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第三章 六人の疑惑

 美佐男は捜査から外された。当然だ。彼自身が容疑者のひとりである。


 しかし、大倉は非公式に美佐男を相談相手として使い続けた。


 「飲み会に来ていた八人、全員が容疑者です」と大倉は言った。「山路の死を誰も悲しんでいない、というのが正直な印象でした」


 美佐男は腕を組んだ。


「あの席で、山路が『株の話』を持ち出した。全員の空気が変わった。そこに鍵がある」


「株の話、ですか」


「三十年前、俺たちのグループで、株の共同投資の話があった。俺は参加しなかった。詳しいことは知らない。だが……あのとき、誰かが大損をしたか、あるいは誰かが不正をしたか、そういう話だったはずだ」




 美佐男は独自に動いた。


 まず、元山 達雄に会った。


 元山は渋谷のカフェで美佐男と向き合い、コーヒーを一口飲んでから言った。


「三十年前の話か」


「そうだ」


「……あれは、山路のせいだ」と元山は低い声で言った。「俺たち四人で、ある銘柄に投資した。山路が『絶対儲かる』と言って引っ張ってきた話だ。結果は全損。俺も、佐藤も、山本も、深見も、それぞれ百万以上を失った。あとで調べたら、山路は自分だけ早めに売り抜けていた」


「インサイダーか、内部情報か」


「どちらかはわからない。でも山路だけが損をしていなかった。それが真実だ」


 美佐男は手帳にメモを取りながら聞いた。


「先日の宴会で、山路がそれを蒸し返した。誰かが怒りを爆発させる可能性はあったか」


「可能性?」と元山は苦笑した。「美佐男、俺たち全員、怒っていたよ。三十年間、ずっとな」




 次に会ったのは深見 修だった。


 深見は自宅マンションのソファで足を組み、タバコに火をつけながら言った。


「山路は嫌いだったよ。だからといって殺してはいない」


「山路が死んで、誰が得をする?」と美佐男は聞いた。


「さあ」と深見は煙を吐いた。「俺は文学者だから、動機は複雑なものだと思っているよ。金だけじゃない。恨みは、金よりも深いことがある」


「あの夜、トイレに席を立った者はいるか」


「あんたも刑事だな」と深見は笑った。「……俺が席を立ったのは、九時ごろだ。洗面所で顔を洗った。しかしそのとき、山路は席にいたよ。まだ死んでいなかった」




 佐藤 邦彦とは電話で話した。


「私はあの夜、一度も席を立っていない」と佐藤は言った。声に感情がない。


「確認だが、矢ヶ部さんと神野さんの席の動きは?」


「……矢ヶ部さんは、十時ごろ、スマートフォンの電話に出るといって廊下に出た。神野さんは……そうだな、終盤で一度、席を外したかもしれない」


「ありがとう」




 森岡 里恵は、電話口で落ち着いた声で話した。


「私は山路さんのことが嫌いではなかった。でも、あの夜の彼は少し変だった」


「変?」


「笑顔がおかしかった。何かを知っている人の顔をしていた。……まるで、自分が有利な立場にいることを楽しんでいるような笑い方」


「山路は誰かを脅していたかもしれない、ということか」


「断言はできません。でも、そんな気がした」


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