第15話 デルタアングル宙域戦 好転 反転 分岐点
鶴翼の陣。
それは古くからある戦場の陣形の一つ。
基本形だとⅤ字に展開して、敵の突進を受け止める防御の陣形だ。
攻撃展開の敵を受け止める陣形でもある。
それは今の状況にも応用できる。相手が前のめりになっている今だからこそ、この陣が活きていく。
俺は艦隊運用にまで、この陣形を組み込んだ。
それはいいのだが。
この世界の鶴翼は、あちらとは違う点がある。
それは、あっちだと2Dに近いものの捉え方でよくて、こちらでは、3Dの空間処理をしないと、薄っすぺらい防御陣になってしまって、かえって単純な横陣形よりも使えない陣形になる。
V字の部分に上下の概念がないと、宇宙ではやっていけない。
でもそこを補う頭が俺にはないので、この浅い考えしかない俺の策を補填してもらうために、艦隊運用のスペシャリストであるウーゴ君の力を活用したのだ。
実戦用に改良してくれた彼は、宇宙版の鶴翼の陣を完成させた。
高段と中段、そして下段。
三段の高さをもって、厚みを増した鶴翼の陣で、バディシステムを採用。
二艦で一つの動き。
被弾したら後退を繰り返す。
これで、艦隊とその船員自体の回復を促すという継続戦闘を重視した防御陣としている。
「よし。破壊出来てるぞ。俺たちの策は敵に通用している」
鶴翼の陣に入り込んだ敵100は、俺たちの艦隊の左右から来るビーム砲の餌食となっていた。こちらに入り込んだ瞬間に破滅の道を辿る。
「少佐。敵艦隊の壊滅を確認。そちらに情報を送ります」
通信関連全ての情報を処理しているイネスさんは、仲間から上がってくる報告を即座に俺の方に送ってくれている。
「なるほどね。鶴翼の陣の効果が高い。あれくらいの規模でこっちに敵が来れば、包囲戦のような形に持っていけるということだな。よし・・・」
「少佐。次はあっちだ」
フェルさんが、敵情報にマークを付けた。
「わかった。ウーゴと共にもう一度さっきのを頼む」
「わかりました」「了解だ」
二人が同時に返事をした。
次の敵は右翼方面に飛び出た150。
目的地までの移動から攻撃目標まで全てを部下に任せて、俺は指示だけを出す。
「よし。敵を捕捉したな。イネス」
「はい。開きます」
「アルトゥール艦隊、一斉攻撃だ。ありったけのビーム砲を発射だ」
アルトゥール艦隊は俺の指示を聞いて、一斉にビームを放出した。
相手を完璧に捕捉した動きと、ビーム砲は完璧に敵を葬り去ることに成功した。
「完璧だ。これで250を撃破。俺ならこれで退却をするけど、相手はどうだ」
俺はモニターに映る赤の三角の動きを注視した。
敵の動揺は、その簡易のマークにも現れていた。
横陣形にも列の乱れが生じてきた。
先程にはないことだ。
そして、揺れ動く動揺から再び動き出す兆候が見える。
「フェルさん。ウーゴ。相手が動揺しているからこそ、少しずつでもこっちに出てくる奴がいる。相手の左翼の大将は、統率が取れない大将なようだ。そこにチャンスがある! 必ず浮いてくる敵がいる。注視してくれ」
そうだ。こっちの将は、あんまり規律性が無いとみた。
フローシア大佐の所の敵将の方が強い!
