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等価交換
今日のケーキは林檎のムースケーキ。さっぱりとした味わいで、口へと運ぶ手が止まらない。アップルティーと同様に、ミザールは林檎のケーキが大好きなのだ。
品を保ちながら、それでも気持ち早く、彼女はフォークを進めていく。
「ちなみに僕の分は?」
「ないわ」
ケーキはホールのままでテーブルに置かれていた。全部ミザールのものだ。
「こぐまにもお茶があるんだからいいじゃない」
「僕もケーキ好きなんだけどな」
のんびりとした口調で言いながら、こぐまは手に持っているカップケーキをぱくりと頬張る。
「何よそれ」
「林檎の果汁を混ぜたカップケーキ」
「私の分は?」
「君にはケーキがあるじゃないか」
「私も食べるわ!」
「悪いね、ミザール。これは一人分なんだ」
こぐまの黒い瞳は赤く染まり、ぽん、ぽん、と何もない空間からカップケーキを出していく。ミザールが手を伸ばしても掴めない。
「ケーキと交換」
「……っ!」
ミザールは仕方なく、応じるのだった。