第6話 坂巻新は、この身に宿っていた魂と共に生きる事を誓う
日誌を読んで思う。
俺は、この人の為にも精一杯生きよう!
道半ば、無念。これらの想いを俺が受け継ぐんだ。
全部解消してやる。
彼のやりたい事をしてあげよう。
まずは、ここにいる仲間を守るんだ!
・・・・。
ん? そうだ。
俺って病気になっているってことか?
アルトゥールさんって、病気で死んだって・・・あれ?
でも俺、ここに来て一度も血を吐いてないぞ。
そうだ。
どこも平気なんだけど。俺は病気じゃないってことでいいんだよな。
いや、そうだよ。体の調子的にも、結構良さそうなんだよな。前の俺よりも動きに切れがあってさ。
今ならあのチー牛って騒いでいた人にも、楽勝で勝てそうな感じなんだよ。
◇
それから色々と悩んで、最終的な結論を出した。
「これは入れ替わったような形かもしれない。俺が死んで、アルトゥールさんも死んで、そしたら俺がアルトゥールさんになれた。こんな形かもしれないな。だとしたら、まさかだけど、アルトゥールさんが俺になってるのか? まあ、そこはどうでもいいだろう。考えてもしょうがない」
ここを悩まないでいこうで、話を終えた。
そしてここで俺の結論が出た。
元の世界に帰る事はないという事だ。
俺は、こっちの世界で、心身共にアルトゥールさんにならねばならないという事が決まったんだ。
でも俺は彼を引き継ぐ強い気持ちを今持てたんだ。
この人が生きた証。
それを俺が引き継ぐんだ。
彼がやりたかった事、やろうとしていた事、出来なかった事。
全部叶えてあげるんだ。
俺はめちゃくちゃ感動したんだ。この感動は、言い表せないくらいだ。胸一杯になって、そこから力が溢れていって、体の全身に駆け巡っている感じがする。
悲壮感。絶望感。
これらの負の感情を乗り越えて、彼は真っ直ぐに生きようとした。
この素晴らしい男を、俺は生涯尊敬して、共に生きよう。
「俺は、アルトゥールさんと一緒に生きるんだ。でも彼みたいにはなれないから、俺流でだけどな」
そうだ。彼のような立派な漢には、どうあがいてもなれない。
だったら少しでも近づく。その努力だけは怠らないようにしよう。
「よし。それじゃあ、最低の情報が揃った。これはお守りにしよう」
小さめのノートだったので、俺はポケットにしまう。
これはお守りにするんだ。安全祈願みたいな感じでさ。
「後は端末を借りよう。携帯電話みたいな機器を持ってないかな。何かのデバイスがないか。カタリナさんに聞いてみよう。俺の部屋のPCが全然つかなくて、ずっと黒い画面でさ。電源が入らなくて、死んでる状態なんだよね・・・あ!?」
と言っておきながら、ここで気づいた。
「まさか。アルトゥールさん。あなたは・・・」
わざとPCを壊した?
このPCに何か生体認証みたいなシステムが搭載されていて、起動時に病気が発覚するかもしれないから、ここで壊しているのか。
俺のこの予想は、彼の日記から来るもの。
これだと、部下の人たちでは、壊れた理由なんて絶対に分からないだろう。
彼の病気の事を誰も知らないだろうからな。
「凄いわ。改めて凄い。誰にも相談しなかったんだ。このノートに書いてる親友って人たちにもさ。知らせなかったんだ」
アルトゥールさんには、親友が二人いるらしい。日記に、名前が書いてないけど、とても大切だと書いてある。
「よし。いくぞ。ここは陰キャとか言ってられない。カタリナさんに会いに行こう」
食堂に行く時のオドオドした感じが消えて、別人のように廊下を歩いた。
前を向くと決めたから・・・。
◇
と意気揚々と出て行ったのはいいものの。結局の所、自分の部屋と食堂までの道しか頭に入ってない俺では、彼女の部屋がどこにあるのかの見当すら立てられない。
「やっぱ俺。アホだったわ。ごめんなさい。アルトゥールさん。あなたのようにカッコよく生きたいけど、無理そうです」
弱音を吐いてから。
「でもやるって決めたからさ。おっしゃ。こうなりゃ、しらみつぶしにカタリナさんを探すぞ」
見つかるまで歩くと決めた。
◇
そこから、兵士の人たちに出会う度に、カタリナさんがどこにいるかと聞きまくった。
廊下で出会った目が丸い青年に。
「カタリナ君を見たかい?」
