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第6話

今この小説があつい!!

「中将」

「あぁ、話は聞いている」


「機甲師団を出すわけにはいかないか」

「悪いが教授、師団を組めるほどの戦車は無い」


 食堂に緊張が走る。中将だけでなく、多くの士官と兵士が集まった。ヴィクトリア帝国の強力な援軍が全滅したという一報を聞いた兵士たちは皆、緊張して2人の会話を眺めていた。


「野戦砲はどうだ」

「あるにはあるが、装甲もないのに龍と戦わせる訳にはいかないだろう?」

「そうだな……ところで作戦の指揮は中将殿が執ることになっているが変わらなくて大丈夫か」


 中将は震える手で葉巻とマッチを取り出した。恐る恐る火をつけ、煙を肺の奥まで吸い込む。


「いよいよだ……いよいよ私がコネと権力で中将に上り詰めた卑怯者ではないことを証明する時が来たようだな…」

「あまりワッツを吸いすぎるなよ…身体に悪い」

「何を今更、それに毎日1箱吸うような喫煙者に言われる筋合いは無いぞ」


 ワッツと呼ばれた煙草は、中に少量の麻薬成分を含んでおり、摂取することで興奮と動悸が収まる薬にもなる。しかし彼は医療用という範疇をもはや超えていた。

 時代が違えば牢屋で寝食を過ごしていただろう。


「ところでアリシア、ターゲットを変えてみるつもりはないか」

「何故?」

「ヴィクトリアの戦車大隊が壊滅した今、無理をしてでも悪魔龍を倒すべきかわからない。海洋の龍を仕留めるのはどうだろうか」


 アリシアは首を傾げる。彼女の頭の中には勝算が少なからずあったからだ。それが少なくはない犠牲を払うとはいえ、必ず勝利を掴み取る事は出来る。

 やがて彼女は口を開き、


「海は別働隊に任せよう。私はあれに勝てる」


「野戦砲と大隊があれば悪魔龍を討伐することが出来る」


 アリシアは迷わずに言い放つ。憎しみを持った目だったが同時に自信にも満ち溢れていた。彼女の頭の中では既に模擬戦闘(ゲーム)が始まっている。

 四方を囲い込んで押し潰す。簡単だが確実な作戦だ。


「悪魔龍を潰すだけでどれだけの土地を奪取出来ると思う?2000km²近い……或いはそれ以上の大地を取り戻せる」

「確かにそれだけの土地があれば食料に困ることもない、鉱脈を掘り当てれば更に強力な軍隊も作れる」


 悪魔龍フェザー・マリグアの狩り場は平均で2000km²からそれ以上だ。巨体を維持するためにも、その龍は毎日大量の食物を摂取しなければならないので、自然と狩り場は広くなった。


「龍に支配される前の、あの場所の名前ははなんだったか……?確か……」

「ヤルーバだ。元は要塞都市だったな」

「要塞都市ということは……戦車が残っているんじゃないか?」


 アリシアは記憶を辿る。

 ───はて、あの要塞に戦車はあったかどうか……

 ───確か野戦砲しかなかった気がするが。


「大砲だけだな。多分」

「ふむ……」


「作戦は……後ほど私が考えるとしよう」


 中将は情けなく呟く。アリシアに任せっきりで、不甲斐ない自分に腹が立っている。天才の頭脳を借りたいところだが、今回ばかりは彼のプライドが許さない。

 脳をひたすらに回転させながら作戦を考えた。しかし凡人では到底彼女のキレる頭脳には及ばず、至って単純な作戦しか頭に浮かんでこない。


「なぁおい、あのアリシア教授って何者なんだ?」


 兵士の1人が小声で聞いた。新兵且つ情報弱者の彼は『教授』と中将が対等な立場で、更にはタメ口で話していることが不思議でならなかった。

 そんな疑問を抱えた一般兵の元に、曹長のバッジを付けた兵が近寄る。


「アリシア・フローライト、ラーク連邦軍名誉士官で階級は准将」

「天才的な頭脳と指揮能力で16歳のうちに士官学校を首席で卒業、18歳の時には同時入学した2つの大学で博士号を取得…現在は第1中央アカデミーで教鞭を執っている」

「随分と詳しいんだな……」


「………まぁ、一般教養だ」


 兵士は疑いの目を向けた。まだうら若き女性が、齢50近い中将殿と同じレベルのキャリアを積んでいるのはにわかには信じ難い。ジロジロとアリシアを覗き込んでいると、ふと彼女と目が合った。

 自分について話していることに気がついたアリシアは、ポケットからドッグタグを取り出した。


(あれは元老院の!)


 兵士が驚いた顔を見せると、アリシアは元老院から贈呈された純金のドッグタグをポケットの奥底にしまった。


「今回は私が指揮を執らないが本当に大丈夫か?」

「無論、たまには本邦の将校を信じてみるといい。それに私は仮にも連邦軍の高級将校だぞ」

「わかった、では私は……私はしばらくの間アカデミーに復帰するとしよう。何かあったら電報を送ってくれ」


 番号が書かれた名刺を置くと、アリシアは騒がしい食堂から颯爽と立ち去った。中将が兵士たちを見てどうした、と聞くと兵士たちは蜘蛛の子を散らすように、各々が別の行動をし始めた。

 名刺を取ると、胸ポケットの中にしまった。



「ったく……この調子だと私は一体いつ故郷に戻れるのか、全く検討もつかないねぇ……」


 アリシアは自室で電報が届くのを待った。その間、明日から始まる講義の準備を進めた。合計で12の科目で教鞭を執っている故、その準備を終えるには相当の時間を要する。任務から帰還したばかりというのに翌日からは複数の講義がある。


 明日は朝8時から生命学(龍)の講義で朝を迎える。アリシアが最も得意とする科目ではあるが、最も嫌っている科目でもあった。龍を憎んでいるが故に、それについて考えていると腹が減って気分も滅入るからだ。その後は源石学、古代史といった彼女にとって楽な講義が続く。


「龍さえいなければ……こうして腹が減ることもなかっただろうに」

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