032 混沌の只中の好機 ④
いかなる絶叫よりも重い沈黙だった。
俺たちは、砕かれたチェス盤の上に立つ、三人の打ち砕かれた王だった。それぞれが息を切らし、血を流し、他の二人の敵を値踏みしている。
最初に動くのは誰だ?
それが俺であるはずがないと分かっていた。マナはほぼ空っぽだ。時間が必要だった。息を整える時間が必要だった。
だが、モンスターどもは「休戦」という概念を知らない。
アナコンダが墜落した後のその瞬間は、どんな叫び声よりも重かった。
重苦しい沈黙が、ゆっくりと数秒間続いた。
均衡を破ったのは、アナコンダが先だった。
ゆっくりと、明らかに苦労しながら、奴は動き始めた。攻撃ではなかった。撤退していたのだ。その巨体で岩に黒い液体の跡を残しながら、俺たちから遠い島の端へと這っていく。眼下の虚空へ逃げようとしていた。
賢い奴だ。これは勝てない戦いだと悟ったのだ。己の身を守ろうとしていた。
だが不運なことに、蝙蝠がそれを見た。そして俺も見た。
俺たち両方にとって、それは見逃せない好機だった。傷つき、弱り、背中を向けた獲物。
まるで、経験値の塊が逃げようとしているのを見るかのようだった。
俺たちは同時に飛び出した。
俺は、残ったマナを小さな炎の噴射に注ぎ込み、先に奴にたどり着こうとした。
そして蝙蝠は、怒りの咆哮を上げ、己の傷を無視して岩から飛び降りた。奪われた名誉を取り戻そうと、必死に。
俺たちは奴に向かって競争していた。
だが、俺の方が近かった。奴が崖の端にたどり着く前に、俺は追いついた。
「悪いが、今日は逃がさん」
炎の攻撃は使わなかった。十分なマナがなかった。
もっと原始的なものを使った。
俺の爪だ。
俺は奴の頭に飛びかかり、ひび割れた鱗に鋭い爪を突き立てた。
奴は苦痛にシューと音を立て、身をよじって俺を振り落とそうとした。
だがその瞬間、蝙蝠が到着した。
奴は俺を攻撃しなかった。奴が攻撃したのは、蛇の方だった。
奴はそのねじれた体に電気を帯びた爪を突き立て、残された全ての稲妻を解き放った。
アナコンダは歪んだ、恐ろしい叫び声を上げ、その体は激しく痙攣した。
そして、力が抜けた。
【有翼の嵐蛇を討伐しました。】
【フェニックスは経験値を獲得しました。】
【レベルが26に上がりました。】
【レベルが27に上がりました。】
【蝙蝠は経験値を獲得しました。】
【レベルが36に上がりました。】
【レベルが37に上がりました。】
【レベルが38に上がりました。】
二度のレベルアップの光が俺を包んだ。マナは即座に全回復した。
蝙蝠もさらにレベルアップしたが、倍増された俺のレベル46のおかげで、戦闘の優位はまだ俺にあった。
だが、それを祝っている暇はなかった。なぜなら、俺はまだアナコンダの背中に乗っていたからだ。
そして蝙蝠はまだ奴を攻撃していた…そして、奴と一緒に俺をも。
俺は最後の瞬間に飛びのき、頭を刈り取られそうになった爪を避けた。
息を切らしながら、岩に着地した。
蝙蝠はアナコンダの死体の上に立ち、俺を見つめていた。
奴は宿敵からの勝利を手に入れた。だが、満足はしていなかった。
なぜなら、俺がまだここにいたからだ。そして、この混沌の全てを始めたのは、俺だったからだ。
「よし」俺は息を整えながら言った。「一体片付けたな。ここは引き分けということにして、お互い自分の道を行くというのはどうだ?」
もちろん、そんなはずはない。ただの軽口だ。
奴は答えなかった。
代わりに、輝き始めた。
青い稲妻ではない。血のように赤い光で。
背中の赤い棘が、まるで小さな心臓のように脈打ち始めた。
そして奴の周りのオーラは、より暗く、より脅威的になった。
「一体何なんだ、これは?」
俺の頭の中で、【危険感知】が甲高い警報を鳴らしている。
【鑑定】!
