第25話 デルタアングル宙域戦裏 永遠の宿敵の発見
エデルの作戦。
軸となる考えは戦場設定と帝国の内部事情だった。
エデルは、デルタアングル宙域の入り口に本陣を構えなかった。
もし構えていた場合、二万の艦隊が星を離れて陣を作らねばならずで、運航維持費が掛かるためだ。
ひたすらそこに待機するだけでも、維持費が馬鹿にならない。
艦を動かす燃料は、無限エネルギーだとしても、それ以外の食費や人件費などが高くなっていく。
だから、エデルはこの場所を選択しなかった・・・。
というのも噓であり、彼の真の意図は、ここで敵を待ち構えると敵を殲滅出来ない事にあった。
入り口付近での戦いは、互いに粘り合う形となり、連邦が無理をしなければ、そのまま引っ込んで退却が可能となるからだ。
敵艦隊を損傷させるとしても、万にも届かないだろう。
だから、エデルはこの場所を選択しなかった。
そして、次に選択肢として入るのは、敵の目標である惑星だ。
ハープーン。テルト。ミルトン。
この三つの内の真ん中の惑星のテルトに、艦隊で駐在して、星の脇を固める形で敵を迎え撃つやり方があった。
対宇宙兵器の巨大砲門がそれぞれの惑星にあるので、これを活用して、敵を倒す方法がある。
ただ、この場合も前回の考えと同じで、相手方を全滅にまで追い込めない事が分かっていた。
だから、エデルはこの場所も選択しなかった。
そして最後の野戦。
ここを選択した理由はただ一つ。
敵方を殲滅出来る可能性が高いためである。
エデルがなぜそこまで敵の殲滅にこだわっていたのかというと。
今から帝国が不安定となる事が確実視されているためだ。
陛下の死が近づいている状況で、対外で戦争をする予定にしたくない。
そこで、彼は連邦の戦力を一時的にでもいいので大幅に減らしたいと考えたのだ。
傍受のシステム。
用意する艦隊数を出来るだけ減らして戦う。
この二つを軸にして戦えば、次の帝国内部での戦いにも対応が出来るだろうと先読みから、この戦いの戦い方が決まっていた。
そして、エデルは、金に糸目を付けぬ戦いも選択していたのである。
その証拠がこれだ。
◇
「やれ。始めろ」
エデルの声で始まるのは。
「はっ」
ステルス機複数の爆発である。それも敵陣の奥深くであった。
スタンがボタンが押した結果が、モニターに映る。
「うむ。さて、これでロンバルディは、どう動く」
敵本陣にて、四機のステルス機が爆発。高価な戦闘機の爆発は大盤振る舞いだった。一惑星の年間維持費を超える爆発だ。
これは敵にとってだと、意味の分からない爆発となるだろう。
エデルは、敵の退却まで視野に入れて、爆発箇所を決めていた。最初からそこにステルス機を配置出来ていたのも、追い込む位置を決めていたからだ。
だからこそ、敵の全滅を目指していたのだ。
「ああそうか。こういう結果か」
残念だ。
エデルは敵本陣が二つに割れた事で、秩序を保てぬ状態に陥ったと判断した。
こうなってしまったのなら、あとはもう完全なる壊滅しかない。
「スタン。指揮を任せた。追いこめ」
「はっ」
自分で指揮をしないのは、勝敗が分かり切っているから。
それとスタンならば、いとも簡単に敵を追い込める。
自分と同等の実力があるのは、スタンのみだからだ。
「右翼軍が先に押しましょう。ニルシュ殿に指示を」
攻撃ポイントを知らせる。敵にその的確な攻撃が入った。
ニルシュの即座の動きが素晴らしい。
「左翼は・・・このまま無理せず、押せと」
無能には無理をさせない。
功を焦り全面に出て失敗をさせないために、スタンは気を遣った指示を出した。
ここがエデルとの違いだ。
エデルならば、けしかけて前面に立たせて死なせる気である。
「中央はこのまま圧迫させます。相手を押し込み。混乱状態の後方と連結させて、立ち往生とさせます」
デルタアングルの入り口に、もっと艦隊を押し込んで、さらに根詰まりをさせる。
エデルも思い描いた指示だった。
「いけます。押し込みましょう。皆さん」
スタンの優しく覇気のある声が、全艦隊に届いた。
◇
ステルス機爆発から一挙に流れが完全に帝国に傾いていた。
その結果、エデルは暇を通り越した退屈にも飽きていた。
椅子のひじ掛けに肘を置き、体全体を傾けた。
退屈がここに極まっていた姿を周りに見せていたその時。
異変に気付く。
戦場の白光のビームの嵐の中で、青い輝きが目に映った。
「ん? あれは、アルトゥールの艦?」
猛烈な勢いでこちらに向かってくる艦隊。
その先頭の艦がアルトゥールの艦である。
「何をする気だ。自棄にでもなったか・・・いや、違う。何だあの形は?」
また不可解な陣形で敵が迫ってくる。
円錐のような形が横に倒れた姿。
その頂点がアルトゥールの艦だ。
「まさか・・・それは一点突破を目指す気か」
敵への体当たりも厭わない。
その覚悟のある戦い方だと、エデルは瞬間的に理解した。
「面白い。あの男・・・何を目指してその突進をするのかというとだ・・・まずは航路だな。スタン。奴の航路を探れ」
「え。は。はい」
スタンがアルトゥールの動きを調べる。
「まさか。閣下。こちらでは」
自分たちの位置を目指している!?
