第9話 疑問だらけの会議
「会議を始めるぞ」
小さいお爺さんの名前は、ロンバルディ少将。
通称ロル爺と呼ぶみたい。
ネームの部分には、ロンバルディと書いてあった。
「今回は元ダルシア共和国の解放が目的だ。ハープーン。テルト。ミルトン。これらが旧国家の最前線の惑星だ。儂らに課せられた任務は奪還だ」
それで?
と思った俺は、この続きを聞きたかったんだ。
戦争目的はもっと前から、あらかじめこのお爺さんが皆に伝えているだろうが、この感じだと、その後の動きが決まっていないように思う。
そこを取って、その先をどうするのかが重要な気がする。
そこに留まって、そのまま星を掌握するのか。それとももっと奥深くにまで侵攻していくのか。
色々なパターンで物事を考えないと宜しくない気がする。
俺は、さっきまで勉強していたから、今の言葉で疑問が瞬間的に湧いた。
それは、現在駐屯している宙域が、デルタアングル宙域と呼ばれる場所にいるからだ。
宙域とは、宇宙船が航行可能な銀河の道路と考えてもよい。それで宙域外だと、何らかの磁場が発生しているので、艦隊がどの方向を向いてる分からない状態となるらしく、宙域外に出てしまうと、一気に航行不可となるようだ。実際にそこに突入して方向感覚を失わない人がいれば、進むことは出来るらしい。
それで、銀河って広く果てしないものだから、通常であれば、惑星や隕石以外は何も遮る物がないので、宙域内であれば自由に航行が可能となっている。
そして、俺が勉強した範囲だと、宙域には特殊なものが存在している。
それが、宙域に名称がある三つの地域の事だ。
ナタロン三角宙域。テルトシア宙域。デルタアングル宙域。
この三つが、全てにおいて戦闘がしにくい場所。狭苦しい宙域となっているようであって、一度に航行できる艦隊数に限りがある。
テルトシア宙域は銀河連邦の保有する宙域で、デルタアングル宙域が神聖フロリアン帝国が保有する宙域。
この二つは本来一つで繋がっている宙域であるが、国が違うから表と裏の関係になっていて、日本で言えば、県境の一方通行のようなものだろう。それにそこがかなり狭い道路になっている状態だ。
宇宙だから、イメージがしにくいが。
二つのフラスコの首の部分をくっつけ合わせて、その細い首の部分の道がかろうじて通行可能な宙域となっている状態が二つの宙域の通行領域となっている。
だから、かなり狭いので、一度に艦隊がたくさん航行できない。
なのに、今回の戦争では、ここでの戦闘が起きなかった。
俺が敵の立場から考えるとなると、まずはこのテルトシアからデルタアングルまでの間で一度戦闘をしたいと思う。
防衛側なんだ。こっちに防御陣を築けば、かなり有利な展開に持っていけるはずだ。
広くなっていく宙域の・・・。
そう。出口付近を塞ぐように陣を構えれば、楽勝だと思うんだ。
でも今回の敵はそんな事をしなかった。
これは、相手に余裕があるとみた方がいいのか。
それとも、向こうの指揮官が馬鹿なのか?
いやいや、そうじゃなく、有利不利が起きにくい状態の広い銀河の宙域内でも、勝つ自信があるのかもしれない。
何らかの策があるかもしれないんだ。
あのステルス機だって、皆の予想の外にあったみたいなんだ。
見つけた時は俺のおかげだと、喜びまくって騒いでいたけど、あれはそうそう見つけられるものじゃないから、皆の正直な感想としては、驚きで溢れていたんだろう。
つまりだ。
この戦争って非常に戦いにくい状況なんだ。
それは、前段階からおかしいわけだ。相手が見えない。考えが見えない。
それにだ。いくら俺が策を考えても、今回の軍の頂点じゃないし、気まぐれ探偵であれば、あの当主さんなら俺の進言を聞いてくれるからな。
好きだったな。青菜さん。
あの人なら、俺の話をちゃんと聞いてくれるんだけどなぁ。
「このデータを見てくれ。向こうは野戦を仕掛ける気なんじゃ。星に籠っておらんぞ」
お爺さんが後ろのデカモニターを指差した。
そこには今回の戦場の地形と艦隊の布陣が映る。
自分たちが布陣しているデルタアングルの出口から、三つの惑星の前までが今回の戦争の地形。
デルタアングルから、三つの惑星までは何もない。
狭くもない。
特殊なものが存在しない。
だから、野戦と呼んでいい。
俺たちの世界の野戦よりも、お互いが丸裸な状態になるかも知れない。
両軍にとって殴り合いの戦場となる場所だ。
・・・・。
そう。そこが不思議すぎる。
たしか資料によれば、通常惑星戦争になる際。
防衛側は、星の防衛機能を活用すると書いてあった。
この世界は、星から宇宙へ向けて砲撃が出来るみたいで、巨大砲撃で一網打尽に出来る兵器が最前線の星には必ずあるみたいなんだ。
そうなんだよ。
そんな設備があるというのに、敵はなぜこちら側に寄って、陣を構えた?
