第12話 デルタアングル宙域戦 偽りの英雄が本物へと歩み始める
こちらもあちらも艦隊がずらりと並ぶと、さすがに壮観だと言わざるを得ない。
艦隊一つであっても迫力があるというのに、これだけの数が揃ってしまえば、何もせずとも圧力が生まれている。
これほどの数が惑星を囲めばひとたまりもないだろう。
でも、星の陥落ってものは難しいって書いてあったんだ。
だから対宇宙兵器って、よほど凄いもので、頼りになるものなんだろう。
実物を見てないから分からないけど、平気の中でも最強クラスだと認識しておこう。
「それにしても、いったい。いつになったら戦いが始まるんだ。にらみ合いの状態が続いてから?……どのタイミングで開戦にいくんだろうか。こっちが侵略側だから、こっちから始めるのがしきたりがだったりするのかな。作法があったりするのか?」
モニターを見て確認。
敵も味方も配置が済んでから一歩も動いてない。
疑問点がいくつかあっても、俺は誰かにその事を聞くことは許されない。
少しずつ学んでいこう。
えっと、そうだな。
いつ始まるか分からない状態では、戦闘の入りが上手くいかないだろう。
とりあえず士気をあげたい。よし。
「イネス。アルトゥール艦隊に通信だ」
「はい。少佐。音声ですか?」
「いいや、映像でいく。俺を映してくれ」
「わかりました」
メインモニターにあるカメラが俺を捉える。
アーヴァデルチェの様子は、カメラの向こうにいる皆に見えるだろう。
「アルトゥール艦隊の艦長たちよ。それと、我が艦隊の大切な仲間の諸君。少し話を聞いてほしい」
モニターを見てくれているのなら、皆に伝わるはずだ。
俺の意気込みがね。
「いよいよだ。皆、気を引き締めていこう。おそらくは、この戦場。かつてないほどの大戦となるだろう」
資料にある情報と照らしても、本格的な二大国の戦いだと思う。
今までの小競り合いじゃない感じがするんだ。
前は国が出来上がっていく過程でのぶつかり合いだから、この規模では戦えなかったんだろう。
つうかさ。
いや、愚痴を言うけどさ。
なんで、こんな大変な時期に俺は転生したんだ?
黎明期みたいなさ。
七国が揃っている頃の戦いならこんな感じじゃなかったはず。
でも。まあ贅沢は言わない。
せめて三国に整うくらいの時代くらいに転生させてくれよ。
なんで、ぶつかり合う時代に転生したんだよ。神様!!!
俺にまた死ねってか!
はい。一通りの愚痴を言ったので、切り替えます。
「私の少佐としての初任務となるが、皆を上手く導けるように努力する。皆と共に最後まで戦う事も宣言しておく。共に勝とう。皆の力で」
この宣言を聞いて、安心してくれたら嬉しいな。
アルマダンの英雄とか。
意味わからん英雄名がついているアルトゥールさん。
そこを調べても、その情報が無かったからよく分からないけども、なんかの英雄らしいんだ。
その力も借りて、彼らに勇気を!
神様・・・いいや、アルトゥールさん。あなたの力で皆を導いてくれ。
「以上だ・・・・・いや、すまない。足りなかった・・・ここで勝って。皆で生き残ろう。以上だ」
な~んて格好つけてるけど、俺の手はかつてないほどにが震えている。
顔をギッと睨んだような表情にしておかないと、鼻水を垂れ流しそうなくらいにド緊張してます。
背中の汗だって、ダラダラと流れてるんだ。
軍服脱いだらサウナに入った人みたいになるだろうね。
まあ仕方ない。だってさ。
俺ってただの高校生なんだよ。
戦争なんて出来るわけない。
ていうか。日本人だって何十年もしたことがないんだよ。
俺のじいちゃんだってしてねえ。
話に聞いているだけで、体験してないんだ。
俺、戦争なんて歴史の授業とかでしか聞いたことないんだって。
どうしよう・・・どうしよう。
落ち着け俺。
深呼吸だ。
『フー、ハー、フー、ハー』
あれ、両方吐いてねぇか。なんだか目眩してきたわ。
再度深呼吸だ。
『スー、ハー、スー、ハー』
これでいいはず。ちょっと落ち着いて来たか。
めちゃくちゃに緊張している俺は、一人勝手に混乱していた。
でも周りには悟らせないようにしている。
俺の緊張を移したら駄目だからな。
それに俺が艦長だ!