スタンが驚く。
「ほう。面白い。一矢を報いる気か」
エデルは驚きよりも喜びが勝っていた。
敵の勇気に乾杯したい気分だ。
「スタン。私が指揮を執る。奴らの侵攻方向となる区域を厚くする。敵の航路付近の艦を動かせ」
「はっ」
自分たちの予測情報から、敵の進行方向の艦隊を集める動きを見せた。
防御として考えると完璧な対応だった。
だが。
「閣下。敵の突破の勢いが止まりません」
「・・・なぜだ。なぜこれほどの威力を作り出せる? あの形のせいか」
陣形のおかげで、敵を切り裂ける。
そういうわけじゃない。何か不思議な力が働いていると思っていい。
それくらいに敵の動きが良過ぎた。
「神の加護でもあるのか。奴には天星の加護でもあるというのか」
銀河の御伽噺。
天の人。
時代の節目に必ず現れるという天星の力を得た人物。
それくらいに、アルトゥールの動きは神懸かっていた。
「閣下。アルトゥール殿の艦隊の裏に、現場を放棄した両軍が入り込むそうです」
「ん? なに。現場の放棄? どういうことだ」
「はい。ニルシュ殿の報告で、自分の前の敵が横にズレていくとの事です」
「なに? 横にズレていくだと」
今まで、アルトゥールの動きだけを注視していたので、ここでモニターで全体を見る。
たしかに、フローシアの軍が、正面の敵の攻撃をいなしながら、スライドしていった。
「まさか。奴の狙いは、私じゃないな。決死の覚悟での一撃はフェイク!? しまった。これは!?」
エデルはここで自分を狙った攻撃じゃない事に気付いた。
アルトゥールの本当の狙いは別にある。
「スタン。まずい。奴を止めねば、この戦場がひっくり返る」
「え? それは・・・」
どういう事でしょうかと思う前に、モニターで戦場把握をするスタン。
数秒後にエデルと同じ事に気付く。
「大挟撃!? 閣下。まさか、これは包囲に持ち込む気ですか」
敵は裏抜けをする気だ。
エデルとスタンの二人は、敵の突撃の本当の意味を理解した。
まだ、彼らが中盤あたりを走っている時にだ。
「スタン。蓋をしろ。敵の侵攻を崩すには、頂点を消す。アルトゥールの乗る艦に攻撃を集中だ」
「はっ」
ここから終盤へ。
アルトゥールの艦への攻撃は執拗なくらいに行われた。
だが。
「閣下。敵の艦隊の二つが、先頭の艦の盾となっています」
「その判断。勇ましい限りだ。味方の命を捨てて、勝負に出たという事か」
敵の配下の勇気のおかげで、アルトゥール艦を潰すことが出来なかった。
「・・・いや、命を懸けてもいい。そう思える主君なのだな。アルトゥールという男は」
そうだ。逆だ。命を捨てたのではない。
英雄を生かすために、自分の命を懸けたのだ。
今までの行動から言って、アルトゥールの考えはそうじゃない。
アルトゥールが部下を見殺しにするという考えじゃなく、部下が命を惜しまないという考えの方がしっくりくる。
「スタン。これは、敵ながらあっぱれだろう」
「はい。閣下。半分は回頭しましょう。裏から来る敵へのケアをします」
「うむ。こちらの裏を気をつけねば・・・ん?」
「これは・・・閣下。まさか・・」
アルトゥール艦から何かが放たれた。
眩い光が戦場を照らす。
「く。これは、閃光弾!?」
目を潰された。モニター越しでも眩しく、直接前を向いていた艦は視界を奪われたはず。
「奴らめ。なんて原始的な・・・」
数分後。視界が戻った後。
「なに。この配置。無駄がない」
裏抜けした軍が、完璧な陣形を保つ。
横並びに並んだ敵軍は、約一万。
これが裏に出来上がるという事は、前にも一万。後ろにも一万。デルタアングルの入り口に逃げ込んでいる艦が一万あったとしても、敵は二万の艦で、こちらも二万の艦である。
「同数対決。そして、こちらが挟撃を受ける状態か」
帝国の立ち位置が、圧倒的に不利になった。
逆転した戦場。