星寄りに艦隊を並べて、惑星の兵器を活用した方が有利に戦えるんだぞ?
なんか、あえて引き寄せたって感じがする。
惑星の兵器の射程距離外にわざわざ出てだよ。
何もないのっぱらで戦おうとしている。
意味が分からない。
有利を捨てて、不利となる。
戦う条件が同じだから、マイナスとは言えないけど、あえてその有利を放棄している意図は何だ。
何も考えてないなんて言わせないぞ。
もし何も考えてないで、そこに戦場を設定したとなったら・・・。
かなりの馬鹿だ。
でもお偉い人が馬鹿ってありえるのか。
こんなただの高校生でも思いつくことをさ。
考えられないなんてあるのかな?
社会経験が少ない俺は、悩んでいた。
少将の話は続く。
「まあ、ここは悩んでも仕方あるまいな。ここまで敵の領域に入ったのだ。背を向けるわけにもいかん」
そうなんだよ。色々俺も考えたけど。
ここに入り込んだが最後なんだ。
もう戦う以外の選択肢がないのさ。やるしかないわけよ。
「まず数の確認だ。帝国軍2万隻。こちらが3万3千隻。我が軍優勢である。それなのに野戦をするのは少々不可思議じゃ。でもまあ、問題なく勝てるだろう」
楽観視しすぎじゃないか。
色々疑問に思った方がいいよ。
「内訳はワシが2万隻。フローシアとトリスタンが5千。ケインズとタルマーとアルトゥールが千隻じゃ。よいな」
ケインズ中佐がいきなり立ち上がった。
それよりも気になったのが、このハゲのおっさん名前、タルマーって人だった。
真剣な場面だけど、名前をゲット出来て、俺は心の中で喜んだ。
「少将閣下。この小僧と私の艦隊数が一緒です。私は納得できません。中佐の私ならば、2千5百までの指揮ができるはずです。タルマー中佐もです。二人揃って千隻などもっての外です。納得がいかない」
どんだけ納得できないんだよ。二回も言ったよ。この人。
こっちのタルマーのおっさんもうんうんと頷いている。
二人とも俺の事が嫌いみたいだ。
「まあ落ち着け。ケインズ。儂の2万から削ってお主らに2千5百をやってもいいが。この戦争。あまり頑張る必要もないのじゃ。こっちには猛将のトリスタンと勇将のフローシアがおるからな」
筋肉モリモリのトリスタン大佐が猛将で、こっちの豊満女性フローシアさんが勇将?
随分大層な二つ名だな。二人とも凄い人なのか。
「こやつらを左右から出す。それだけで戦争は勝つ。お主らは真ん中で待機してくれればよい。独立遊軍の形で本陣にいてほしい。そのために、お主らにはそれほど多くの艦隊数が必要ないのじゃ。今回はな」
なるほど。
つまりだ。主攻は、左右を担当する二人。
左翼軍、右翼軍で、勝負をするわけだな。
それで真ん中に中佐二人と俺。
後方に少将の布陣で行くわけだ。
ということは、この戦争での決め手は挟撃か。
左翼と右翼のどちらかで、戦いを破壊するつもりでいく。
なにせどっちかが潰れれば、あとはもう数の違いで押し込むだけになるからな。
「で、でも。閣下・・・この小僧と同じとは」
まだ言い張るのね。このおっさん。
それにしても、ここの戦場の事をわかってないのか?
この場合。俺たちって、ただ単に中央にいればいいわけじゃないぞ。
バランスを取るんだ。
左右両翼が窮地又は好機になった際に、援軍として駆けつけるんだからな。
そこを各自で判断しろって、言われてるんだぞ。
お爺さんが、独立友軍のような形をとるって言ったんだ。
つまり、俺たちには指示が来ない可能性が高い。または自由にしてもいいから、ある程度までは勝手にやってもいいってわけだよ。
それに、2千5百が一斉に動くよりも、機動力のある千の艦隊で勝利を後押しする意味もありそうだ。
うん。援軍としても妥当な数だろう。
このおっさんたち。頭の中でシミュレーションしてるのか。
大切なんだぞ。
勝つイメージから逆算して行動を起こすっていうのはね。
この人たち、そこを考えているのかな。
「もうよい。決まっているのだ。文句を言うな」
少将がビシっと言い切ったことで、おっさんは苦虫噛みまくりの顔を俺に向けて座った。
お爺さんに言われたのに、俺に文句を無言で言ってきた。
どんだけ嫌いなの!?
「いいな。この布陣で3日後に戦をするぞい。左にフローシア。右にトリスタン。中央、左ケインズ。中央アルトゥール。右タルマー。その後ろにワシで行くぞ」
指示の後、フローシア大佐が頷く。
「ロル爺。もうそれでよろしいのですわぁ。ケインズ中佐たちの出番はたぶんないのですよぉ。私と脳筋のトリスタンちゃんで勝負がつきますわぁ」
「脳筋? おい、オレを脳筋にするな。お前の方が脳筋だわ。オレよりも強いんだからな」
え、このお姉さんって武闘派なの。
この世紀末モヒカンマッチョおっさんさんのトリスタン大佐よりも脳筋!?
