第16話 デルタアングル宙域戦 試行錯誤
警告表示と警告音から数秒後。
先程よりも若干詳しい情報が入ってくる。
「少佐。後方の爆発原因は不明のまま。何が起きたのかはいまだ分からずですが。かなりの損害が出た模様です……本営もそのために混乱しているみたいで。情報がまとまらないようです」
本陣の錯綜ぶりは、戦場全体にまで影響を及ぼしているようだ。
このままいくと致命的になるのは明白だ・・・。
今のを報告をしてくれたイネスさんも慌てていた。
こちらが情報を精査しようにも、正確なものが入って来ないんじゃ、何も出来ない。
ならばこっちとしても、行動判断を保留とするだけだ。
「わかった。とりあえず本営の連絡には注意してくれ。新たな情報が来たら、俺にくれ」
言葉遣いを間違えた。
内心では思うが、こちらも慌てているからしょうがない。
でも彼女の方も気にせずに返事を返してくれる。
結果オーライだ!
「少佐。了解です」
この事態、俺の予測から色々計算してみるしかない。
まずは全体を振り返る。
相手の総大将。
こいつはかなりの切れ者だと思う。
俺が戦ってきたRTSのプレイヤーの中でも上位陣の思考をしている。
いや、もしかしたら、あの赤劉さんよりも上で、ゲームさせたらトップかも。
戦略のない世界で、おそらく、唯一の戦略家。
何らかの方法で音声通信を傍受する技術を手に入れて、それをうまく活用する方法を思いついた。
だから、野戦を選んだ。
これはあえての選択だ。
ここで敵を全滅できると踏んだからこそ、ここで戦った。
そう考えていい!
それと、あのステルス機を考えてみよう。
今回のカギは、あれだろう。
爆発時の光の粒が怪しかった。
戦いの際の散り際の輝きとは違う爆発だった。
あれに、通信傍受の技術があったとみていい。
現に右翼側の艦隊の音声だけがバレていた。移動先も攻撃位置も、音声で行なっていた大佐は手も足も出なかった。
トリスタン大佐が大敗したのはそこが原因だ。
うん。それと話は違うが、フローシア大佐が引き分け状態でいるのは、相手の大将が優秀であるからだろう。
たぶんそっちの右翼の大将が、通信傍受を決め込めば、フローシア大佐の艦隊は、すでに壊滅しているはずだ。
それで、ここから予測するに、俺が戦った左翼の大将は、たぶんこの総大将とは関係がない。
外の人間だろう。
いわゆる直属の部下じゃないってことだ。
総大将と連携がうまく取れていないあたり、マルチで言う野良と一緒だな。
意思統一が上手くいかないんだよ。
野良と共闘は難しいんだ。常時行う、策も通じないし、連携も取りにくいからな。
だから、俺みたいな戦争初心者が、敵と戦えたと思っていい。
相手の実力が足りないから、敵と戦えたと言い変えよう。
俺は、ここで自信過剰になっちゃいけない。
そうだ。フローシア大佐の方にいる将がこっちにいたら、俺はまずかったかもしれない。
運が良かっただけだ。
「そうするとだ……今の大爆発。俺がやるとしたら、どういう意図でやるかと考えればいいわけだな。俺だったら、どうやってあれを爆発させたかってなると……」
そうだ。
敵の思考がゲームの上位陣に近いなら、俺もその思考に追いつけるはず。
それで、俺だったらと考えた結果。
あそこの位置で爆発させる方法は一つしかない。
それは戦闘区域外から、ステルス機を動かして、敵陣の中に放り込むしかない。
これしかないのさ。
誰にも気づかれずに爆発させるには、ステルス機を無人で動かして、爆発物に変えるのさ。
ミサイルやそういった類の物は、レーダーが感知できる。
だから、それだとこちらを破壊出来ない。
何も知らせずに感知させずに破壊するにはステルス機に爆発物を搭載すればいい。
それで、敵は俺たちの後退の位置を先回りで予測して、そこからステルス機を投入して、爆発させる。
そうだ。
これは、自爆と言う名の地雷だ!
それで、奴らはステルス機を使ったんだ。
あれがいかに高額であろうとも、戦争で負けたら意味がない。
ここで惜しみなく投入するんだよ。俺だったらそうする。
これが大胆な考えだけど、これしかないと思う。
なるほどな。敵は確実に頭がいいぞ。
そうと決まれば、次に敵が起こす行動は・・・・圧迫だ!