だからここから戦えば、確実に血みどろの大決戦となる。
完璧な勝利を目前にして、薄氷の勝利へと変わりそうになった。
そうここまでの事をされても、エデルは勝ちを諦めていない。
「閣下。戦いますか」
「うむ・・・これは、どうすべきか」
常時であれば、自分の艦隊が減る事は気にしない。
だが、今の帝国だと、波乱となるはずだから、艦隊数は生き残るための絶対の条件となる。
無理は出来ない。だが、負けるわけにもいかない。
悩みに悩んだエデルだったが、意外にも一分で結論を出せた。
「この男・・・ふっ。そうか、そういう事か。ハハハハ」
「ど、どうしました。閣下」
エデルが負けそうになって気が狂ったのか。
スタンは、エデルが人目を気にせずにここで思いっきり笑ったので驚いていた。
「見よ。スタン」
嬉しそうな声に覇気が籠る。
「はっ」
だからスタンも気合いを入れた返事をした。
「あそこだ。敵の左翼」
「はい・・・なるほど」
遅れてスタンも気付く。
敵左翼に穴がある。抜け道のように、こちらを塞がない穴があるのだ。
そして何よりも、この一分近くの間、敵が攻撃を仕掛けてこない。
「奴は、あそこから逃げろと言っている。無言でこちらに気付けと言ってな」
「はい。退却路をわざと作っていますね」
「ああ。無駄な戦はこれ以上するなという意味だな」
「ええ。そうですね」
「いいだろう。あの男の考えに乗ろう。戦場から離脱する。一旦テルトまで下がるぞ」
「はっ。閣下。指示を出します」
「うむ」
エデルは、アルトゥールの策に乗った。
そして。
「スタン。映像通信をしたい。出来るか」
「無理だと思います。あれは敵の特別なチャンネルを知らなくては」
規格が違うので、帝国と連邦では、回線を繋げることが出来ない。
「エデル殿」
「ん?」
「儂がやろう」
「出来るのか。アズマ」
「あの旗艦には、散布された光がまだ取りついているはず。音声の傍受の要領を逆転させて、録画映像くらいなら送り込むのが出来ると思うぞ。しかしだ、通信に割っては入れんので、正体不明の通信になるだろう。それと、その不明をそちらが開いてくれるかは、運ですぞ」
「それでもいい。私は相手に思いを伝えたい」
「わかったぞい。映像を撮ってくれ。儂が出す」
「任せた」
こうして、この死闘の決着は着いた。
エデルは、この戦を将としては勝ちの戦と認識している。
だが、個人としては、敗北の戦として記憶に残した。
運命の二人はここで出会った。
銀河の三英傑の一人。
『真紅の不死鳥』エデル・フォン・ポイニクス
もう一人の英雄アルトゥールを生涯の宿敵として、この銀河を英雄として生きる事となる男だ。
銀河の歴史は、ここで大きく変わった。
運命が変化するきっかけは、どこにでもあるわけじゃない。
あの男の周りで起こる事となる。
だから、あの男が出現した事により、銀河は変わってしまうのである。
偽の英雄にして、天の人。
坂巻新。
あらため真アルトゥールによってだ。
時代は、混迷を極めるが、面白い時代に突入したと言っても良いだろう。
今の状況を退屈とばかりを思うエデルには、これから始まる銀河の三英傑の時代を楽しみにして欲しいものだ。
これが三英傑の一人エデルです。
自分は、エデルも好きですが、スタンが好きですね。
苦労してます。結構。いや、かなりですね。
一生懸命尽くす姿が、カッコイイかなと思っています。
指示を出さずとも指示を出せる。
なのに、エデルを立てるためにあえて指示を聞く。
そして重要な時は、言葉少なくしてすぐに行動に移す。
完璧な秘書みたいなイメージであります。
そしてエデルは、激情に身を委ねる感覚を持っています。
癇癪持ちですね。
ただ、スタンがいる限りですが、そこを封じる事ができます。
だから二人で一つのイメージで、エデルはこの世界に存在しています。




