第22話 デルタアングル宙域戦裏 優秀な配下たち
会議が終わった直後の移動の出来事。
「スタン。奴は?」
「博士ですか」
聞いてきた人物の名を言わないのに、スタンには分かった。
以心伝心はここでも役に立つ。
「うむ」
エデルが、満足そうな顔で頷いた。
「博士は研究室にいます。例の物は完成させたと言ってました」
「変人め。だったら、なぜこちらに来ない? 私に会いに来て、報告しろと言っていただろうに」
「最後まで実験をしたいと、博士は細かい部分の調整をしたいようですよ」
「そんな事は部下にでもやらせるべきだ」
大元が出来たのなら会いに来い。
エデルの考えの方が普通であるのは珍しい。
「仕方あるまい。奴に会いに行く。スタン。連絡を入れろ」
「はい」
二人は、研究室へと向かった。
◇
「アズマ!」
研究室に入るや否やエデルは怒り出す。
名前を呼ぶ声に力強さがあった。
「ん? おお、これはこれは、赤き猛獣殿」
相手が怒っているのも気にしない。
淡々とした白衣の男性の名は、『ナルビット・アズマ』
帝国で閑職にある研究室にいた人物だ。
実力を認めたエデルによって、彼専属の研究員となった。
「なぜ、私に報告せん」
「しましたぞ」
『文書で!』が抜けている。
博士は、謎の液体をビンに詰めていた。
「していない。会いに来なければしていないと同じだ」
「それは・・・面倒でありますな」
間がある事で、更に面倒そうに思う。
「はぁ」
さすがの癇癪持ちのエデルでも、こうも正直に言われたら、怒りようがない。
呆れてため息をついた。
「それで、アズマ。例のが完成したのか」
「ええ。そうですぞ」
ここで博士は、初めてエデルの顔を見た。
今まで振り向かずに話していたのである。
「これですぞ。これが、散布されれば、音声を傍受できるのですぞ」
「ん? その液体か?」
「はい。これは通信網をキャッチする力を持っていて、映像までは無理ですが、音声と文字ならば、実験は成功してるのですな。うんうん」
独り言みたいに話して、最後に頷く。
博士は変わっているのである。
「文字もか」
最初の情報では音声だけと聞いていたエデルは、思った以上の成果を得ていると満足した。
「はい。ただ文字の場合は、正確性に欠けていてですな。受信機の方の情報で、文字化けしてしまいますぞ」
「じゃあ、使えんではないか」
「ええ。でも、音声は確実性がありますぞ」
「そうか。アズマ。今、使えるか?」
「今? ここでですか?」
「いいや、次の戦だ」
「ほう。戦ですか」
戦いに使用する為と聞いていたから、それほど驚きはない。
アズマは変わらず淡々としていた。
「今度、デルタアングル宙域から敵が来る。その際に使用したい。出来るか」
「・・・・どのような形で? 規模は?」
最初から出来ないとは言わない。
それがエデルが、博士を気に入っている部分である。
「そうだな。一気に全体を聞くというのは、技術的よりも、こちら側に無理が生じるだろう」
その液体を散布して、全体の音声を傍受しようにも、受け手側のこちらが大量の音声の波に、情報を整理できなくなるだろう。
そこで。
「敵の片翼だな。おそらく敵は、野戦となれば通常の仕掛けをしてくるだろうからな。どちらかの位置に配置しよう」
「となると、規模は?」
「んんん。五千か。およそだな」
「五千・・・技術的には出来るでしょうな」
「出来るか」
エデルの声が明るい。
これで戦争に勝ちやすいと思ったらしい。
「ええ。ただ閣下。その規模だと発動条件がありますな」
「どんなのだ」
「事前設置ですぞ。これをいきなり散布しても、発動が難しく、音声情報を精査できない可能性がありますぞ」
「なるほど。どれくらいの期間が必要だ」
「戦争の一週間から三日前がいいです。これくらいの間に、こちらの液体が細かくばら撒かれて、あとはこの中にあるナノマシンが、艦に張り付いて、情報を得ますぞ」
「ナノマシン?」
「ええ。液体で保護されたマシンが艦隊にぶつかって弾けてから、張り付くのです。そこで情報を得る。仕事の流れとしては、これだけですぞ。あ、でもこれは大変便利なのですが、敵への直接攻撃は不可能となっていますぞ。攻撃まで出来たら、完璧な兵器ですがね。これはそんな代物じゃないですな」
兵器とは言えないのは、直接攻撃が不可だから。
軍研究者としては失格の部類だろうが、エデルにとっては最強の兵器だと思っている。
戦場で敵の動向を見極めること以外に、素晴らしいことはないからだ。
「十分だ。三日前か・・・そうだアズマ。その実験は宇宙で、実際の艦で成功しているのか?」
「いいえ。やったことがありませんな。惑星内の実験結果で言ってますぞ」
「なに!? それを早く言え。急ぎ実験をしよう。宇宙内でも可能かどうか。やるしかあるまい」
「いいでしょう。大将殿の艦に乗せてくれればすぐに出来ますぞ。ああ。それとあと二つ。艦を用意してください」
艦を二つ用意して、互いの会話を盗聴すれば、実験は完了する。
その意味で、艦隊三つを用意せよと言っている。