<紺碧の嵐蝙蝠(暴走状態)>
【警告:スキル『暴走』が発動。モンスターは生命力を消費し、全能力とレベルを一時的に倍増させる。】
【現在の一時的レベル:70】
俺は凍りついた。
「レベル…七十だと?」
「冗談だろ?!」
「これはただのレベルアップじゃない。完全な変質だ。奴は残された体力を犠牲にして、最後の絶対的な力を手に入れたんだ」
まるでプレイヤーが、全てのレアアイテムと最終スキルを一つの自爆攻撃に使うようなものだ。
「おいおい…これは、全くフェアじゃないぞ」
奴にもはや疲労の痕跡はなかった。堂々と立ち、力が爆発している。
その黄色い目は今や完全に赤く染まり、純粋な憎悪で俺を見つめていた。
計画を立てる時間はない。戦術を練る時間もない。
これはもはやチェスではない。ただの生存だ。
奴が、俺に向かって突進してきた。
その速さはもはや常軌を逸していた。瞬間移動だ。
俺はその動きを追うことさえできなかった。感じたのは、ただ痛みだけだった。
圧倒的な痛み、全身に。一撃。二撃。三撃。
あらゆる方向から殴られていた。俺は引き裂かれるサンドバッグのようだった。
炎の盾は砕け散った。守りのオーラは蒸発した。羽は引き裂かれ、骨は砕けていた。
【HPを150喪失。】
【HPを200喪失。】
【HPが危険域です!】
この痛みの嵐の真っただ中で、一瞬だけ奴の姿を捉えることができた。
奴は俺の目の前にいて、爪を振り上げ、とどめの一撃を放つ準備ができていた。その顔にもはや怒りはなかった。
そこにあったのは…ただの疲労。奴はこれをやるために、自らの命を燃やしていた。これが奴の最後の一手だった。
「そうか、これが終わりか。またしても」
「一度死んだ。もう、ここからの復活はない」
「残された最後のチャンスだ。今度失敗すれば、本当に死ぬ!」
「だが、他に選択肢はない」
俺は目を閉じ、運命を受け入れた。
一突き。
暗闇。
…
…
【あなたは死亡しました。】
【警告:『多重再誕』の最後の「命」が消費されました。】
【スキル『復活 LV 2』が発動。】
【本質エネルギーを消費…完了。】
【復活に成功しました。】
【HP: 45/450 (10%)】
【システム『倍増報酬』が発動。】
【『復活 LV 2』の特殊効果:『再誕』が発動。】
【最大倍増効果が適用されました。】
【現在の一時的レベル:92】
俺は目を開けた。立っていた。体は無傷だった。
だが、感じたのは…虚無感だった。
「もう全部使い果たした。もう何のトリックも残ってない。次の死は、本当の終わりだ」
「そしてHPは10%。一撃でも食らえば死ぬ」
「だが、できるだけ早く終わらせる」
俺は蝙蝠を見た。奴はそこに立ち、息を切らしていた。周りの赤い輝きが弱まり始めている。
【暴走】スキルが消えかけていた。奴は自分を使い果たしたのだ。
奴は、絶対的な衝撃の表情で俺を見ていた。奴は俺を殺した。再び。そして俺が蘇るのを見た。再び。
奴にとって、俺は殺しても殺しても死なない悪夢に違いない。
俺たちは話さなかった。動かなかった。俺たちは、崖っぷちに立つ、二人の打ち砕かれた敵同士だった。
奴は、その生命力を使い果たした。そして俺は、最後の命の機会を使い果たした。
残されているのは、あと一撃のみ。全てを決する、たった一撃。
そして問題は…誰が、それを先に放つことができるかだ。