3章 4話 明鏡止水
(東京都港区六本木)
現在護は黒塗りの高級車に乗せて貰い六本木にあるクラン(明鏡止水)に向かっていた。
そして隣には氷雨が座っている。
氷雨はいつもの冷静な顔をしている様に見えたのだが少しだけ笑みが漏れている……気がした。
「いきなり明鏡止水のクランに行くなんて…
俺…まじで胃が痛くなってきたんだけど、
何でいきなり……今日なんだよ……」
護は大手クランに自分が入れるなど夢にも思っていなかった為にガチガチに緊張してしまったのだ。
「う…うるさいわね、あなた強引にでも連れて行かないと行くの止めそうじゃない!
まったく、そんなんじゃ私が特別推薦枠まで使って
入団戦闘試験受けさせてあげた意味無くなるわよ。
緊張なんかしてたら死ぬわよ、まったく」
氷雨は少し頬を膨らませながら護に話をする。
「えっ?特別推薦枠?入団…戦闘……試験?
緊張してると………死ぬぅぅううっ!?
ど………どどどどどどう言う事だよ!?
クランリーダーが入団許可出せばOKじゃないのか?
水狼牙の時はリーダーが許可出したらすぐに次の日には戦いに出されたくらいなのに…」
護は自身の経験が普通では無い事にずっと気付いていなかった。
「あのねぇ…まぁいいわ…この際教えてあげる、
通常、大手のクランに入る為には順番に…
書類選考、面接、一次戦闘試験、二次戦闘試験、
そして最終試験…現役クランメンバーとの戦闘試験。
この全てをクリアしてやっと入団出来る…
通常は!凄く狭き門なのよ。
まぁでも小規模のクランは面接と戦闘試験だけよ。
そして特別推薦枠とはクランリーダーが一度しか使う事の出来ない、最終試験までを全て免除する事が出来る限定の推薦枠の事よ。
この私が護の為に1回も使ってなかった特別推薦枠を使ってクランに入れようとしてるのよ。
護…あなた私に感謝しなさい!」
護は今の話を聞き1人納得していた、今まで護は全て面接だけで落とされていたのだ。
通常、権能に目覚めた者は国が発行するソルジャーライセンスと言う総合戦闘力評価ランクなどが表示されたカードを受け取らないとソルジャーとして認められず戦闘に参加する事が出来ない。
護もライセンスは持っているが、そこに表示されているランクはもちろん…Gランク。
何故か世界中の国は自国の権能者のランクを把握し管理をしているのだ。
そしてクランの面接にはライセンスが必須、どこの面接官も護のランクを見て門前払いしていたのだ。
これが護が戦闘試験もやった事が無い理由だった…
だが水狼牙の面接の時は有牙が護の固有権能の力の詳細を聞き出し、自分の為に利用しようと企み有牙が独断で護を入団させたのだ。
「あぁ………成る程な…だから俺は戦闘試験をやった事がなかったのか………
でもさ…お前……俺に特別推薦枠とか言うの使って…
何か怒られないのか?ほらクランメンバーとかに…」
護は自分の為に氷雨が貴重な推薦枠を使ってくれた事に申し訳なさがあったが…氷雨は全く違う…
「そんなのどうでもいいじゃない
私が護をクランに入れようとしたの、他の意見なんか知らないわ、はい、もうこの話は終わり」
氷雨は特に興味なさそうに答える、なんとも氷雨は豪快な女の子だなと護は心の中で思ったのだ。
その時突然運転手のおじさんが氷雨に声をかけた。
「お嬢様もう少しでクランに到着します。
それにしても…お嬢様はその御方に随分とお心を開いておりますね。この中村…お嬢様専属の運転手を勤めて早12年になりますが…こんなに楽しそうにお話をなされるお嬢様は久しぶりでございます。
良き御友人が出来、この中村大変嬉しく思います」
運転手の中村さんは氷雨に喜びの言葉を伝え、
自分の事の様に喜び微笑んでいたのだ。
「ななななっ!なに…何を言ってるのかしら!
こ、この私がこんなへたれで誰かの為に戦う事しか考えてない変な男に心なんか開いて無いわよ!
中村さんあなた…護の変な成分でも移ったの?」
氷雨はその純白な頬を真っ赤にし慌てる。
そして長年話し相手になって貰っている中村さんに冷やかされたと思い…何故か護のせいにしていた…
「俺の変な成分って何だよ!人を毒みたいな言い方しやがって、全く少し強いからって、調子に乗るなよ氷雨…お、じょ、う、さ、ま!」
「あなた…私をバカにしてるのね!良いわよ…
そのケンカ買ってあげようじゃない!
氷漬けにしてクランのロビーに飾ってあげるわ!」
「ふざけんな!お前人の心ねえのか!
