第18話 デルタアングル宙域戦 何が何でも敵陣を駆け抜けろ
「少佐。前が開きました。一列目への奇襲は成功です」
ウーゴ君が叫ぶ。
「わかった。リリー。あそこだ。あそこ目掛けていけ!! こじ開ける」
「アイアイサ~~~。ワクワクであります。うひょーい!」
凄いね。あんた。この状況で楽しいのかよ!?
ここにいる誰よりも度胸があるわ。
笑ってる人なんて、君しかいないよ。
「あ。でも少佐」
「なんだリリー」
「航路は同じにしますでありますが。アーヴァデルチェ。少し蛇行しますであります。よろしいでありますか」
『であります』が口調の彼女。
だから、何を言ってるのか、よく分からない。
だけど、もうそれでいいや。
「いいぞ。航路内であれば、好きにやれ」
「アイアイサー! うひょーい。試しにいくであります」
グルングルンに船のハンドルを回す彼女。
本当に航路通りに走ってくれるのか。
不安がよぎるが、ここは信じるしかない。
「少佐。両大佐から連絡が」
「なんだ」
「背後に必ずつくから。俺たちに構わずいけだそうです」
「了解。さすが、大佐たちだ」
俺たちの目の前はもうすでに敵艦隊のみとなっている。
一つ打ち破っても、また艦隊は存在する。その奥を、更に奥を。どんどん突き崩さねば、俺たちはこの敵艦隊の波に飲まれるんだ。
だから、俺たちは、この濁流を跳ねのけないといけない。
「いけ。とにかく目の前の艦隊に集中砲火だ。俺たちの艦隊にも引き続きそれをやらせろ」
「了解。連絡します」
しかし、ここまで俺の艦だけは、不思議と敵のビーム砲に当たらない。
それはなぜかというと。
「少佐。ビームの嵐が酷いので、ここで少々無理をするであります!」
「ん? どうしたリリー???」
たしかに彼女が指摘した通り、敵のビーム砲が当たりそうになっている。
数撃ち当たる精神の攻撃が先頭である俺たちの艦に集中しているんだ。
「少佐。もっと前進すると、我が艦隊だけが突出してしまう恐れがあるのであります。なので、今よりももっと横に動きながら真っ直ぐ行くのであります。そうしないと我が艦は先頭を走っているので敵から集中砲火を浴びるであります」
「はい!? どういうことだ。リリー・・・・え?」
「いくであります! リリー流操舵術であります。ほいほい」
リリーは、さっきよりも更にグルグルとハンドルを回し始めた。
右に左と強引に移動し始めるアーヴァデルチェ。
これのおかげで敵からのビーム砲の直撃を受けなかった。
やや強引だが、効果的な運転方法である。
それと、こんなに蛇行するように運転している癖に、彼女はウーゴ君が指示を出した通りのルートを走っていた。
「マジかよ。この人も天才だ……なんだ、この艦の人たちは!? アルトゥールさん。あなたは直接この人たちを選んだんだよな。まさか、やたらと凄い人たちだけを見抜いて、選んだのか?」
俺の仲間は、とても優秀な人が多いようだ。
◇
敵艦隊の中心部で俺は祈る。
頼む。
ここを抜ければ俺の作戦は完了なんだ。
あと少しなんだよ。あと少しで敵を切り裂ける。
アルトゥールさん、俺に力を貸してくれ。
神様よりも俺はあなたを信じてます。
何も力をくれない神よりも、俺に勇気をくれたあなたを信じてます。
どうか守って、この人たちを・・・。
連絡待ちをしていた俺の所に、ウーゴ君から連絡が来る。