ウーゴ君が振り向いてきた。
「少佐。敵軍が前進しようとしてます。前列から動き出してます。特に左右が速いです」
ウーゴ君が敵の艦隊の動きを見破った。
いち早く気付く君は、実に優秀な男だよ。俺の予測とほぼ同じタイミングだ。
「やはり。そう来たか。ウーゴ、敵の奥も見てくれ。全体が進もうとしてないか」
「あ、はい。全体ですね。すぐ調べます」
イネスさんが不安そうな顔でこちらを見てきた。
「少佐。本営の混乱が激しいです。この敵の行動を見ても。後退も前進もしてません。我々はどうしますか」
「待機だ。ここは待機でいく。たぶん、俺たちよりも両大佐が一番最初に戦うことになる。本営が援軍を出してほしいが……今の混乱ぶりでは何もできないだろう」
俺は後ろの慌てぶりが戦場全体に影響を及ぼしている事に腹を立てている。
数はまだこちら側が有利。
その状況なのに。
本営の混乱により、俺たちは更なる大ピンチに陥っているんだよ。
ここで戦えってくれよな。少将!!
それとここからだ。
後ろはたぶん爆発した原因を理解していないから、敵が仕掛けた爆発か、または自分たちのミスで起こった爆発なのかと、勘ぐってるのかもしれない。
双方の可能性を探っているんだと思う。
だから、何もかもが遅いんだ。
判断にしろ。行動にしろ。
状況を好転させる何かをしなければならないんだ。
くそ。だとしたら、混乱しすぎだろ。
相手はこの瞬間を逃さないんだぞ。
優秀なんだ。間違いない。ここで全力を出す気だ。
「少佐。敵全体が急速発進してます。全軍での突撃みたいです」
ウーゴ君の計算が終わった。
そして俺の考えが、完成する。
「わかった」
こいつは、デルタアングル宙域を上手く使った攻撃。
ここから押し込んでいき、狭い通路で圧迫させる気だ。
帰れない環境にして、相手を壊滅に追い込むのが策だ。
だからこのまま行くと、こちら側が主体だった侵略戦争が、あちら側が主体となる包囲殲滅戦争となってしまうわけだよ。
このまま何もしなければ、俺たちは消滅する。
宇宙の塵となる。
まずい。
何か策が必要だ。何か打開する策を・・・。
「少佐、両大佐が敵の両軍とぶつかります。そして」
「なんだ」
「中央軍が退却と前進を同時にしてます。我々はどちらに行きますか」
「なに!?」
連邦軍の少将の艦隊は前後に別れた。
俺たちは今、トリスタン大佐の後方と、少将の艦隊の横の位置で待機をしているのだが。
少将の艦隊が、前に出るものと、デルタアングル宙域の出口に行こうとする艦隊に別れてしまったので、ポツンと中衛に残る形になった。
ありえない。ここで規律を保たなくてどうする?
少将。あんたの指揮監督能力を疑うぞ!
「くそ。あほだぞ。こいつら。冷静に戦えば、まだ戦えるのに、どうする。俺。このままだと。俺たちも敵に飲み込まれる。又は後退してもテルトシア宙域にも行けない。なにせ、ここからすげえ詰まっていくはずだ」
悩むところはそこだ。
狭い出口に入れる数に制限がある。一度に入れるのは少数の艦隊だけだ。
それなのに、そこに何千もの艦隊が一度に入ろうとしてしまえば、そこはもう詰まるだけだ。
お風呂の排水溝に溜まった髪の毛のようなものだ。
「少佐の予測通りです。艦隊が出入り口付近で渋滞を起こしてます。おそらく、あと数十分後にはどちらにも進めない戦闘艦が生まれます」
ウーゴ君の予測が出た。俺の予想もそれだと思ってる。
こいつはまずいぞ。
確実に俺たちは全滅する。
ここからの道を選択しろと言われてもだ。
どの道も険しいから危険ですよとかの単純な話じゃない。
後ろの道を選択すれば、どうぞ背後を自由に撃ってくださいルート。
ならば前の道をと思うかもしれないが、そこは足並み揃わない前進であるので。
ただの無駄死になるルートとなっている。
今、両方の道が死の道となったわけだ。
「クソ! なんで誰も冷静にならないんだ。まだ、まだだ・・・まだ負けてないんだ。クソ、何考えてるんだよ・・・ふぅ~」
俺の焦った声にため息が皆に伝わってしまった。
皆が振り向いてきた。
まずい。
俺はこの艦の艦長だ。
冷静になってないと、皆が不安がるんだ。
クソ。重い。
この両肩に乗る皆の思いが……。
命が。
そうだ。この人たちの為にも、俺は負けてはいけないよな。
俺の命くらいなら、もうどうにでもなれってなるけど。
俺は、この人たちの命も預かってるんだ。
俺は負けられねえんだよ。
こんな所で! 何もしないでな!
「よし……賭ける。一つだけある。一筋の光とまではいかないけど、生き残る可能性を持った行動を取るぞ。いいかみんな。ここからは、命を賭けた戦いをするぞ。みんな。俺についてきてくれるか」
「「「…はい。少佐!」」」
俺の賭けに。
皆は乗ってくれた。
不安そうな顔から良い表情になっていく。
戦う顔に皆がなっていった。
それだけが、唯一の救いだ。
俺も皆から勇気をもらえた気がした。




