第17話 デルタアングル宙域戦 死に物狂いの突撃
俺の策は行動的に言えば非常にシンプルなものだ。
敵陣に穴を開けて逃げる。
このキーワードから連想すること。
それが、関ケ原だ。
俺は、島津家がやったことと同じことをしようと思う。
敵陣のど真ん中。
本陣に目掛けて逃げるという大胆不敵な行動をするんだ。
そうしないとあの敵の敵の虚を突けない。
島津の人たちは、ああやって徳川家康を驚かしたはずだ。
流石に、その後の捨て奸までは真似をしないが、勇猛果敢な動きを敵に見せるしかない。
これしかないんだ。
敵が天才だからこそ、こっちは思いもよらない行動で勝たないといけない。
そうじゃないと、こちらは勝てない気がする。
それに幸いにもね。
今の状況がほぼ関ヶ原の状況なんだ。
関が原では出口は数カ所あったけど、主な逃げ道は西だけ。
今回の俺たちは、北と南が宙域じゃないので、そちら側に航行出来ない。
西の出口にしか逃げ道がない。
だから、関が原とほぼ同じ戦場だと仮定できる。
前からの圧力に負けて、その狭い道に逃げようとした西軍は、勝ち戦で負けた。
普通に戦えば勝てたのに、ありとあらゆる技を駆使した徳川に負けたのさ。
だったら、こっちがありとあらゆる技を駆使すれば、負けはないんじゃないか?
こんな感じの楽観主義で、俺は勝負に出た。
「これより、旗艦アーヴァデルチェを先頭にして、敵艦隊に突っ込む! 出来れば、敵本陣。大将格の艦隊の近くがいい!」
「「「 え!? 」」」
全員が俺を見て同時に驚く。
当たり前だ。
頭がおかしくなったと思うだろう。
しかしこれしか生きる道がないのだよ。諸君。
「少佐。それは不可能では……」
ウーゴ君が不安そうに聞いてきた。
「そうだぜ。俺たちであの嵐の中に入るのかよ」
飄々としているフェルさんですら、不安を顔に出していた。
「そうだ。でも俺たちがあの嵐の中に突入するしかない」
「「「・・・・」」」
意見をすべて否定して、俺は我を通す。
「俺たちが生き残るには前進するしかないんだ。アーヴァデルチェが先頭に立てば、アルトゥール艦隊がついてきてくれるはずだ。いいか」
皆の顔が曇る。さすがに怖い。敵陣に突っ込むなんてな。
「俺たちが最初に勇ましい姿を、皆に見せるんだ。だから。俺たちが円錐陣の頂点やる。いいかウーゴ。陣形を整えてくれ」
「は、はい」
「イネス。アルトゥール艦隊に映像を繋げ。俺が話す」
「わ、わかりました」
このタイミングを逃せば、この戦争は負けが決定する。
壊滅という名の悪夢が、もう目の前にまで迫っているんだ。
だから、ここで終わりには出来ない。
両大佐がまだ生きている状態だから、まだ希望がある。チャンスがある。
俺たちはただただ死を待つのみにはならないぞ。
映像通信が繋がり、俺は皆に説く。
なんか俺が俺じゃないくらいに頭と心が整っている気がする。
アルトゥールさんが乗り移ってくれているのかもしれない。
俺の事を守ってくれているのかも。
この日記帳が力をくれているかもしれない。
俺は胸にしまっている日記帳に手を置いた。
「これより、我が艦隊は敵陣に穴を開ける。それにより戦場は一変する。我々の力でこの戦争を終結させるぞ。だから皆、俺に力を貸してくれ。俺が先頭を走るから、皆は後ろをついてきてくれ。俺たちでこの敗戦濃厚の戦場を変えるんだ! いくぞ。アルトゥール艦隊! 臆するなよ。ひたすら前に進め! 俺たちが、連邦軍の勝機を掴む」
映像は、俺の敬礼で終わった。
すでに私というのを言い忘れていた。
でももういいだろう。一か八かの賭けの方が大切だ。
「少佐! 円錐陣形いけます」
「よし。ウーゴ。発進しながら陣形変形ができるか」
円錐陣形とは、俺のオリジナルで作った陣。
魚鱗と鋒矢陣形の形に似せて作った宇宙版の攻撃陣だ。
一点を突破するために、皆で円錐形になって突撃する。
「できます。指示を出しますか?」
「お願いする。運行面の全てをウーゴに任せた」
「はい」
ウーゴ君はモニターにだけ集中し始めた。
「よし。リリー! ウーゴの運航データをもとに臨機応変に戦場を駆け抜けろ。俺たちが先頭で引っ張る。運転を頼んだ」
「アイアイサー少佐。ぐへへへ。先頭! 幸運! 一番乗り! 僥倖! お任せを~~~。であります!」
運転大好きリリー少尉は、アーヴァデルチェの操縦士だ。
天才的なハンドルさばきをしているらしく、宇宙を航行するために生まれてきたと言われても過言じゃない女性らしい。
しかし、運転以外に興味のない変人としても有名だ。
実は彼女も会議に出席して欲しいと誘ったのだが、こちらの運転をしたいがために、お断りしてきた人だ。
艦に自動運転というものがあるのに、彼女はマニュアルで運転をしている。
他の艦の操縦士と比べた事がないから知らないが、もしかしたら彼女くらいじゃないのか。
フルマニュアルで運転する人はさ。
「イネス! フローシア大佐。トリスタン大佐。両大佐に同時に映像を繋げてくれ」
「はい。三秒後いけます」
「わかった。出来たらすぐに映像を」
メインモニターに二人が映った。
疲弊していた二人の顔が、俺を見た瞬間に若干ほっとした様子を見せた。
救援についての連絡だと思ったんだろう。
本営からの連絡が途絶えているから不安があったんだと思う。
そうだよ。大佐でも不安に思うんだ。俺が不安でもいいんだ。
それでも前に進めばいいんだから!