「わかった。スタン。すぐに実験に出る。宇宙に急ぐぞ」
「はっ。では、博士。こちらにどうぞ」
「うん。スタン殿、助かる」
さっさとどこかへ行ってしまったエデルに対して、スタンは博士を行き先に導く。
思い立ったが吉日のエデルには、細やかな気配りの男が合う。
◇
エデルにとっての赤は、イメージカラーでもあり、肉体に宿っている色でもある。
髪。目。想い。
真っ赤に燃え滾る炎のように、彼にとっての赤は特別。
エデルの内面にも外見にも、赤は繋がっている。
その中で、彼の旗艦エイリーンも真っ赤に染め上げられている。
敵に狙われやすくなるが、誰よりも目立つ艦でもよいとするエデルは、自分に絶対の自信があるからこの色を旗艦に設定できたのだ。
エイリーンが宇宙へ飛び立つ寸前。
「閣下」
「ん?」
これから飛び立つ。その瞬間にスタンが口を挟むのが珍しい。エデルは耳を傾けた。
「連絡が来ました」
「誰だ」
「ニルシュ殿です」
「なに、奴はまだ」
そう彼は、第五銀河のヴァルトラン地域の一部の鎮圧の作業に出ていたはず。
だからこちらに来るには早すぎて、戸惑いがエデルにあった。
「映像、出しますか」
「いいぞ。スタン、出せ」
メインモニターに彼の全身が映った。
ニコッとした笑顔で挨拶をする。
「閣下。任務完了です。あっちの鎮圧してきましたよ」
「ニルシュ! 仕事を終えたのか。鎮圧はさすがだ。だが、その後は」
そう全てが早すぎるのだ。
通常は鎮圧から、治安の安定までが仕事だろうに。
「なんかよく分からん奴に任せましたよ。あれって貴族ですかね? 名前忘れちゃいました。俺の艦が出した自動報告書になら載ってますかね?」
ニルシュは反乱鎮圧後に、治安維持はこちらがやると言われたらしい。
「・・・ああ。そうだな。そいつは、おそらく手柄を貰う気だな」
大体の予想が着く。
貴族共の浅はかな考え。
手柄の横取りだ。
「ええ。俺もそう思います。でも俺、そこに興味ないんで、治安の仕事。引き渡しちゃいましたよ。あれってもしかして閣下の査定とかで迷惑になります?」
「ふっ・・・いい。その程度、私の迷惑になどならん。それにニルシュの評価は私がする。他の者にはさせん」
「ならいいや。閣下の評価が貰えるなら、別に帝国のはいいや」
忠実な部下な上に、超優秀な配下。
それが、ニルシュ・バーンネイド。
お気楽そうな感じの話し方をするが、戦う時はその性格と反して冷静型である。
得意な戦法は焦らし。
相手の攻撃をのらりくらりと躱し続けて、相手の弱点を見抜くのが上手く、こちらの長所を活かすのが上手いために持久戦が最も得意だ。
「そうだ。ちょうどいい。ニルシュ。実験に付き合うか。今はまだ宇宙にいるのか」
「ええ。首都にもうすぐ到着しますね・・・それに実験ってなんですか?」
「今度の戦いで使用する秘密兵器だ」
「へぇ・・面白そうですね」
ニヤリと笑ったニルシュは、実験に付き合うことなった。
◇
「アズマ。どう使う?」
「砲弾のようにして放出するか。爆発させて散布でもいいですぞ」
「爆発だと?」
「ええ。例えば、戦闘艦を無人にして破壊。それで勝手に散布ですな」
「・・・はぁ。大規模だな」
「ええ。花火の打ち上げと一緒ですな」
「・・・そうだな」
博士の考えがぶっとんでいるために、さすがのエデルでも呆れていた。
「それは後で考えるとして、今は実験をしよう。とりあえず、二機の周りに出せばいいか」
「そうですな」
ニルシュの艦と、もう一つ用意した艦に、ビンの中身を散布。
実験を開始した。
秘密回線を使用してもらい、その音声を拾う実験だ。
「あ。あ・・ああ! あ! あの、これって聞こえるんですかね。これ聞こえたら、歴史が変わる感じしますね」
回線を使用せずに、ニルシュの声が聞こえた。
相手との会話でも、軽い返事のままである。
傍受が成功しているエデルは、博士を見た。
「これは成功。そうだな」
「ええ。そうみたいですな」
無事に成功していても、表情変えずに博士は頷く。
「これでその通信に割って入れれば、儂としては大成功なのですがね」
実はこの研究は、通信傍受ではなく、通信妨害の研究だった。
相手の通信を乱すことが目的だった。
偽の文書や、音声など。
敵に偽計を仕掛けるのが最終目標だったが、今はその途中段階の音声傍受が完成しただけなのだ。
だから、博士としては満足いく結果ではないのである。
「いい。それでも十分だ。アズマ。よくやった」
「ええ。でもまだまだ研究したいですな。いいですかね?」
「もちろんだ。好きなようにやれ。お前は予算を考えなくていい。スタンがなんとかする」
「ありがたいですぞ。お金だけが心配でしたからな」
厄介事は全部スタンがやる。
スタンが常に大変である事は、説明しなくても誰もが予想出来る事だった。
「よし。戦争は勝ちが決まったな。後は準備の策を練らねばならんな。スタン。ここからは準備だ。いいな」
「はっ!」
全てを成功に導くために、エデルは部下たちと共に、デルタアングル戦に向けて、罠を仕掛けたのである。




