第14話 デルタアングル宙域戦 偽りの英雄の初陣
俺たちの行動予定は防衛だ。
カウンターを決め込むスタイルで、大佐の戦場に割って入るつもりだ。
敵が上手くいっている状態が続いている理由。
それが、この策だと思う。
敵がこちらの通信を聞いていることだ!
何らかの方法を駆使して、こちらの音声通信を傍受している気がする。
それをなぜ理解したかというと、タルマー中佐もだけど、ある時からトリスタン大佐の攻撃がいなされている事に気付いたからだ。
例えば、トリスタン大佐の艦隊が左を向くと、トリスタン大佐の艦隊の死角になる右側から攻撃がやって来るといったように、行動を先読みされたかのような反撃を受けるパターンが、何度も起こっていた。
これは音声で行動を起こしているトリスタン大佐と、救援の時に一気に瓦解したタルマー中佐の指示でわかった事だ。
だから、彼らの犠牲は無駄じゃない。
負けている状況を作っている元凶さえ分かれば、あとは俺がそれを逆手に取れば・・・。
つまりは、騙し打ちだ。
こっそり聞いてる敵のほくそ笑んでいる姿を慌てさせる。
こっちは騙すのさ。
ふふふふ。
詐欺師になってやるわ。
と途中で思考が止まった。
それは、ここに見覚えがあったからだ。
「この宙域・・・あれ、見覚えがあるぞ・・・ここは・・・」
モニターを見るのをやめて、肉眼で宙を見る。
「どうしました。少佐。手が止まってますよ。はい、戦う前にはお茶を一杯飲んだ方が落ち着きますよ」
「あ。どうも」
ってあんたは受験生を見守る。
母ちゃんかよ!
カタリナさんにツッコミを入れたくなった。
「ああ、そうですね。ここは少佐のおかげでステルス機を撃破した場所ですね。だから次も少佐のおかげで勝ちます」
どんだけ信頼してんだよ。
って言いたいけど。
そうか。ここか!
「ステルス機。ああ・・・そ、そういう事か。なんか変だと思ったのはそういう事か」
俺は転生してから、いきなり失敗していたんだ。
あんなの賞賛されることじゃなかったんだ。
通常艦隊の撃破時の爆発と、あの時のステルス機の爆発の仕方が全く違っていた。
あれはキラキラと輝く光があった。
それって、何かを散布していたんじゃないか。
あのステルス機の目的は、索敵じゃない。敵を撃破するのも目的じゃない。
あれは、通信傍受の為にあそこに存在していたんだ!?
あの光は、このあたりの通信を読み取る。
何らかの電波傍受システムかもしれない。
まずい。
こうなると、あの時にステルス機を破壊したのが、間違いだったということが確定であるな。
ふ~。
まあ、いいや。俺は後悔をしてはいけない。
何事も後悔したって始まらないからな。
今は前を向く。
それに、その傍受を逆手に取れる!
相手のその戦略をひっくり返せる。
良かったぁ。準備しておいて本当によかったよ。
覇王伝の知識が役に立っている。
敵の大将さんよ。
俺は騙し合いじゃ負けねえぞ。
亮が苦手だった悪魔の戦略。
文字と音声通話の嘘を織り交ぜてやるぜ。
どっちの指示が本当か。
混乱しな!
「ウーゴ。このまま前進しながら鶴翼の陣に変更してくれ」
「わ。わかりました。データを暗号化して送ります」
「よし。イネス。ここから、文書によって、移動と攻撃位置を指示する。おそらく、ここからの宙域は敵に音声が駄々洩れであると思ってくれ」
「え・・・わ、分かりました。少佐」
戸惑ったイネスさんと、テキパキと動き出したウーゴ君は、同時に仕事に取り掛かった。
両者ともに非常に優秀な人だ。
たぶん、この世界の常識とは違う俺の指示を、すぐにこなすことが出来るんだ。
臨機応変な人たちだよ。
「少佐。移動完了は10分後。陣形完了は5分後です」
「ウーゴありがとう。イネス。それじゃあ、移動完了後の俺の指示を全て文章に変えてくれ。攻撃の瞬間だけ音声にしてほしい。俺が音声のボタンを押すんじゃなくて、君が押してくれ。名前を呼ぶからタイミングを全て合わせてほしい。出来るかい」
「大丈夫です。いけます」
「よし。いくぞ」
マジで、二人は超優秀であります。
俺は、考えることに集中できる環境になったんだ。
余計な動作をしなくて済むから助かる。
◇
鶴翼の陣に陣形を変えながら移動中。
俺は指示を出す。
「イネス。オープンで大佐に繋いでくれ。映像も込みでいい」
「わかりました。ですが少佐。さきほど音声が聞かれてしまっていると・・・」
「ああ。いいんだ。この連絡はわざと敵に聞いてもらう」
「わかりました。トリスタン大佐に繋げます」
モニターにトリスタン大佐が映る。
俺は敬礼をして挨拶をした。
「大佐。これより、我が艦隊が前に出ます。大佐は後方に下がって、我々を見守っていただきたい。そして、その間に、負傷艦隊の全てを回復させてください」