あっ…でもしょうがないよな…お前…友達いないらしいもんな!可哀想なお嬢様…だもんな!」
「なっ!………護…あなた…魔物に殺される前に……
私がここで絶対に殺すわ!車降りなさい!」
「無理です~お嬢様は友達いなさすぎて煽られるとすぐ怒っちゃうから俺…怖いです~」
「なっ何ですってこのへたれバカGランク!」
「何だとこの暴力雪女!」
…………………………………
…………………………………
護と氷雨は車の中で言い争いをする、だがどちらも本気で怒ってる訳では無くふざけあうような…
その光景は…友達同士遊んでいるように見えた…
そして中村さんは、その氷雨と護が言い争いふざけているその平和な光景をバックミラー越しに見て…
1人優しい笑みを浮かべるのだった。
✳✳✳
(明鏡止水クラン前)
「お嬢様どうぞお気をつけて」
先程の氷雨をからかっていた表情は一切無く、
氷雨の運転手の業務を全うしていた。
「ありがとう中村さん、今日はこのままクランに泊まるから帰りは大丈夫よ。
って……ほらっ早く降りなさい護!
ちょっと試験で戦うだけでウジウジ言ってないで、
ほら早く行くわよ」
氷雨は護を置いて先に行ってしまった…
「いや…いざ着くとめっちゃ緊張してきた…
写真では見たことあるけど…明鏡止水のクラン……
何だこれ…でかすぎだろ…
何だこの大きさ…コンサートホールかよ」
護は明鏡止水クランの建物のあまりの大きさに圧倒されてしまい…余計に緊張し胃が痛くなってしまう。
その時護に中村さんが突然話を始めた。
「進道様……お嬢様の心からの御友人になって頂き、
本当に…ありがとうございます。」
「い…いやそんな…俺は何も…」
「お嬢様はあの年齢でA+と言う強さ、そして大財閥の孫娘様です、5年前の能力が現れる前から…
幼少期から人々に恐れられ、大人達からは媚びへつらわれ…そして力を付けられた今は更に風当りが強くなっております…
進道様……お願い致します、お嬢様を御守りしてあげてください……この通りです」
中村さんは氷雨の安全や心の支えの為に今日会ったばかりの若者…護に頭を下げた…
その言葉には自分の孫の為なら何でもする様な、
氷雨の為の優しさや願いなどが詰まっていた。
護は一瞬唖然としてしまうが大の大人が氷雨の為にここまで頭を下げている状況を見て……
「…………くそっ……俺の馬鹿野郎!」
いきなり護は自分の顔を殴ったのだ。
「しっ!進道様っ!」
中村さんは何が起きたのか慌てて護に近寄る。
「大丈夫です中村さん…俺…覚悟が決めました。
俺は約束したんです…氷雨よりも…そして誰よりも強くなるって!中村さんありがとうございます。
お陰で目が覚めました、行ってきます!」
そして護は前を向き氷雨を追い歩き始めた…
「進道、護様…ですか…今時、珍しい…そして……
覚悟を決めた言い男の表情になってましたね。
……まもる……良い名前ですね……
護様、お嬢様をどうか宜しくお願いします」
中村さんは去り行く護に1人頭を下げ見送った。
***
護は氷雨の後を追いかけ、大きなガラスの自動ドアを開け中に入る。
護は明鏡止水クランの建物に入り…言葉を失った…
そこは高級ホテルかの様に広く建物内なのに水が流れ木が植えられ花が咲き誇る、まるで妖精でも住んでいる様な…幻想的な美しいエントランスだった。
5フロア以上はある開放的な吹き抜け、
多くの調度品などが飾られており贅の限りを尽くして造られた神秘的なエントランスだった。
「なっ……なんだここっ!えっ?川?森の中?