弱い部分は全体に影響してしまう。
ここはどっしりとしてないと・・・。
◇
両軍の艦隊数は連邦3万3千。帝国2万。
約5万の戦い。
これは会議でも言っていた通りの数で、狂いはなさそうだ。
事前の情報が間違えていないのはよかった。戦略や戦術が見えない分、情報が正しいだけでも安心感がある。
それに、この感じだと少将が言っていたままだ。
相手も同じ考えだ。
左右翼に重きを置いて、全体が横陣形の配置だ。
これは、両軍ともに、左右で勝敗を着ける気だな。
「なるほど。やはり相手にも陣形という考えがない。だとしたら、戦いはどういう感じで進むんだ。やっぱりただの殴り合いをするのか。え・・・野戦で???」
これだと、互いの左右が前に出て、真正面での撃ち合いを重ねそうだ。
「横陣って戦場を動かしにくいぞ。代り映えしない景色が続くからな。どこかで動き出す瞬間をしっかり見極めないといけないな。流れを持っていかれる恐れがあるな」
自分の前にあるモニターで戦場を確認した。
イネスさんとカタリナさんに協力してもらって、俺はモニターの使い方をマスターした。
このモニター。
タッチパネルのような操作感覚があって、色々切り替えることが出来て便利なんだ。
今は相手方の配置と、こちら側の配置図を眺めている。
地図とデータで、ここを見ると圧倒的な物量の違いを感じる。
一万以上の差は大きい。数は戦争では絶対の正義だろう。
だからなんで相手は野戦を選んだんだ?
疑問がどんどん疑念になっていきそうだ。
それと、どことなくだが、ここに来て艦の皆の表情に揺らぎがある。
もしかしたら、この数の差を目の当たりにした事で、連邦軍の兵士の心の余裕に繋がったか?
そうなると危険だな。緊張感は持ってないと、いつ戦況をひっくり返されるか分からないのが戦いなはずだぞ。
・・・・ああそうか。本格的な二大国の決戦は初だから。
戦いに心を持っていくのが難しいのか。
よし。俺だけでもここは引き締めておこう。
長がしっかりしていれば、自ずと皆も変わってくれるはず。
ああでも、緊張で胃が吐きそうなくらいに痺れてる。
トイレに行って吐きたいくらいだわ。
でもこれは恐怖からじゃない。
この戦場の怪しさに震えているのさ。
そうだ。ここに来て直感が囁いている。
なんか変だとね。
いや、前にも思ったけど、もしもとなって考えてみよう。
敵の指揮官としての立場で考えるんだ。
それだとすぐに思うのが、こんな広い場所での野戦は選択しないんだ。
ここ、見通しが良過ぎるよ。
相手の動きも、自分たちの動きも、両方が見やすい環境だ。
だから、やっぱり俺たちの背後あたりのあそこ。
デルタアングルの入り口に押し込むのがいいはずだ。
あそこに蓋をして、戦うのが一番楽なはずだわ。
もしくは、俺たちを引き寄せ切って、あっちの奥の惑星で戦うのが、次点の戦い方なはず。
それなのに、ここでの野戦を選択した。
一番守るのが難しい場所にわざわざ移動しているなんておかしい。
これはどういうことだ。
現場を見ると分かるんだ。
なんとなくだけど、相手の司令官の考えってのは、かなり深いのかもしれないぞ。
ただ単に野戦で戦う事が目的じゃないのかもしれない。
もっと別の戦略が存在しているのか?
例えば、全滅させる罠をどこかに配置しているとかさ。
ほら、デルタアングルで押し込む形の場合と、引き寄せで戦う場合。
この二つの場合だと、連邦軍は途中で逃げられるんだ。全滅させることは不可能だ。
ただ、野戦だと違う。ここに凄い罠があれば、一網打尽で全艦隊を沈める事が出来る。
・・・・嫌な予感だけど、この考えが合ってる気が・・・・。
うん。だってさ。あっちの数が少ないのもおかしいんだわ。
なぜ、その数で、野戦を選択できるんだ。
俺がやってきた覇王伝でも、戦う選択肢が取れないほどの戦力差がある状況だと、無理できない選択をするもんだ。
そうだよ。事前にそういう状況を把握できるならなおさらだ。
こっちもあっちも、今の状況を把握しているはずで、それなのに、策も講じずに戦場に艦隊を並べるだけなんてありえないと思う。
待てよ。もしかして。帝国の艦隊の性能が良ければ、互角以上に戦えてしまうのか?
