第19話 デルタアングル宙域戦 英雄の共鳴
一番最初に俺たちの艦が、敵の最後列をぶち抜いた。
「少佐。抜けました」
イネスさんが叫んだ。
「わかってる!」
作戦成功の第一声は、安堵の声じゃない。
全体の気を引き締める。俺の声は、警戒の声だった。
「ウーゴ。後方の艦の予測を」
「はい・・・・フローシア大佐の艦隊の後方とトリスタン大佐の艦隊の後方・・・・ほぼ同時に突破する予定です」
「時間は!」
「予測は7分です」
「了解だ。じゃあ、すでに敵の中間は抜け切っているな」
「はい。今の段階でもそうです」
よし来た。
これなら例のもので、狙い撃つぞ。
「イネス。ララーナに繋げ」
「はい」
艦内連絡網が開く。
「大将。出番か」
「そうだ。ララーナ。砲撃準備は」
「いける。今すぐでもいいぞ」
「よし。六分後。敵の最後列に向かって、特殊閃光弾を放つ。ララーナが照準を」
「任しとけ」
「頼んだ」
彼女の端的な答えが安心感を生む。
なんだか、何でもやってくれそうな気持ちになるんだよ。
彼女の受け答えがね。
「皆。ここが最後の正念場だ。俺たちがやるべきことの全てを、やりきるぞ」
「「「はい!」」」
仲間の犠牲を乗り越えて、俺たちの作戦は最終段階へ。
◇
六分後。
「特殊弾を放つ。その連絡を両大佐にしてくれ。イネス。目に注意をしてくださいと連絡を。あとそうだ。タイミングを合わせて視界は前方だけにしてくださいとも、連絡をして欲しい」
「了解です。連絡します」
俺は内部連絡のスイッチを押す。
「ララーナ! 出番だ」
「おう。準備は出来てるぜ。いつでもいい」
「わかった。特殊弾。発射だ」
「ほいよ。大将出すぜ。おいバッカス。やっちまえ」
ララーナは自分の部下に指示を出した。こっちの通信連絡にもその声が乗っている。
アーヴァデルチェから放たれた一つのミサイルは、自分たちの艦隊列を超えて、トリスタン・フローシア両軍の艦隊列をすり抜けた。
全ての味方艦隊を通り抜けた後。
特殊閃光弾は敵陣の最後列で輝く。
彼らは、俺たちが放った特殊弾を見てしまう。
なぜなら、俺たちの命懸けの突破を見ているからである。
艦の船首を艦隊後方に向けてしまっているから、これを免れることが出来ない。
そして肉眼で光を見ずとも、この光をモニターでは確認するだろう。
そうなれば、予測として正しいのは・・・。
「一瞬だけでもいいんだ。これで目が焼かれてしまえ。そのわずかな時間を使いたいんだよ」
視力を一瞬奪う。閃光弾の威力説明の時にあったのは、完全に奪う時間が一分くらいで、徐々に見えてくる時間が五分だと思う。
しかし、この僅かな時間が勝敗を左右すると思うんだ。
「カタリナ、閃光弾の行方は! どうなった」
「爆発位置は完璧です。後は向こうの艦隊の動きを見ます」
「頼む」
天然ボケ女神のカタリナさんは、情報分析の天才っぽい。
俺たちにチャンスをくれた二人の艦長に対しても、完璧な受け答えをしていた。
だから、俺は閃光弾の動きに関するもの全てをカタリナさんに託していた。
「少佐。敵の動きが鈍っています。特に我々が通り抜けた場所の近くの敵は動きが遅いです。これは、敵艦隊の目を潰せていますね。旋回行動も遅れています」
「おお。思った通りだ。今のうちだ」
これで、敵が足並みを揃えて、俺たちを攻撃する事が難しくなったはずだ。