よし。いくぞ。
「両大佐。アルトゥールであります。今より、我々は敵陣に穴を開けます」
「なに!?」「え?」
同時に驚いた。
「我々は、その穴を開けて抜けきった先で、敵の背後をとります。しかしその時に、我が艦隊のみでは、裏抜けの効果が発揮されません。千の数では相手に圧力を与えるのが不可能なのです」
抜けた先で、前後で挟み撃ちにしたいわけだが、俺の艦隊だけでは無駄に終わる。
数が圧倒的に足りないからだ。
「そこで両大佐。私を信じて、後ろをついてきてくれませんか。お二人の艦隊があれば、一万近くの艦隊が敵の背後に布陣できる形となります。そうなれば、今の混乱した少将の艦隊がこちらにいても、挟撃の状態を生み出せるのです。両大佐。一発逆転はここしかありません。土壇場ですが、ここで私を信じてもらえないでしょうか!」
二人が止まった。
急に自分よりも地位の低い者の意見を聞けというのは酷だろう。
でも、この作戦の肝は二人なんだ。
二人が俺を信じてくれなければ、絶対に成功しないんだ。
頼む。信じて欲しい。大佐たち。
「・・・わかった。俺はアルを信じるぜ。後ろをついていけばいいんだな」
「ありがとうございます。トリスタン大佐」
すぐに返事をくれた筋肉おっさんは、誰よりもカッコいいと思った。
この間まで、世紀末モヒカンとか言って、馬鹿にしてごめんなさい。
「……そうですねぇ。あなたはアルマダンの英雄ですものね。その人が立てた作戦、ならば信じてもよいでしょう。私もついていきますわ」
ありがたい。
フローシアさん。
エロエロの痴女だと思ってごめんなさい。
あなたは大佐として、しっかりしていました。認識を改めます。
「フローシア大佐。感謝します」
アルマダンの英雄がまだよく分からないけど、とにかく彼女も信じてくれたらしい。
「それでは私の艦隊の背後に入って頂きたい。我々の運行予測線をお二人に送り続けますから、その後ろについて頂ければ、作戦はほぼ成功します」
「了解だ」「了解よ」
「では、お願いします」
映像を切って、ここからが本番だ。
「ウーゴ。いけるか」
「はい。完成しました」
「よし。イネスがデータを送って、皆には後ろを走ってもらう。リリー。全速前進で行け!」
「アイアイサー」
アルトゥール艦隊の円錐陣形の頂点に我が艦アーヴァデルチェ。
そこから側面に艦隊を並べていき、一点突破を目指す。
発進と同時に俺たちの艦隊はその形へと動き出した。
ウーゴ君の艦隊航行の技術はマジで凄い。
複雑な配置を難なく決めることができる彼はこの世界の中で、マジで天才だと思うんだ。
「フェルさん!」
「なんだい」
「敵の艦隊配置で薄い場所はあるか。出来たら敵大将の艦の近くだ」
「了解。探すぜ」
直進している俺たちは、まだ両大佐よりも後ろにいる。
彼らも俺たちの行動は確認済みで、戦いながら徐々に俺たちの方に近寄り始めた。
お二人もまた素晴らしい将だ。
相手との激しい攻防の中で、上からの指示もなく敵の攻撃に耐えていながらも、俺の行動を見ているのだからね。
同時に色んなことをやってるんだ。
「あった。ここだぜ」
「よし。ウーゴに情報を渡してくれ」
「了解」
俺たちの行き先は決まった。
敵中央やや右。25度の角度だ。
ここが一番敵の配置が薄い。
だから・・・。
「イネス。通信」
「はい。いけます」
「アルトゥール艦隊。全てを出し尽くせ! 全艦隊。全砲門をフルバーストだ。目の前の敵を撃破せよ」
俺たちアルトゥール艦隊は、ここで全てを吐きだすつもりで、力の限界まで進み続ける。
俺たちは逆転に向けて、決死の一点突破を目指したのだ。