「・・・な、なに。アル、そんな事できるのか。お前は千しかいないんだぞ」
「大丈夫です。やってみせますので、私を信じてくだされば、大佐はもう一度戦線に復帰できます」
「…わかった。アルを信じよう。後方に下がる」
「はい。お任せを。守り切ります」
トリスタン大佐は綺麗な敬礼をした。
世紀末ヒャッハーオジサンだと思ったけど、今はカッコイイ親父さんに見えるよ。
俺の見る目は間違っていた。
◇
目標地点に到達、ウーゴ君が振り返った。
「少佐。予定位置に移動完了です。陣も上手くいっています」
「よし。では、このままでいい。俺たちの目の前にいる敵に攻撃する。イネス。目標は前方だと指示。各艦隊の攻撃はバラバラで、当たらなくてもいい、とにかく威嚇攻撃を一斉に行う。音声のタイミングを任せるよ」
「わかりました少佐。指示を出します」
暗号化した文章をイネスが打ち込み。
更に俺の音声の準備を同時にする。
鮮やかな仕事ぶりで、彼女の動きは華麗だった。
「今から敵を釣りだす。イネス」
「はい」
彼女が音声のスイッチを押した。
俺の指示がアルトゥール艦隊に飛ぶ。
「アルトゥール艦隊。ビーム砲発射だ」
俺の指示でビーム砲は放たれた。
千の艦隊のビームは、相手に当たったり、当たらなかったりで。
敵艦のビームコーティングが破壊されても艦体撃破にまでは至らなかった。
同じ個所を攻撃するという指示を俺が出していないからだ。
だが、これで良い。
俺の作戦はそこが肝だからだ。
「敵よ。来い。来い。もっと来い。焦ろ」
俺の願いから指示へ。
「フェルさん! どこか突出した場所はあるか」
「おお。俺の出番ね。待ってな。一瞬で見分ける」
俺は、宙空機部隊のフェルさんを、指令室のモニターの席に置いていた。
俺の席からいえば左前方である。
宙空機で出撃する機会が、今回の戦ではあまりないと見たから、俺のそばにいてもらった。
「あれだな。ここより左。このポイントだ」
「ほんとだ。前に出てきた」
艦隊の列からはみ出すように前進してくる敵艦隊を発見。
俺はウーゴ君とイネスさんに指示を出す。
「よし。フェルさんの予測の位置に正面を移動。ウーゴ。指示を。イネス、攻撃タイミングの音声を合わせてくれ」
「「了解です。少佐」」
敵はこの攻撃に引っかかるはずだ。
これは俺の勘から来るものだけど、十中八九どこかが突出するはずだ。
俺の艦隊数が千であることから、相手は数の優位で押し込みたくなる気持ちが出てくるはずなんだよ。
それに、こっちの軍は同数対決してきた軍なのに、いまだに音声通信を傍受するというズルをしても、壊滅させることが出来ずにいるのが、たぶん焦りに繋がっていると思う。
その結果で、このようなことになるはずだ。
◇
一部の敵艦隊が突出してこちらにやってきた。
「来たな。敵の数は」
「100ほどです。どうしますか」
まあまあの数だ。最初にしては良い!
「陣の内側にまで、敵を引き付ける。中に入ってきたら一斉攻撃だ。今度は各艦隊に攻撃目標を設定する。フェルさん。ウーゴ。二人で決定してくれ」
「わかった」「わかりました」
フェルさんは自分の席を立ち、ウーゴ君の後ろに立った。
彼の席の背もたれにフェルさんは左手を置いてモニターを見て、ウーゴ君を導くようにして指示を作り出していた。
「これが、こっち。こっちはあれだな。この位置なら、正確にビームを放てる」
「はい。こちらですね」
二人の細かいやり取りの中。
俺はモニターから目を離さない。
敵の動きの変化は自分が真っ先に知らねばならないのだ。
それが戦争の鉄則……間違えた。
RTSの目まぐるしい戦いの変化に臨機応変に対応しなくちゃいけないことから学んだことさ。
「相手の移動。予測完了。相手への攻撃。配置完了です。少佐」
「よし。ウーゴ。それをイネスに渡して移動を開始。イネス。通信班で指示を出せ」
「はい。お任せを」
イネスさんとその部下三名が一斉に連絡網から連絡を開始。
十秒後に指示は行き渡り、全艦隊が移動し始める。
100の敵が突っ込んできている位置にⅤ字の鶴翼の陣を設置した。
この難しい横移動を上手く調整できているのはウーゴ君の艦隊運航の計算能力が正しいからだ。
おそらく、ウーゴ君みたいな人は、少将の艦の中にもいないと思う。
実に優秀な人をアルトゥールさんは仲間に引き入れていると思うんだ。
アルトゥールさんが選んだのかな。
だったら、アルトゥールさんもかなり優秀な人なのかもしれないぞ。
「少佐、敵艦隊の正面に入ります」
「了解。イネス」
「はい。チャンネルを開きます」
イネスさんが音声を繋いだ。
「アルトゥール艦隊。目標に向けて、ビーム砲を放て!」
俺の初陣は罠にかかった敵に一斉砲撃することだった。