「少佐。もう少しで抜けます。予測は・・・あと一時間です」
「そうか。了解だ。イネス。ララーナに繋いでくれ」
「了解です。繋ぎました」
俺は、現在も装備を点検整備しているララーナに連絡した。
「ララーナ」
「おう。大将」
危機に面しても変わらぬ態度のララーナ。
声だけでも男らしさ爆発で、カッコイイ。
「例の特殊装備を発射したい。いけるか」
「おう。二十分あればいけるぜ。時間、それで大丈夫か」
「大丈夫だ。それならいける。ララーナ。頼んだ」
「まかせろ! 発射はそっちの合図でだ。こっちは準備だけを完璧にしておく」
「了解だ。準備出来たらイネスに連絡を」
「わかった」
端的に会話をしてくれるララーナも、非常に優秀な人だよ。
本当にすごい人たちばかりだ。
なんか、この作戦が成功しそうだ。
「少佐。ライデン艦。バルゾイ艦、撃沈・・・ソイナ・・」
イネスから来る連絡は俺たちの艦隊の脱落者たちだ。
すまない。
無茶苦茶な作戦を立ててしまった俺の落ち度だ。
本当にすまない。
でも、この戦。必ず終わらせてみせるから、あなたたちの犠牲は絶対に無駄にはしない。
「少佐!」
「ん? どうした。ウーゴ」
「航路から外れる艦が」
「なに?? どこだ」
「二つ。こちらに近づいてます」
「え? こっちに?」
俺の艦に近づいてくる艦隊が二つあった。
オープンチャンネルで映像が来る。
若くてもダンディな男性二人だ。
「「少佐」」
「君たちは。何をしてるんだ。下がりなさい。俺の艦の近くじゃ、被弾率が上がる! ここが敵の一番の狙いになってるんだ。危険だ」
「いいのです。少佐」
モニター左の男性が言った。
名前は・・・サンチスさんだ。
モニターの下部に名前付きで紹介がある。
「は?」
「私たちは覚悟を決めてます」
モニター右の男性が言った。
シチーさんは、微かに笑った。
「なにを言って?」
「我々が盾となります。少佐を奥までお連れします」
「ここで、我々が命を懸けるので、絶対に勝って下さい」
「馬鹿な。駄目だ。そんな命令出してない」
二人の意見を突っぱねようとするが。
「いいえ。このままでは、少佐が落ちる可能性がある。そうでしょう。カタリナ中尉!」
サンチスさんが俺じゃなくて、カタリナさんに聞いた。
普通なら、ここで上司に対して失礼だってなるだろうが、俺は社会人じゃないのでそうは思わない。
「サンチス・・・それにシチーも・・・」
カタリナさんが俺の隣に立った。
「聡明な君なら分かってるはずだ。士官学校歴代一位の筆記得点を持つ君なら。すでにその計算をしているはずだ」
は? カタリナさんが、歴代一位!?
そんな秀才なの。この人!?
「ええ。このままじゃアーヴァデルチェも落ちるでしょう。そして、この艦隊は、少佐が先頭を走っているからこそ・・・強いんです。我々の気持ちが一つとなれているのは少佐のおかげです」
それ以上先は言わなかった。
俺もなんとなく彼らの言いたい事がわかってる。
俺の艦が落ちたら、この戦場の先はない。
でも俺は、奇跡を信じてここまで来たから・・・。
皆で勝とうとしたんだ。
次の会話はシチーさん。
「少佐。カタリナ中尉の言う通りなんです。あなたがいてこそ、この艦隊は輝くんです。俺たちは頑張れるんです。だから生きてください。俺たちのヒーローはこんなところで死んだら駄目だ」
俺たち?
何か知ってるのか?
