と元山はゆっくりと言った。「しかし、使っていない」
「証拠はあるか」
「ない」と元山は静かに答えた。「しかし、俺は山路を殺していない」
美佐男は、もう一度、あの夜の座席配置を考えた。
テーブルの上座から下座へ、左右に並んでいた人物を思い出す。
そして、あることに気づいた。
山路は、宴会の最後、「トイレを忘れた」と言って引き返した。あの言葉を聞いたとき、全員がエレベーターの前にいた。全員で山路を見送った。
だが、全員が一階に下りるのを、誰かが確認していたか?
美佐男はエレベーターの動作記録を調べるよう大倉に頼んだ。翌日、データが来た。
問題の夜、午後十一時八分にエレベーターが二階から一階へ下りた記録がある。しかしその後、午後十一時十二分に、また一階から二階へ上がっている。
「誰かが引き返した」と美佐男は言った。
「一階のロビーから再び二階へ上がった人物がいる。それが犯人だ」
ロビーの防犯カメラを確認した。
映像は粗かったが、午後十一時十分ごろ、ひとりの人物が再び階段へ向かう姿が映っていた。
顔は判別しにくい。しかし、体型と服装から、大倉が絞り込んだ。
「……矢ヶ部さんかもしれません」