目を潰せていない艦隊が動くことはない。この前の鶴翼の陣の防御が効くはずだ。向こうが突出して来たら、俺の餌になる事に、敵の優秀な指揮官なら気付くはずだ。
「ウーゴ。布陣はどうなっている」
「出来てます。全艦がその軌道に乗ってくれてます」
敵の陣を抜けきった先の俺たちの艦隊の航路を計算してくれた。
しかもウーゴ君は、両大佐の分もやってのけたのだ。
こっちも彼女同様天才だろうな。
「よし。いくぞ。これで戦いを終わらせる。急ぎ。艦隊を、敵の裏に並べろ」
ここからが本当の仕上げ作業だ。
◇
俺たちは敵の背後に艦隊を並べることに成功した。
俺の艦隊が敵中央の裏。トリスタン大佐の艦隊が敵左翼の裏。フローシア大佐の艦隊が、敵右翼の裏である。
ウーゴ君が急造で出した運行データがあったとしても、それを即座に実行できる両大佐の軍の規律性は、明らかに少将が指揮している本営よりも素晴らしかった。
やはり、二人もまた優秀な人であった。
「イネス。両大佐には連絡しているな」
「はい。我が艦の攻撃指示の時にだけ攻撃してくれとの指示を出してます」
「ありがとう。それでいい」
俺の作戦はこれにて完遂だ。
「敵はどうなってる。ウーゴ」
「あと、数分で敵艦隊の半分がこちらを向きます」
敵後方が、俺たちを無視できなくなった。これで、警戒度マックスだろう。
「よし。俺の予想が正しければ、これで終わりだ!」
ウーゴ君の言葉で確信した。これで終わりだ。
「いいか。絶対に攻撃するなよ。絶対だ! 我が艦隊で、もしビーム砲を放った奴がいたら、そいつは厳罰に処すと伝えろ」
「了解です」
イネスさんが返事をした後。
カタリナさんが俺の隣にまで歩いてきた。
「少佐。今がチャンスなのでは……ここから殲滅戦に移った方が?」
情報分析をすれば、それが正しい。一番の正解だ。
彼女は正しいことを正直に話す人でもある。
「そうだね。でも駄目だ。それでは死力を尽くした戦いになって、両軍の犠牲はとんでもない数になる」
「それのどこが駄目なのでしょう。こちらだって有利な状態なのです」
結構粘るのね。頑固か?
「いいかい。カタリナ君。俺の推測でもあるが、あっちの総大将は、俺とほとんど同じ思考をする人だ。だからこそ俺は分かるんだ。ここで引くとね。いいかい。今からを見てほしい。彼は俺たちの左翼から逃げ出していくからさ」
「え?」
「俺は連邦軍の左翼。トリスタン大佐の艦隊が少ないから、そっちをがら空きにしたんだ。だから、あそこから逃げ出してくれるよ」
「なぜ? あちらも半分が振り向いて、戦う姿勢を見せているじゃないですか」
「大丈夫。あっちも俺の意図をすぐに理解するはずだ。そういう人だと思う。それに・・・」
「それに?」
たぶん、敵の大将は、俺と同じゲーマーの思考をしている。
自分が予想もしない手を相手が打ってきた時には、警戒して慎重になる。
そして無理をしない。
だって、今の戦場が、自分たちが完全有利状態から、五分五分の状態へとなったんだ。
ここで悩みに悩むはずだ。
そんで、俺がなにも攻撃しない事が、逆に他にも作戦があるんじゃないかと。
無数の考えが頭にちらついて、何か隠し玉があるんじゃないかと深読みして、強引な戦闘をしないはずだ。
そうだ。さっきまでの勝利の雰囲気を台無しにしたくもないし、このままいい所で幕を降ろせば、まだ勝ちの状態でいられる。
ここで軍を引いて、兵力の温存を考えるはずだ。
無駄な消耗を避けて、次を見据えるはずだ!