「え。少佐が普通に歩いてる!? な。なななんで廊下に?」
「いや、カタリナ君を探していてね。見たかい?」
「いいえ。すみません。見ていません」
小さな休憩室みたいな場所に蹲っていた女性に。
「すまない。君。カタリナ君を見たかい?」
「は!? 少佐!! なぜこんなところに? で、出歩いてるんですか」
「いや。カタリナ君を探していてね」
「すみません。中尉は見ていません」
元気なおばちゃんに会いに、食堂に行ってみても。
「おばちゃんごめんね。カタリナ君見ました?」
「中尉かい。そいつは・・・えっと・・・って、ええええ。食事の時間じゃないのに、少佐が!?!!?」
「どう? 見た?」
「いいえ。見ていません」
と至る所に顔を出しても、俺が登場すると皆同じように慌てる。
アルトゥールさんって、滅多に艦内も歩かなかったようだ。
やっぱり病気を隠すことを第一優先にしていたらしい。
皆とコミュニケーションを取る事をしなかったんだな。日記でも寂しそうだったもんな。
結局、カタリナさんは見つからず、艦内の施設見学会で終わった。
◇
部屋に帰ろうとして、扉の前に立った。
その直後。
【プシュー】
扉が開いた。自分のではなく、隣の扉がである。
「あれ。少佐。お外に出てたんですか」
完全プライベートモードのおしゃれな服装をした彼女が出てきた。軍服じゃない姿もこれまた美しい。彼女は、部屋のシャワーのでも使ったのだろう。髪がしっとりしていた。
それにしてもお外って、俺を子供かなんかだと思ってるのか?
お母さんみたいだよね。この人、綺麗なのに、やってる事とか言ってる事がお母さんだよな。
俺が噴出したご飯も片付けてくれてたもんな。
「カタリナ君。ちょうどいい」
「え・・・あ、はい。なんでしょうか」
頼み事だと気付いてくれたらしく、彼女の体が前のめりになった。
「何か調べ物をしたいんだけど、デバイスとか持ってるかい? 私の部屋にある機器が使えないんだ」
「え。そうだったんですか。少佐のデバイス。使えなかったんですね」
「ああ。だから何かないかい?」
「それって、手軽に調べたいってことですか? それとも、じっくり腰を据えて?」
「どちらかというと腰を据えて」
「それじゃあ、少佐。私の部屋に来ますか。デバイスありますよ。調べるのにちょうどいいですよ」
「は?」
俺は思わず一言で聞き返してしまった。
「ええ。私の部屋にも同じ端末がありますから。自動報告書のチェックとかしてますよ」
「・・・・いやいやいや、駄目だ。それって、君が部屋にいる状態で、私がいるという形だよな」
「はい。私は気にしないでください。少佐を眺めるだけにしますから」
うん。どういう事。
密室で男女が二人きりって、無理があるだろ。
特に俺にとってはさ。
彼女が出来た事がないから、女性と二人きりはありえないんだ。
って、心の中だけで絶対の拒絶をした。
「駄目だ。部下と上司が二人きり。あらぬ噂があってはいけない。カタリナ君。何か携帯式のものはないのかい?」
最もらしい言葉でカウンターを決めた。俺って機転がきくみたいです。
「え。それもそうですね。じゃあ、ちょっと待ってください。部屋から持ってきます」
「うん。お願いしよう」
つうか、あるなら、早く出してよ。
なんで、部屋来ませんかが最初の言葉になるんだよ。
今からお渡ししますねって言って部屋に引っ込めばよかったじゃん。
カタリナさんの考えてることがよく分からない。
その後。
彼女から無事に携帯端末を得た俺は、部屋に引きこもる事になった。
最強陰キャモード突入だ。
ゲームとかで集中する時に、誰も寄せ付けない状態にするのが、俺の最強一人モードだ。
これで、この世界を調べようと思う。
とにかく現状の理解が最優先である。
今、なんの戦争をするつもりなのか。
防衛? 侵略?
どっちなのか。
これが分かるだけでも、戦うやり方が違うはずだ。
偵察行動の意味は、侵略にも見えるけど、防衛の時だって斥候は出すはずだから、どちらとは断定できない。
よし。ここから情報を集める事を優先しておこう。
それと、この世界の事も調べておこう。
俺の人生は変わる。
彼の生き方のおかげと、自分の心が彼の為にと思った事で。




