第四章 毒の経路
捜査の焦点は、ジゴキシンがいつ、どのように山路の体内に入ったか、に絞られた。
大倉が検証した結果をまとめると、以下の事実が浮かんだ。
まず、ジゴキシンの致死量は、経口摂取の場合、体重六十キロの成人で約十ミリグラム前後とされる。山路の血中濃度から逆算すると、宴会の最中に摂取した可能性が高い。
次に、摂取の方法。ジゴキシンは水溶性で、飲み物に溶かすことができる。色もなく、味もほぼない。
「つまり、山路の杯か料理に盛られた可能性がある」と美佐男は言った。
「はい。問題は、テーブルには全員が座っていて、料理はすべて共有の大皿か、個人に配られたものかです。仲居の証言では、個人に配った料理はなく、すべて共有の大皿でした」
「ということは……」
「山路の飲み物です。杯に盛られた可能性が最も高い」
美佐男は考えた。座敷の配置を思い出す。山路は上座のひとつ手前に座っていた。隣は佐藤だった。向かいは……神野と元山だった。
「杯に直接盛るなら、山路の近くにいた者だ」と美佐男は言った。「佐藤、神野、元山……あるいは、山路が席を外したときに、誰かが何かを仕込んだか」
「宴会の途中で山路が席を外したことはあったか、確認できましたか?」
「まだだ」と美佐男は言った。「だが、確認する」
仲居への聞き込みで、重要な事実が判明した。
宴会の途中、午後九時四十分ごろ、山路は「ちょっとトイレ」と言って一度、席を外していた。その時間は約十分。
その間、残った七人は席に残っていた。
「この十分間に、誰かが山路の杯に毒を入れた可能性がある」と大倉は言った。
「しかし問題がある」と美佐男は言った。「山路の杯は、ひとつではない。ビール、日本酒、ウーロン茶……彼は複数の飲み物を飲んでいた。どれに盛ったのか。そして、盛った者が、確実に山路だけに飲ませることができたか」
「大皿の料理なら、誰が食べるか予測できない。杯への直接投与が最も確実です」
「そうだ。では、山路が席を外した十分間に、山路の杯に近づいた者は誰か」
仲居の証言によれば、山路が席を外したあと、七人はとくに移動をしていなかったという。しかし、仲居がずっと部屋を監視していたわけではない。料理を運んだのは三回。それ以外の時間、部屋の様子は確認していない。