俺だったらそう考えるから、あっちもそう考える可能性が高い。
俺の作戦の最後の部分は、実は相手を信じるであったのだ。
矛盾しているけど、敵を信じる。
これが、最後の賭けである。
「少佐。敵軍が移動を開始してます。我々の左翼から戦場を離脱するようです。攻撃はしてきません。おそらく攻撃停止の信号弾が放たれています」
ウーゴ君の報告が終わる。
「やはり退却を選択したな・・・・よし、こっち側だけは追撃するなよ。両大佐にも連絡をしてくれ。イネス」
俺の指示を受けたはずのイネスさんが慌てた。
緊急通信を受けたようだ。
「しょ、少佐!? 通信が来ました。不明の信号です。だ、誰からでしょうか? ど、どうしますか?」
来た。
やっぱりな。
俺と同じ思考を持つ者だな。
相手が気になったか。
「イネス、焦らなくていい。そいつは敵大将だよ」
「え、は。はい」
焦り散らかしてる。声がダブついていた。
「少佐。え、映像通信で、おそらく録画映像です。どうしましょう」
「そうか。開いてもいい」
「う、ウイルスとかでは」
「大丈夫。そんな小さな器じゃない。敵はそこで小細工はしない。メインモニターでいい。出してくれ」
俺は腕組みをしてイネスさんに通信を開けと指示を出した。
彼女が許可の操作を出すと、メインモニターに映像が映し出された。
「アルトゥール・ライリューゲ・ドラガン殿」
俺の名を呼んだ男は、覇気を纏っていた。
赤い髪と赤い目が燃え滾る情熱を示していて、アルトゥールさん級の超絶イケメンだった。
映像に映し出される姿でも威厳を感じる程だ。
「録画の映像通信で申し訳ない。会って話がしたいと思っているが、今回は時間がないのが、実に残念だ……貴殿のような素晴らしい将と会えずにここを去るなんて、無念でもある」
演技には見えない演説。
俺はこの人の性格に面白さを感じた。
これは、ライバルを求めている雰囲気がある。
「私は貴殿のその勇気と知謀に感服した。私は、ようやく見つける事が出来た。私の宿敵となってくれる漢をだ。貴殿は、いずれもっと素晴らしい将となるだろう。楽しみにしている」
あ、やっぱりな。
赤劉さんと一緒だな。
この人。負けたくねえ気持ちが前面にあるわ。
「私の名はエデル・フォン・ポイニクス。この名をぜひ覚えておいてほしい。貴殿と再び戦場で会うために、私は今よりも精進しようと思う。ではまた会おう。アルトゥール殿! これにて失礼する」
ゲーマーは、強いゲーマーに惹かれる。
そして、次は絶対に負けたくねえと思うんだよ。
こればかりは、戦争家にも当てはまるみたいだな。
俺だって、次は負けたくねえ。
この戦、ほぼ負けだったから、今度は勝ちたい。
この男、エデル・フォン・ポイニクスにさ。
◇
デルタアングル宙域戦。
これが、銀河の戦乱の時代の幕開けとなる戦いであった。
神聖フロリアン帝国が絶対的に優勢だった時代。
今まで希薄な連携しかしてこなかった銀河連邦が、かろうじて対抗していた時代。
二つの国の時代が重なると、いずれは帝国が完全に押し切る時代が訪れるはずだった。
しかし、その劣勢だった銀河連邦に一筋の光の存在が現れる。
それが、のちに銀河の三英傑の一人となる。
『青天の竜』
アルトゥール・ライリューゲ・ドラガンだ。
彼の出現により、銀河は別次元の戦いへとなる。
だがしかし、彼は彼ではない。
偽りの彼が、彼を演じてる。
偽者の英雄が、銀河の三英傑の仲間入りすることになるのだ。
しかしそうだとしても、彼は本物の彼にも負けない戦果を挙げる事になる。
坂巻新の第二の人生は、銀河の星々にも負けぬ力強い輝きを、自らの力で放つことになるのだ。
ここで、第一章の山場の一つを迎えました。
一旦ここで話が落ち着きます。
これからが、新の新たな人生のスタートです。
彼が英雄の一人になる。しかし中身は偽りの英雄。偽者です。
でも本当の英雄へと成りあがるのが、この物語の基本部分です。
元のアルトゥールの英雄部分は後に紹介しますが、次から少しの間だけ別の英雄の物語を出します。
こちらの銀河には、三人の英雄が登場するので、その一人を紹介したいと思います。
なので、これからも彼と同じようにそちらの方もよろしくお願いします。
それでは失礼しました。




