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おいかけっこ
ミザールは激怒した。
それはもうプンスコプンスコ怒った。
激おこぷんぷん丸という状態だ。
ミザールはカップケーキも林檎のムースケーキも全て自分の物にしたかった。自分だけが食べたかった。なのに奪われてしまった。ムースケーキを一切れ奪われてしまった。
許すまじ、星影こぐま。
怒ったミザールは怒りを示すべく「旅に出るわ!」と走り出した。
本当に旅に出るつもりはない。星影家の敷地の外で生きていく想像など欠片もできない。外に出るギリギリの場所まで行って、身を潜めて困らせようと思った。
魔法使いにとって吸血鬼は大事な存在なのだから。
「──ぎゃあああああ!」
けして、悲鳴を上げさせたり、驚かせたりしてはいけないはずなのだ。
星影こぐまは駆けていた。
四足で。
地を踏む必要のない両手を地に着け、本気の四足走りをする。人としての誇りはどこへ行った。
「ジョギングをしたくなったのかい?」
「怖い怖い怖い」
おいかけっこは夕暮れまで続く。