異世界にでも来たのか俺!?」
護が口を大きく開けその光景に唖然としていると…
不意に頭に痛みが走る、
「そんな訳ないでしょ、って護あなた口元少し切れてるわよ…いや………なんでもないわ……
さてと護はちょっとそこらへんで待ってて」
驚いていた護の頭を軽く叩き氷雨は冷たく答えそして護に待ってる様に伝え奥に歩いて行った。
「どこ行ったんだあいつ…
まぁいっか、座って待ってるか…」
そう言い護は近くにあった椅子に座ったり、周りの光景をスマホで撮ったりして時間を潰していた。
***
「待たせたわね護、さぁ行きましょ」
「おっ戻ってきたな…わかったよ、いく………か」
護の言葉が止まった、そこには青と白を基調とした
軍服とカジュアルスーツを足して金のラインの刺繍を入れた様な服に氷雨は着替えていたのだ。
「な…何よ、これは明鏡止水の戦闘服なのよ…
何?何か喋りなさいよ護」
氷雨は喋らない護を見て文句を言った
「いや……そのコスプレみたいだなって……
いや…でも…その、白いワンピースも良かったけど、
その服も…似合ってる…と思う」
護はあまりの可憐さにたじたじになりながらも必死に氷雨を褒めていた。
「そ…そう?ふふっ♪そう…なのねっ…って……
こほんっ、さ…さて行きましょうか」
氷雨は護に褒められ満更でもない笑みを浮かべ…
わざとらしく咳をし踵を返しまた歩き始めた。
「あっあぁ、分かった」
護は返事をして氷雨の後ろに着いていく。
その時に目に入るのは多くのスーツ姿の人達やラフな格好だが戦闘に向いている様な服を着ている人達が氷雨の存在に気付き皆挨拶をし頭を下げる。
(これが氷雨の言う実力で黙らせる…か…あいつやっぱり凄いやつなんだな…大クランのマスターか、
流石に凄いな…あれで18とか…自信なくすわ…)
18歳の少女に同世代の若者達や大の大人達までもが丁寧に挨拶をし頭を垂れているその異常な光景に護はまたも驚いていた。
そして少し歩くと左右に弧を描く先が見えない廊下があり正面にはまた大きな自動ドアがある。
スーツを着ている人達は左右に行き、戦闘服を着ている人達、ソルジャーと思わしき人達は正面の自動ドアの方に歩いて行く。
護は氷雨に着いて行き正面のドアを通った、そして護そのあまりの光景に息を呑んだ。
そこは野球場より広いドームの様な場所に出たのだ
「なっ…………これがスマホで見た……
戦闘施設…アクアベールドーム…ははっ…凄いな!」
アクアベールドーム、
それは巨大なドーム型の建物の空間中に魔結晶使用し薄い膜の様な結界が張られている最先端技術で作られた演習場の様な物で、その結界内から攻撃を外に向け放つと被害を最小限にする事が出来る叡知の結晶で画期的な代物だ。
氷雨は結界を見下ろせる位置にある高台に移動しそこに置いてあるマイクを使い号令をかけた。
「はい、明鏡止水クランメンバー集合」
その瞬間、明鏡止水の現在演習をしていたメンバー
総勢50名が氷雨の真下に規則正しく集合する。
「凄い…これが明鏡止水のクランメンバー達…
どのメンバーもかなり強そうだな…」
護にはどのメンバーもかなり強そうに見えた。
何故そう見えたかと言うと、権能の力は放つ光が強ければ強いほど魔力値が高くなる傾向がある。
そしてどのメンバー達もかなりの光を放っていた。
「え~いきなりだけど、私の特別推薦枠を使い新しいメンバーの採用試験をするわ」
氷雨はいきなりメンバーに話を伝えたのだ。
「「「「「えっ?」」」」」
「あの人…水狼牙の配信に出てたGランクじゃない」
「Gランク!?マスターおかしくなったのか?」
「いや……流石にGは…死んじゃいますよマスター」
など多くのメンバーがいきなりの氷雨の話題に驚き
Gランクの護に不満の声を漏らしていたのだった。
「まぁ、その気持ちは分かるわよ、
私もそうだったからね…でもこの進道護は凄い力を持っているわ…私をも越える力をね
そして、その力は必ず明鏡止水の糧になるわ」
氷雨は護の説明をしその力の強さを伝えた。
だが…そこで1人の男性のメンバーが声をあげる…
「へ~水神さんを越える力を持ってるんですね…
じゃあ最終試験は俺が担当しますよ」
声をあげたのは燃える炎の様なオレンジ色の髪、
その仕草格好は何故かキザったらしく感じてしまう少し高圧的な男性だった。
「藤堂、あなたが担当するのね、いいでしょう。
では進道護の試験を始めます、他メンバーは結界内から退避、試験官を勤める藤堂のみ残りなさい」
氷雨はメンバーに命令する。
そして後ろにいた護に振り向き小さく声をかける。
「さぁ護、そこの階段から結界の中に入れるから、
相手はBプラスのソルジャーよ…
油断しないで戦いなさい、気をつけてね…」
氷雨は護に少しの情報を伝え送り出した。
何故かあのキザったらしいBプラスの強者と戦う事になっていたが護は文句を言わなかった…
「あぁ分かったよ、ここまで連れてきてくれたんだ…
死ぬ気で最終試験を合格してみせるよ…
……中村さんにも約束したからな……」
護は意思を固め結界内に歩き始めた。
「えっ?中村さんさっき何か変な事言ったの!?
ちょっと護!待ちなさいよ!護っ!」
氷雨の話は集中していた護には聞こえなかった、
そして護は結界の中に入り藤堂と相対したのだ……
5000文字くらいだと多すぎるんですかね……?
やっぱり3000文字くらいの方が読みやすいとかあるんでしょうか?………いや本当に…素人すぎて………
無知って………怖いですわ(* ̄∇ ̄*)