「そうだな。アルさん。俺もそう考えている。たぶん、焦って前進している部隊がいくつか出てくるぜ」
「そう! だから、俺たちはそれを逃さないよ。ウーゴ。フェルさん。ここが勝負だ。艦隊運行と攻撃位置を頼む」
「わかりました。お任せを」
「了解」
この後、俺たちはこの鶴翼の陣で敵を葬り続けた。
これで俺はさらに確信したんだ。
俺たちの左右の移動に対して、敵は何も出来ずにいたのだ。
これは文書通信の効果が出ていると思う。
相手はどちらに俺たちが移動するのかを理解していない。
そして今までは知っていたんだ。だから、余計に対応で混乱する。
ほら、チート行為をしていた人間が、急にそのチートツールを奪われたら、弱くなるみたいなさ。
そういう事だと思う。
「これは、俺の作戦勝ちだな・・・イネス。艦体撃破数は」
「今ので、1073です」
「そうか。俺だったらな。もっと前に攻撃を終わらせるけどな。この敵はまだやって来るのか。しつこいし、判断が遅すぎる。やっぱり、あっちの右翼大将に比べて、こっちの左翼大将は戦争の勘が鈍い気がするな。引き時を知らないと取り返しが使えないことになるのにさ」
俺がサイドテーブルにコンコンと指をついていると、隣から声が聞こえた。
カタリナさんが語り掛けるように話しかけてきた。
「少佐。私共はどうするのですか? このままここに?」
「うん。ここに居続けるんだけど。敵は、ここで撃沈した数を無視できない数になったと思うんだ。敵の総大将が優秀であれば、俺はここで引くと思う。俺が敵だったらそうする」
俺の意見に。
「え?」
カタリナさんは驚いた。
「左翼大将の考えが悪くともね。敵の総大将は天才だと思うんだ。この音声通信の傍受した方法を思いつくんだ。少なくとも天才に近しい頭脳を持っているはずだ。この世界の常識を破る考えを持つ人が、この撃破された数を放っておくはずがない・・・どうだろう。俺はやっぱり優秀だと」
俺がモニターで敵の配置を調べようと動くと。
「少佐。敵が引いてます。軍を一時後退させてます。敵は左翼だけではなく、右翼も中央も下がってます」
イネスさんが情報を教えてくれた。
「わかった。それなら、トリスタン大佐に連絡を繋いでくれ。映像でもいい」
「了解です。十秒後に映像をメインに出します」
部屋の上部にあるモニターの画面いっぱいに元気いっぱいのトリスタン大佐が出現した。
もう彼の存在がモンスターと変わらない感じで、エンカウントした気分になった。
「おい! アル。すげえぞお前。どんだけ倒したんだよ!!!」
あんたは中学男子か!?
部活で褒めてくる子みたいなテンションなんだけど。
今のシュートすげえよ的なさ。
「大佐。少将に連絡をお願いしたいです。このまま、戦場を後退させて、一時立て直しをしてほしいと」
「ん? 勝ってるのにか」
「はい。現在、敵が引きはじめています。これは戦場設定のやり直しだと思われるので、こちらも戦場設定・・・いえ、態勢を整えた方がいいでしょう。大佐の艦隊の回復もですが、あちらのフローシア大佐の軍の立て直しも必要です。両軍で全てを引きましょう」
「わかった。俺から連絡をするが。お前からじゃなくていいのか」
「はい。私たちはこのまま退却時の殿を務めるので、ゆっくり連絡する時間がありません」
「……それもそうだな。わかった連絡は任せろ。殿は任せた」
「はい。お任せを。大佐」
「おう。またな」
軽い挨拶でしめた大佐。
なんだか緊張感がなくなりそうだったけど、俺的にはリラックスできて助かった。
大佐ってかなりいい人だと思う。
見た目世紀末だけど、本当にいい人だ。
◇
両軍が軍を後退し始めた頃。
俺たちも少しずつ後退をする。
警戒を怠らず、もし攻撃して来たら、罠に嵌めるつもりでいた。
「すぐには戦闘にならないはずだから、皆には、休憩を取ってもらおう。A班で警戒。B班で休息をしよう。イネス。艦隊にも連絡をして、艦内にもお願いする」
「はい。わかりました。両方に連絡します」
俺は今までの浅い座り方を辞めて、自分の席に腰を深くして座り直す。
「はい。少佐。お茶ですよ」
いや、あんた。
俺に何杯のお茶を飲ます気なのよ。
これで三杯目なんだけど!!!
お腹、タプタプになっちゃうよ。
俺ってさ、こういう時にお断りするの苦手だからさ。
結局・・・飲んじゃうよね。
美人が持って来てくれてるしさ。
断りにくいわ。
「どうも……」
あったけえお茶になってる!?
あれ、冷えたお茶からぬるいお茶。
で今はあったかいお茶?
どうして?
ってこれはまさか。入れ直してるの!?
わざわざ??
【ビービービービービー】
一息入れようとするも、サイレンが鳴った。
警告が艦内に映し出された。
【警告 警告 警告】
と壁面一杯に警告の文字が出る。
不安を煽る赤文字だ。
「な、なんだこれは・・・」
イネスさんが叫ぶ。
「少佐。緊急です。我が軍の中央の左後方部が大爆発! 少将の一部艦隊が壊滅です。モニターに映像を出します」
俺の認識は甘かった。
戦争で一息を入れるなどなかったのだ。
これが、ゲームとは違う部分だ。
本物の命のやり取りに、危機ってものは、待ってはくれないんだ。