いやそれでも、数の違いってものは大きいと思うんだ。
だから、こういう数の差が生じた時ってのは、そもそも戦闘をしないもんなんだよな。
他の手段で戦うはずだ。例えば、外交戦略とかで、はぐらかすはずだ。
停戦を持ちかけたり。
それが出来ないなら、兵数をごまかして事前に戦いが起きないようにしたり。
または、こっちの兵器が最新のものだよとかで、脅しにかかる。
俺ならそうする。
相手に戦っても無駄なんだというアピールを少なからずやるはず。
ハッタリでも何でもかまして、戦争を起こさせないようにするはずだ。
でもその形跡は資料になかった。
という事は、何か切り札を隠し持っている可能性がある。
戦争に踏み切った背景には、必ず何かの隠し玉が存在している。
気をつけないと。
この戦場には絶対に何かがあるんだ!
◇
オープンチャンネルで、回線が開いた。
メインルームの一番大きなモニターに、少将の顔がでかでかと映った。
カメラ近すぎ。
と思った俺だが、ここはすぐに立ち上がり、カメラの向こうの少将に敬礼をする。
「諸君。いよいよ開戦だ。銀河連邦の勝利のため。皆、力を出し尽くせ。先陣はフローシアとトリスタンが取り仕切る。両部隊同時に進軍を開始だ」
全ての戦闘員が、モニター越しに敬礼。
俺も敬礼をしたけど。
皆のやり方を真似したからか、少しぎこちない。
許してくれ。少将!
失礼なやり方かもしれないから、あとでカタリナさんにでも習っておきますから。
ここまで気が回らなかった俺の落ち度です。
◇
戦争が開始となる。
少将の合図で、両翼のトリスタン・フローシア大佐の前進が始まった。
発進直後からの艦隊の動きが滑らかで、淀みのないスムーズな前進を見せる両艦隊は、よく調練された動きだと分かる。
ゲームと同じに考えてはいけないのかもしれないが、あそこまで真っ直ぐ動かすだけでも難しいはずだから、あの二人が優秀な事がよく分かるわ。
「猛将と勇将か」
あの素晴らしい突撃体制を作れる人たちの中身がさ。
世紀末筋肉おっさんと、妖艶誘惑美女だとは誰も思わないだろうな。
人は見かけによらず。
これを肝に銘じて生きていこう。
「・・・・でも敵も甘くないか」
二人の突撃に合わせる形で、向こうの両翼も上がる。
帝国も、簡単に包囲攻撃はさせまいとしたのだ。
急速発進同士で、大激突が始まろうとしていた。
両軍の始めの仕掛けから十分。
フローシア大佐とトリスタン大佐が、ほぼ同時に敵軍と接敵した。
入り乱れるビーム砲の数々。
被弾数も増えていくあたりで、戦闘の激しさが増していくように見える。
俺は自分の前にあるモニターで戦況を確認した。
操作して情報を選んでいく。
「なるほど。この赤い三角が帝国だな。それで青い三角が連邦軍を示してるってわけだ。う~ん。ゲームとほとんど仕組みが同じだな。戦闘報告が、リアルタイムで結果に反映されているわけだ。覇王伝の宇宙版をしてるみたいだな」
PCの前で、ゲームをする感覚になりそうだったが、それではいけない。
「これは感覚がバグるぞ。ふぅ~。これは戦争だ。ゲームじゃない。これは戦争だ。気合いを入れろ。本物の命が散っているんだ・・・」
気を引き締めて考えをまとめていく。
俺の目で直接戦場を・・・って言うのは出来ない。
遠巻きなので詳しくは観察できないんだ。
だから、こちらの記録を見るにわかる。
結構激しい攻防を繰り広げている。
連邦軍左翼5000と敵軍右翼3000。
連邦軍右翼5000と敵軍左翼5000。
全砲門を開いての攻撃が飛び交う。
実弾で潰される場面もあって、激しさは増すが、やっぱりビームが被弾しても一撃必殺となるわけじゃないようだ。
砲撃を受けても艦隊が結構生き残っている。
「えっと確か。この間調べたのが・・・メモ帳を取り出して・・」
俺はメモを取り出した。
俺専用のメモ帳。
こんなに文明が発展しているのに、俺だけ超アナログであった。
「よし。あった。一撃ビーム砲が当たったくらいでは、戦闘艦は沈まない。戦闘艦にはビームコーティングと呼ばれる防御装置が施されているため、直撃を受けてもこのコーティングが剥がされるだけである。ただし一度目はだ。張り直されるまでは無防備となる」
そうだった。そんな感じの勉強をしたはずだ。
ダメダメ、忘れちゃいけないよ。しっかりしろ新!
