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第3話

 尾を除いた全長は4m弱、3対の足を持った蛇のような龍がアリシアに近づく。名前をデボア・ラスカと言い、主に処刑用や見世物として利用される小型の龍だ。


「来るな……私に近寄るんじゃない……」


 足を縄で縛られたアリシアは必死に逃げ回った。対するデボア・ラスカは体力を消耗しないようゆっくりと歩く。アリシアは壁を登ろうとしたが掴める突起や凹みは一切無く、この一瞬で死を悟った。


「っ……誰か!助けて!」


 ガラス張りの壁の向こうに人影が見え、アリシアは助けを求める。髪の長い女が仁王立ちで彼女を睨みつけている。


「お願い!助けて!」


 膝立ちになりガラスを叩く。しかし一切の声は伝わらず、ただ無様に命乞いをする様子だけが女の視界に映っていた。敵意を含んだ微笑を浮かべ、何かを喋る。


「くっ……うぅっ……おのれ……」


 目に涙を溜めたアリシアは、背中の気配に気づいた。自分を狙う殺気、何日も餌を与えられていないことによる空腹感、そして自分がその餌だということに。


「ひっ……やめ、やめて」


 龍は藻掻くアリシアの上に馬乗りになると、熱を感じ取るための舌を出し入れした。前腕で彼女の腕を押さえつけると口を開いた。弱酸性の唾液が滴り、消化液の強烈な臭いが空気に混ざって流れてきた。


「離せ化け物め……!その不浄な口を私に……近づけるなぁっ……!」


 アリシアの頭にデボア・ラスカが噛み付いた。貪るように頭を振り回し、生きたまま体内に取り込んでいく。精一杯体を動かし抵抗するが、圧倒的な力の前に為す術も無く飲み込まれていく。


 小型の龍といっても人間より遥かに力が強い。武器も無いアリシア程度なら簡単に倒すことが出来る。


(このままじゃ……溶かされる!)


 唾液と消化液に揉まれながら、アリシアは狭い胃袋の中に畳み込まれるように押し込まれた。酸欠によりもう間もなく意識を失うだろう。そうなれば本当に絶対絶命だ。


 息が荒くなり、意識が遠のく。もはや脱出は絶望的、この龍が急に吐き出したりしない限りは助かることは無い。


(私が……消えていく…)


「教授」


 彼女を呼ぶ声が聞こえる。

 遠のく意識の中、自分の名前を呼ぶ声がこだました。


「教授!」



 アリシアは深い眠りから目を覚ました。

 悪夢のせいか、全身から汗が滝のように零れ落ちていた。


「………大佐」

「悪夢に魘されていたようですね、顔色が悪いですよ」

「何用だ?」


 ニコライは1枚の手紙を取り出すと渡した。


〈アリシア・フローライト様〉


 龍の鳴き声が響き渡る今日この頃。

 フローライト様におかれましては、龍の襲撃に遭ったにも関わらずご存命のことお慶び申し上げます。

 さて、フローライト様が提案された先の軍事協定につきましては、軍議会の慎重な判断により可決されることとなりました。本日限りで両国間の戦争は集結いたします。

 さっそく軍団を派遣し、指揮権をフローライト様に委任する方針であります。つきましては、現場のニコライ・ヴォルコフスキー大佐になんなりとお尋ねください。


〈ヴィクトリア帝国情報部長ロレンシオ・タシアス〉


「果報は寝て待てと言うが…まさか本当に来るとはな」

「準備が整い次第出発しましょうか」

「大佐はどうする?」


「私は別の輸送機で向かう予定ですが」


「やはり同行すべきでしょうか?」


 ニコライは中腰で聞いた。アリシアを見下せる身長なので、目を合わせて話すのは一苦労だ。

 アリシアがどちらでもいい、と言い放つと、ニコリと笑顔を浮かべ、


「ではご一緒に」


「好きにするといい」


 ニコライが立ち去るとアリシアは準備を整え始める。服を寝巻きから動きやすいジャケットとシャツに着替え、今では珍しい45口径の拳銃を内ポケットにしまった。


(しかし……あの夢は一体なんだったのだろうか、ただの夢にしてはあまりにもリアルというか…)


「気にするだけ無駄か、ただの夢に違いないな」


 もう1丁の拳銃のスライドを引きながら言う。

 これで支度は整った。窓の外を見ると、飛行戦艦のプロペラが回り始めている。兵士たちが忙しなく動き、いよいよ出発だということを実感させてくれる。


 * * * * *


「大尉、短い時間でしたがありがとうございました。久々に熟睡出来ました」

「こちらこそ、いい取引が出来ましたよ」


 トラフィムが名残惜しそうに言う。他方でアリシアは無頓着なようだ。素っ気なく別れを済ませ、旗艦のブリッジに入る。


「教授」

「───あぁ」


 硬い椅子に座り、マイク付きのヘッドフォンをかける。軽くマイクを叩くと、ちゃんと音が入っているかを確認した。


「プロペラ、全て良し。発進準備完了。離陸の指示を待ちます」

「行こうか」


 旗艦はゆっくりと前身し、長く平たい滑走路を滑る。

 トラフィムが手を振っているのが見え、アリシアは小さく手を振り返す。座り直すとベルトを締め、揺れに備えて手すりをしっかりと掴んだ。

 隣に座ったニコライは小さく深呼吸をし、余裕を持った表情で離陸の瞬間を待っていた。


「戦闘経験は?」

「40回ほど───演習を含めて」


「実戦は?」

「2回……これを含めて」


 彼女の脳裏に一抹の不安が過ぎったが、軍の指揮権はアリシアにあるので大きな障害にはならないだろう。


 機体が大きく揺れ始め、いよいよ重力に逆らって飛び始めた。体が宙に浮かんだような、軽い感覚が全身を覆うといよいよ滑走路が少しずつ遠くなり始めた。


「護衛艦の型式はなんだ?」

「グングニル級快速艦ワルプルギスIVです」

「グングニル級か、サシで中型の龍に勝てるというあの」


 四方についた戦闘機の編隊を見てアリシアは安堵の息を漏らす。龍を撃墜出来るほどの戦闘機であれば到着するまで安眠出来るだろう。

 そう思いながら壁に寄りかかる。


「ちょいと煙草休憩に行ってくる」

「ここは禁煙では?」

「空調室なら吸っていいんだ」


「では私も」


 ニコライは葉巻を、アリシアは煙草を取り出し空調室に向かった。外の風が入ってくるので慎重に火を近づけないと火を点けることすら難しい。


「大佐は愛煙家なのか?」

「趣味で各国の葉巻を集めているのですよ」

「その調子だとワインも集めてそうだな」


 どうしてわかったのか、という驚愕の表情を見せた。

夢の正体とは一体…

いよいよ出発ですね

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