032 混沌の只中の好機 ③
蘇った瞬間、躊躇も分析もなかった。
そこにあったのは、レベル46の新たな力に裏打ちされた、純粋な本能だけだった。
ついさっきまで俺を麻痺させていた恐怖は消え去り、その場所を冷徹で研ぎ澄まされた怒りが占めた。それは、俺が殺されたからだけでなく、無力感を味わわされたことに対する怒りだった。そして俺は、無力であることが何よりも嫌いなのだ。
最初に我に返ったのは蝙蝠だった。奴は怒り心頭の咆哮を上げ、俺に向かって突進してきた。
以前なら、その速さは瞬きのように見えただろう。
今?
見える。
倍増したステータスのおかげで、世界がスローモーションで動いているように見えた。奴の青い筋肉が収縮する一つ一つの動き、鋭い爪に稲妻の火花が形成される様、奴の周りの大気そのものが引き裂かれるのが見えた。
避けなかった。正面から迎え撃った。
俺は奴に向かって突撃し、黄金の炎の軌跡を後に残した。
俺たちは空中で激突した。
ゴガガガッ―――バァン!
炎と稲妻の衝突が生んだ爆発は耳をつんざくほどで、それは単なる音ではなく、体に圧し掛かる物理的な衝撃波だった。焼けるような熱と静電気が、体中の羽を逆立たせる。
俺は数メートル後退し、翼に鋭い痺れを感じた。
だが奴は…まるで人形のように激しく吹き飛ばされ、近くの岩に叩きつけられ、黒い煙の跡を残した。その青い毛皮の一部は完全に炭化していた。
【ダメージ!紺碧の嵐蝙蝠はHPを150喪失。】
【反動により、フェニックスはHPを50喪失。】
「ダメージを与えられる。今なら、正面からやり合える」
この認識は、純粋なアドレナリンの注射のようだった。もう隠れたり、騙したりする必要はない。真っ向から戦える。
だが、この栄光の瞬間に浸っている間に、これが一対一の決闘ではないことを思い出した。
衝撃を傍観していたアナコンダが、その好機を逃さなかった。
奴は側面から襲い掛かってきた。その巨大な体が空中でうねり、俺を圧殺の拘束に捕らえようとする。緑色の筋肉の壁が迫ってくるかのようだ。
「お前のことを忘れかけてたぜ!」
以前の俺にはなかった身軽さで、空中で身を翻した。
【炎の勅令】!
武器は形成しなかった。推進力を形成した。
巨大な炎の噴射が俺の側面から放たれ、最後の瞬間に奴の軌道から俺を押し出した。
奴は俺のすぐそばを通り過ぎ、開かれた顎は数インチの差で俺を捉え損ねた。その動きが生んだ風と、鼻をつく毒の悪臭が空気を満たした。
今、俺は絶好の位置にいた。
奴らは二人とも俺の正面にいた。失敗した攻撃の後で、どちらも無防備だった。蝙蝠はまだ岩の上で体勢を立て直そうとしており、アナコンダは動きの終端で、向き直るのが遅い。
俺は躊躇しなかった。
翼を広げた。
「【灼熱の太陽のオーラ】!【フロー強化】!最大出力!」
俺の体は激しい黄金の光で輝き始めた。強化された「管」をマナが凄まじい速さで流れ、まるで体内のダムが決壊したかのようだった。
「こいつをどう捌くか、見せてもらおうか!」
俺が放ったのは一本の光線ではなかった。
二本放ったのだ。
俺の嘴から、純粋なエネルギーの集中した流れである黄金の【フェニックス・ビーム】が放たれ、まだ体勢を立て直そうとしている蝙蝠に真っ直ぐ向かった。
同時に、これまで作った何よりも長く、より熱い、巨大な黄金の炎の槍を形成し、アナコンダに向けて解き放った。
それは凄まじい集中力を要し、まるで二つの異なるゲームを同時にプレイしているかのようだった。マナが恐ろしい勢いで消費されていく。
だが、俺はそれをやってのけた。二体のボス級モンスターを同時に攻撃していたのだ。
俺のビームが来るのを見た蝙蝠は、それを防ごうと雷撃を形成しようとした。絶望的な動き、本能的な反応だ。
そして、まだ動きの途中だったアナコンダは、槍を避けようと身をよじった。
だが、俺の攻撃の方が速く、そして強かった。
俺のビームは雷撃に衝突した。今回は拮抗しなかった。ビームはまるで存在しないかのように奴の防御を貫き、蝙蝠の胸を直撃した。
奴は真の苦痛の叫びを上げた。その叫びは周りの岩々を震わせ、奴はどこかの島に墜落し、体は痙攣し、周りの稲妻は弱まり、消えていった。
炎の槍はアナコンダの脇腹を貫き、鱗と炎の爆発を引き起こした。
奴は怒りと苦痛のシューという音を立て、同じく近くの島へと落下し、その巨体は着地の際にいくつかの岩柱を粉砕した。
俺は空中に立ち、息を切らしていた。
【マナ: 50/500】
「あの同時攻撃で、ほとんど全部使い果たしちまった」
「だが、やった」
「両方とも地面にいる。両方とも重傷だ」
俺はゆっくりと、奴らの間にある何もない島に降り立った。
息を切らし、HPはまだ25%のまま。俺も崖っぷちにいた。
だが、奴らの方が状態は悪かった。
蝙蝠が俺を見た。立とうとしているが、足が震えている。その目には怒りの火花が燻っていた。
アナコンダが俺を見た。とぐろを巻き、その傷からは黒い液体が滲み出ている。その目にもはや飢えはなかった。ただ、冷徹な分析があるだけだ。
静寂が空に戻った。
もはや混沌とした戦いではなかった。
それは、緊張感に満ちた三つ巴の睨み合いへと変わっていた。
三体の頂点捕食者、全員が傷つき、全員が疲弊し、そして全員が、他の誰かが最初の過ちを犯すのを待っていた。
戦いはまだ終わっていない。
終わりにはほど遠い。
なぜなら、今の問題は誰が最強かではなかったからだ。
誰が最も長く持ちこたえられるか。
そして、誰が最初に他者の弱点を突くことができるか。
それは命懸けのチェスであり、俺たちは皆、チェックメイト寸前のキングだった。
「ヒ、ヒヒッ、妙に楽しいじゃねえか」
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