でも緊張感でぶっ飛んじゃったか。
「なので、戦闘艦を撃破するためには、ビームコーティングを剥がした場所に、攻撃を当てることが必要だ。最低でも二発が必要ってことだな」
なるほど。だから、ビーム砲の一撃が当たってしまった戦闘艦は、こんな感じで、裏に回すわけだ。
隊列の先頭または中盤あたりにいる艦が被弾した場合。
無条件で後ろに下がっている感じがする。
前衛と後衛でスイッチする感じで戦うみたいだ。
そうだな。覇王伝で言えば、負傷兵の扱いをするみたいだ。
あれは、もう一度戦ってもらうための。
再度継続的に戦闘させるための処置なんだ。
覚えておこう。
俺はこうやって実戦で学んでおかないとな。
誰よりも知識がないんだ。
少佐なんて偉そうな役職をやってるくせに、この中で一番の一兵卒なわけだよ。
つうか、どうせだったら一兵卒からやらしてくれよって話だわ。
神。何考えてんだよ。まったく!
◇
何か細かい変化でもいいから何かの糸口が欲しい。
だから、徹底的に戦場を調べていると、後ろから声を掛けられた。
「少佐。はい、お茶ですよ」
「あ。ありがとう。カタリナ君」
カタリナさんが俺の椅子のサイドにある小さなテーブルにお茶を置いた。
モニターから目を離せない俺は、彼女を見ずにお礼を言った。
失礼だけどごめんなさい。でもここは、戦場なんだ。
ゲームであったら、一瞬でも振り向いてお礼を言うけどさ。
ここは戦いだからね。ごめんよ。
こんな感じに既視感がある。
『あんた。何も飲まずにゲームばっかりするんじゃないよ』って、母ちゃんに言われてた時と似たような感じだ。
でもそれよりも今は真剣だ。人の生死が関わっているからさ。
「いえいえ。お礼はいいのですが・・・・あの~」
話には続きがあった。
さすがに、これは振り向かずにはいられない。
彼女の顔を見る。
「え? なんですか?」
「少佐。お行儀が悪いですよ。椅子にはちゃんと座ってくださいよ」
今の俺の座っている格好は、ちょっとよろしくない。
とんでもなく立派な椅子に胡坐をかいている状態なんだ。
よくない事は分かっていても、俺はリラックス状態でいたんだ。
この恰好が最も頭を働かせやすい態勢なんだよ。
昔からこのスタイルでゲームをやらしてもらってたからさ。
癖が抜けないんだ。
いやいや、ごめんね。
カタリナさん。この状態だと、集中力が増すんだよ。
「すまない。これでいかせてくれ。これは集中する時の格好なんだ」
「ええ。駄目ですよ。やっぱりちゃんとした方がいいかと思います。地に足を着けてですね・・・・」
ごめんね。お母さん。
って言いたくなるほど、この人、お節介だよ。
なんかさ。超絶美人なのにさ。
なんだか俺の母ちゃんみたいにお節介なんだけど。
そう言えば、今までの行動もお母さんみたいだったわ。
「すまない。本当にすまない。今、目を離せないから、あとにしてくれ」
「もうしょうがないですね。少佐。今日だけは許しますよ。今度からは直してくださいね。いいですね」
なんですか。
その口調。やっぱお母さんじゃん。
集中力が切れそうになりながら、俺はモニターと睨めっこした。