会議が終わりそうな雰囲気が漂ったので、俺はずっと考えていた質問をしてみた。
陰キャの勇気ある一言だ。
誰か褒めて欲しい。
「あ。あの。少将。質問よろしいですか?」
学校でも陰キャの俺がここで意見を言うなんて、すっごい勇気がいるんだからな!
ここにいる皆、俺を褒めてよね!
「なんじゃ、少佐。ゆうてみい」
「それでは失礼します。戦闘配置はわかりました。そうなると、その次の魚鱗や鶴翼などのこちら側の陣形などはどうなるのでしょうか? それと勝つための算段というものはありませんか? 細かい策があればそれに従うのですが・・・」
「「「え!?」」」
全員が声を揃えてこっちを向いた。
「え!?」
俺も一緒になって驚くしかない。
普通はさ。
具体案での作戦ってあるよね。挟撃だけじゃないよね。
ほら、基本戦術とかさ。陣形戦術だってあるよね。
例えばさ。中央の敵陣突破をするために左右で集中攻撃するとか。
えっとだから、この場合だと、両大佐が囮となるとかさ。
そういう作戦だよ!
でもこの驚き具合。
もしかして、シンプルに艦隊を並べただけで勝てると思ってるのか?
そうなると、こっちの戦い方って、ただビームを出し合うだけなのか?
おい。ひょっとして基本の横陣のみで戦うの?
鶴翼とか、魚鱗とか。
そういうのもない?
え、本当に大佐たちだけで勝つつもりなのか。
マジかよ!?
なんでこんなに全員が見事に混乱してんだよ。
当たり前だよね。
俺、当然のことを聞いたよね。
なんでこんなびっくりした顔してるのよ。
皆!
誰か声を出して~~~~。
怪訝そうな顔をしている少将が話しだした。
「お、おぬしは何を言っておるのだ。頭でも打ったのか」
「恐れながら閣下。私の発言をお許しください」
俺の後ろに控えていたカタリナさんが、前に出た。
「な、なんじゃ。ああ、少佐の部下の・・・そうだ。あのカタリナ中尉か。うむ。いいぞ」
あのとはなんだろう?
カタリナさんって有名なのかな。
「はい。カタリナ中尉であります。少佐は、以前に頭を強く打たれてから、若干様子がおかしいのです。なんだか独り言も多くなり、色々な事を忘れがちになっておられるのです。ですから、先程の発言はお気になさらずにお願いします………」
あ~でもない、こ~でもないと。
カタリナさんは、色んな言い訳を発動させていた。
だけど。
俺的には普通のことを言ったよ!
何もおかしくない発言をしたよ。
間違ってない。絶対に間違ってない。
陣形がないとかありえんのよ。
あのゲームの覇王伝ですら、どういう陣形で事を進めるかで、話し合いを始めるんだから。
うん。あ。そういえばさ。
資料を読んでいた時から疑問だったけど、この世界の戦闘記録の中に、戦いの方法が書いてなかった。
書いてあったのは、戦果だけだ。
それってもしかしてだけど。
この世界は、武器とか精密機器だけが高度に発展していて、戦術や戦略がないのかもしれない。
まさかだけど、原始人みたいに殴り合うだけで戦う世界なのか。
そんなの銃持ってるのに撃たないで、銃口を武器にして殴り合うだけじゃんか。
それじゃ全員が脳筋だよ。
ん? 待てよ。
この人たちの脳筋の基準も気になってきましたよ。
俺は恐ろしい世界に来ちゃったかもしれませんよ。
―――めっちゃ心の中で泣いてます。誰か助けてください
憐れんだ瞳を俺に向けて少将が話しだした。
「そうじゃったか。頭を打ってしもうたのだな・・・それなら、まあよいじゃろ・・・少佐、驚いて悪かったのう。体調に気をつけなさい。これで会議を終了するぞい」
俺、ほんとは頭打ってないからね。
失礼しちゃうわ。もう。
納得をしてないけど、不満げな顔だけはしないようにして、こちらの会議が終わった
「はっ」
全員が敬礼して、少将は会議室を去った。
◇
はぁ。でも仕方ないか。
たぶん、日本のサラリーマンもこんな感じなんだろう。
上官の命令は絶対なんだよ!
俺、高校生だったからさ。
命令されるのが、こんなに大変な事だなんてわからなかったよ。
日本の会社員の皆さん。
ご苦労様です。
大人の皆さん、ありがとうございます。
俺も子供から大人になって見せますよ。
こんな訳の分からない世界でね!
出来たら地球で大人になりたかった!
愚痴っちゃいましたが、許してください。
心の中で俺は、大人の大変さに気づいたのであった。