「あなたはまだ生きなければなりません・・・・そして、あなたは我々連邦を救えるんです。少佐。我々は、今後の少佐の活躍を祈っています。それでは失礼しました」
「失礼しました」
「ま。待ってくれ。二人とも」
モニターが消えると、二人も消える。
真っ暗画面になって、俺はイネスさんを呼ぶ。
「待っ・・・イネス」
俺が彼女を見ると、俺の目の端に艦隊が見えた。
二人の艦が脇を固めてきた。
「二人に連絡だ。急い・・・」
俺がもう一度彼らと話そうとすると。
「いいえ。イネス。そのままにしなさい」
カタリナさんが止めた。
「カタリナ君! 彼らを見殺しにするのか」
「違います」
カタリナさんの目に涙がある。
険しい表情の中に感情があるんだ。
「違くない。このままじゃ被弾し続ける事になる。そうなればいずれは」
「そうです。だから、彼らが我が艦の為の盾となるんです」
「馬鹿な」
「彼らは・・・・我が艦の為。我が艦隊の為。そして我が連邦軍の為に命を懸けると・・・英雄の為に未来を作ると・・・そういうことです」
「しかし」
カタリナさんの顔がいつになく真剣だ。
今までの朗らかな表情じゃない。唇を噛んで、言葉を発していた。
「私は、今から命令違反をします。これだけはあなたの指示を受け付けない。後で罰してください。ウーゴ。彼らに航路の微調整を。リリー。蛇行はせず真っ直ぐ走りなさい。盾を上手く使うのです。イネス。彼らとの通信連携を! これで、アーヴァデルチェを守り切って、少佐に生き残ってもらいます。英雄がいれば、我々はまだ戦える。ここを抜けて、敵の裏に出ましょう」
「「「はっ」」」
「我々が勝つには、少佐が絶対に必要なんです。アルトゥール艦隊が全力で少佐を守り。その少佐が、我々の勝利を導く。だから、ここで我々は全力で戦うんです」
覚悟が違かった。
俺のは口先だけ、彼女たちの方が覚悟がある。
やっぱり軍人として立派なのは、彼女たちの方だ・・・。
「・・・・わかった。それでいこう・・・・」
だから、俺も覚悟を決める。彼らの命を貰って、俺はこの戦いに終止符を打つ。
「イネス」
「はっ。少佐」
「二人に、武運をと」
「わかりました。連絡します」
彼らに向ける言葉は、手向けの言葉にしない。
生き残って欲しいからあえて普段通りで・・・。
◇
彼らが盾となってくれても、敵のビームの嵐は止まらない。
交差する白光は、俺たちの艦隊に直撃するものもある。
当然、俺を支えてくれる彼らの艦にも・・・。
「デルホイ艦に直撃。ビームコーティング修復の隙間で、当たったそうです」
イネスの連絡は、シチーさんの艦のものだ。
「くっ・・・そうか。わかった。彼は下がるとは?」
「言ってません。このまま進むとの事」
「・・・わかった。このままいく」
歯を食いしばって、俺は進行方向を指示した。
「ウーゴ。あと何分で抜ける」
「三十分です」
「長い。クソ。このままじゃ、限界が」
彼らの盾の役割を解除したい。でも、それじゃ駄目だ。やっぱり三十分もの間、俺の艦だけでビームを防ぐのは不可能だった。
俺の考えは机上の空論だった。出来もしない事を運任せにした結果がこれだ。
次からは、こんな事は・・・。
でも次があるのは、俺たちにだけだ。
クソ!!!
