007 疼きと、雪からの来訪者 ②
彼らが去った後、俺は長い間、洞窟の入り口に立っていた。
あまりに長く立ち尽くしていたので、冷たい空気が産毛に忍び込み、身震いするほどだった。それは単なる肉体的な寒さではなかった。孤独の寒さだった。
「よし。これが現実だ。どうしようもない。」
それが、俺の頭の中で最初に形にできた考えだった。
ドラマも、自己憐憫もない。
ただ、冷たい事実があるだけだ。
シロは去った。俺は独りだ。再び。
俺は洞窟の中に戻った。
突然、その場所がより広く、より空虚に感じられた。
以前は心地よかった静寂が、今では重苦しい。
もはや、好奇心旺盛な「キュ?」という声も、小さな嘴が地面をつつく音も聞こえない。ただ、俺自身の呼吸音と、エーテルウォーターが単調なリズムで滴り落ちる音だけが響いていた。
あれは正しい決断だったのか?
答えを知っていながら、俺は自問した。
もちろん、そうだった。彼にとっては。
彼は家族の元へ、レベル62の強力な一族の元へ帰されたのだ。
今頃、中層のどこかにある暖かい巣で、豪華な鳥の餌を食べていることだろう。一方の俺はここで、夕食にどの気持ち悪いカブトムシを食べるか考えている。
だが…俺にとって、それは正しい決断だったのか?
俺は唯一の味方を失った。サポート戦力を失った。
早期警戒システムを失った。俺は再び、ただの孤独なターゲットに戻った。
ため息が出た。
「もしも」を考えても仕方ない。起きてしまったことだ。
俺のゲームでは、常に最悪のシナリオを計画していた。強力なユニットを予期せず失うのは、古典的なシナリオだ。どうする?諦めるか?
いや。残された資産を再評価し、戦略を修正し、そして前進し続ける。
では、俺の資産とは何だ?
俺はステータス画面を開いた。数字を見るためではなく、本当の意味での棚卸しをするためだ。
俺は不死鳥だ。これが最大の資産だ。俺には【蘇生】がある。
俺には炎への生来の親和性がある。俺には計り知れない成長の可能性がある。
俺には人間の心がある。戦略的に考えることができる。
他のモンスターの単純な本能を分析し、それを超えることができる。
俺には良いスキルがある。【鑑定】と【分析】は俺の目と耳だ。
【隠密】は俺の盾だ。【危険察知】は俺の番人だ。
そして【滑空】は…俺の脱出チケットだ。
俺はゼロから始めるわけじゃない。
再出発だが、はるかに強力な立場からだ。
しかし、喪失感はまだそこにあった。
それは単に戦術的な味方を失っただけではなかった。
俺は彼の存在に慣れていた。この世界で俺を食べようとしない、もう一人の生き物がいることに慣れていた。
「馬鹿馬鹿しい。白い毛玉に感情移入しているなんて。」
これが、いつか俺を殺すかもしれない、俺の人間的な側面だ。
共感、愛着…これらのものは、「生存の翼」と呼ばれる最下層や、この世界の他のいかなる場所にも、居場所はない。
巨大なカラスは言葉で「ありがとう」とは言わなかった。彼は頷き、去っていった。もし俺がもっと弱かったら、あるいはトカゲや狼のような別の種族だったら、彼は息子の居場所を知る証人を消すための予防措置として、俺を殺していたかもしれない。
これが空の掟だ。力は力を尊重するか、弱さを破壊する。その中間に何もない。
俺は静かに座り、水滴の音を聞いていた。
ポツ…ポツ…
それは、揺るぎないリズムだった。
俺も、そのようにならなければならない。揺るぎなく。動じない。
孤独を感じる「田中カイト」の部分を殺さなければならない。完全に「不死鳥」にならなければならない。
だが…俺は本当にそうなりたいのか?
感情もなく、愛着もなく、ただ生き残るために戦う、もう一匹のモンスターになることを?
自分を…自分たらしめるもの全てを失ってしまったら、生き残ることに何の意味がある?
これらは、前の人生で読んだことのある実存的な問いだ。今、俺はそれを生きている。
本当の強さとは、レベルを上げたりスキルを獲得したりすることだけではないのかもしれない。
この奇妙な世界で、自分自身を失わずに生き残る能力にあるのかもしれない。
俺は再びため息をついた。
鳥の雛にしては、深すぎる考えだ。
腹が減った。こっちの方が、より現実的な考えだ。
俺は立ち上がった。洞窟はまだ空っぽだったが、もはや荒涼とは感じられなかった。
それはただの…拠点になった。休息し、計画を立てる場所だ。
シロの離脱は俺を弱くしなかった。それは、最終的には自分自身にしか頼れないという事実に、俺を直面させた。
それは、厳しい教訓だった。
俺は洞窟の入り口を見た。
よし、世界よ。お前は俺の味方を奪った。さあ、次は何を俺に投げつけてくるか、見せてもらおうじゃないか。
俺は準備万端だからな。
俺の計画は変わらない。
明日、俺は飛ぶ。少なくとも、優雅に滑空する。
そして、それを独りでやる。
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