俺に力がないから、こんな事に・・・。
「・・・ふぅ。でもやるしかない。彼らの心意気を無駄にはしない」
独り言を呟いた直後。
「少佐。連絡が来ました」
「ん? 二人からか」
「はい。映像通信です。映します」
二人の映像が映し出されると、俺たちの表情は、驚愕の表情に変わった。
二人が血だらけになっていたんだ。メインルームまで被弾していたのだ。
「ぐふっ。少佐。お見苦しい姿で申し訳ない。ここで、最後の力を使いたいのです」
シチーさんが言った。
「・・・?」
最後だと? 何をする気だ。
「少佐。今より突撃を開始します。前方に巨大な穴を開けたいと思います」
サンチスさんが言った。続けてカタリナさんに話しかける。
「カタリナ。敵陣に致命傷を与えたい。どこに重要な艦がある。その航路も欲しい。どこが、ポイントになるんだ」
「私の予想では、こちらとこちらです。抜ける際に邪魔となる艦はこの二つでしょう。動き方からして、敵の小隊長クラスの艦だと思います。サンチス。ここなんですね。ここがあなたの頑張りどころなのですね。私かと思っていましたが・・・」
「ああ。そうだ。ここが俺の・・・俺たちの誓いを果たす場だ。お前はまだ先でいいはず。英雄をそばで見ておけ」
「わかりました。サンチス、シチー。頑張って」
「「ああ」」
カタリナさんに二人で返事をした後、サンチスさんが続く。
「よし。そこにいくぞ。シチー」
「そうだな。最期だ。最後の勝負だな」
二人で勝手に決めて、俺を通さずに二人でいこうとした。
だから、そこに。
「二人ともいいか」
「「はっ。少佐」」
二人が俺を見た。モニター越しだけど、しっかり見てくれている気がする。
「俺は、引き止めはしない。そして謝りもしない。ただ君たちに感謝をする。ありがとう」
「・・・少佐。いいえ。こちらこそありがとうございます。この戦いに勝てる人は・・・・あなたしかいません。少佐、今は生き残って。勝って下さい。この戦場じゃなくてもいいので、いずれは向こうに一泡でも吹かせて。少佐が大将になって・・・ええ、少佐なら、絶対に大将になれるはずです。なんて言ったって、アルマダンの英雄なんですから」
シチーさんの後に。
「そうです。いずれは、帝国に勝って下さい。少佐。その最初の一歩をここで歩んでください。私たちがあなたの道を作ります」
サンチスがこう言ってくれた。
「・・・わかった。いつか必ず勝ってみせる。帝国に証明するよ。この銀河にはアルトゥールありだとね」
「「はい。少佐。お願いします」」
二人の敬礼の後に、俺も敬礼をした。
今度は不格好じゃない。様になった敬礼だと思う。
二人は最後に微笑んで、通信を切った。
これが本物の将なんだ。
空想の世界の将でもなく、過去の将でもなく、今を生きる将を俺は見たんだ。
立派な人たちだ。俺もああいう風な人になれるように頑張らないと・・・。
◇
二つの艦は、ピンポイント爆撃のように、敵陣奥深くの二隻の艦に体当たりした。
彼らは玉砕覚悟での行動をしていたので、あれはもはや自爆に近い形だ。
隣にいるカタリナさんが、口を塞いでいた。
漏れ出す声を我慢している。彼女の目から涙だけが流れていた。
あの会話の雰囲気から知り合いな感じがする。
友人か恋人なのかも。
それなのに、あの突撃を応援したのか。
やっぱり覚悟が違うんだ。普段の彼女とは全然違うんだ。
体当たりの直後からの大爆発。
敵陣の裏に抜けるための道が出来上がった。
あの道は、この戦場を終わらせる道だ。
あそこを閉じさせるわけにはいかない。
「今だ。ここで全速前進だ。二人の艦隊に感謝して、進め。リリー。前へ進め。アーヴァデルチェを爆発させるくらいに、進めるんだ」
「アイアイサー!!!」
猛烈な勢いで、我が艦は進む。
アルトゥール艦隊を引き連れて、敵陣の奥深くを切り裂く。
「いけ! アルトゥール艦隊!」
俺の願いの叫びに呼応したのは、俺の大切な仲間たちだ。
「少佐。抜けます」
ウーゴ君が言った。
「ああ。いけるぞ。イネス、後ろは!」
イネスさんが続く。
「います。遅れはありません」
「よし。このまま進める。作戦はほぼ成功だが、ここからが本番だ。いくぞ」
メインルームにいるメンバーが返事をしてくれた。
「「おおおおおおおおお」」
俺たちは、士気最高潮となり、戦争の終盤を迎えた。




