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第2話

「その本は何です?」

「小さい頃から読んでいた戦記物だ」


 ニコライ大佐が粗末な椅子に座ると言った。表紙は牛皮で作られ、中の紙は丈夫でて耐久性に優れた紙がふんだんに使われている。ニコライは紙の手触りを確かめると少し読み始めた。

 彼は訝しげな表情を浮かべ、アリシアに何かを言おうとした。


「これは……」

「それより、何か用か」


「──作戦についてです」


 アリシアは黙って煙草に火を点けた。また説教か、と心の中で舌打ちをしながら耳を傾ける。

 ニコライは地図を広げると戦車と飛行戦艦の模型を袋から取り出す。戦車の駒を5つ、そして飛行戦艦を3つ、要塞付近の海域に置いた。


「戦車は海を渡れないだろう」

「ヴィクトリア帝国の飛行戦艦は輸送に特化しております。戦車小隊程度なら楽々運べますよ」


「凄いな…」


 続けてニコライは青で塗られた駒を2つ取り出した。この駒がアリシア率いる飛行艦隊だ。


「ラークの飛行戦艦が2つ、そこに我々の戦闘機中隊が合流します」


「護衛のためです」


 しばらく間を開けてからニコライが言った。

 地図の上方向、太平洋に面した北の大地に青の駒を置いた。


「ここで作戦を展開します。付近には廃要塞があるので、そこを拠点としましょう」

「待った、ここは地形が悪い。半分を要塞に、残りは北に進ませるとしよう」

「何か妙案が?」


「さぁな」


 アリシアは誤魔化す。溜まった灰を床に落とし、地図を自分の方に手繰り寄せた。駒が倒れ、配置が滅茶苦茶になったが気にすることなく続ける。


「戦車の数は?」

「派遣するのは20両、軽戦車が8、中戦車が12です」

「もう少し欲しいところだが…良しとしよう」


 机の上に置かれた袋から龍の模型を取り出すと、周りを飛行戦艦で囲った。チェックメイト、と呟き1人で不気味に笑う。


「……この廃要塞から半径100km以内に悪魔龍フェザー・マリグアの巣がある。幸いなことにこいつは飛行が苦手だ」


 戦車3両を龍の前に置いた。起爆、と一言だけ言うと作戦の説明を始めた。


「手始めに足の速い軽戦車がマリグアを巣からおびき出す。出てきたところを中戦車と歩兵の火力で叩く」

「教授、その…フェザー・マリグアとはどういった龍なのでしょう?私は龍についての知識が少々乏しく…」


 アリシアは驚きを隠せない表情を見せると、懐から手帳サイズの図鑑を取り出した。「龍大図鑑」とゴシック体で記された表紙と数枚の羊皮紙を捲る。


「悪魔龍フェザー・マリグア、体長は60m程度。普段は自分で掘った洞穴の中で暮らしている。その大きさと重さ故に飛ぶのが苦手だ」

「ならなぜわざわざ戦車による攻撃を?」


「やつは2種類のブレスを吐く。1つは腐食ガスだ、触れたら鉄も崩れる」


 アリシアの脳裏にはマリグアの鳴き声が浮かんでは消えた。大気を揺らす唸り声、悪魔の叫び声と形容しても差し支えない恐怖の鳴き声だった。


「もう1つは背中の棘から溢れ出るガスだ。正確には液体だが、急速に気化して大気に混ざり、暗雲を形成する」

「なるほど…雲を作って空の攻撃から身を守るのですね…」


 ニコライはなるほどと納得した顔で頷く。しかしアリシアはそれだけではない、と言葉を続ける。


「付近の大気成分は急激に変化し、40%が猛毒の眩龍(げんりゅう)に書き換えられる。しかもおまけに大量の源石の粒が付いてくる」


 ニコライの体からは血の気が引いていくのが感じられた。想像するだけでも恐ろしい光景だ。兵士たちがもがき苦しむ様子を想像して一瞬吐き気を催した。


「ブレスを使われたら相当な死人が出るから速戦即決で倒す。体内には高純度な龍源石の結晶が埋まっているから危険を犯してでもやる価値はあると思うが」

「し、しかし…全長60mもある龍を戦車で倒せるとは到底思えませんが」


 アリシアの指が固まる。爪を何回か弄ると、ベッドに大の字で寝転がった。

 灰色に染まった天井を見つめながらアリシアは呟く。


「大量の爆薬を食わせて体内で起爆させる」

「なるほど、古典的ですが確実な方法ですね」


「こいつを潰せばあとは掃討戦だ、戦車でも倒せる数m大の雑魚しかいない」


 フェザー・マリグアは1匹辺り最低でも数十から数百kmの狩場を持つ。そのため近くには大型の龍が近寄らず、倒してしまえば安全な領土を手に入れられるわけだ。


「しかしなぜこの悪魔龍を叩こうと思ったのです?」

「まずこいつは動きが鈍重だ。そして倒せば豊富な源石が手に入る。先に源石を入手しておけば後の戦闘が楽になる」

「源石の取り分は?」

「それはその時考えよう、何せバカでかい龍なんだ」


 谷間から小瓶を取り出し、源石の結晶を眺めた。

 つい先程まで青紫だった結晶は、淡い水色の光を放ち輝いていた。七色に変化する結晶を瓶の中で転がしながら、アリシアは小さく呟く。


「数百kgはくだらない、大体首都のエネルギー1ヶ月分に相当するだろうか」

「たった1匹狩るだけで首都の国民たちはエネルギーに困らないのですね…」

「もちろん我々もエネルギーが使い放題になる。大規模な飛行艦隊を補給無しで数ヶ月…いや恐らく年単位で運用出来るだろう」


「とにかく、フェザー・マリグアを殺せば兵站のことを考えなくてよくなる」


 微笑を浮かべると、結晶が入った小瓶を谷間の中に戻した。

 ニコライは気づかなかったが、アリシアには何か思惑があるように見えた。悪魔龍を殺すだけに留まらず、もっと何か大きな作戦を企てているように思えた。


「出発はいつ頃になる?」

「本国から電報が届き次第です」


「少しお休みになられては?」

「そうするつもりだったが大佐が作戦の説明に来たもので…」

「ああ、それは失敬…作戦については以上だから私は帰るとしよう」


 急いで地図を折りたたみ、模型を綿の袋に詰め込むとそそくさと仮眠室を後にした。アリシアはニコライが外に出たのを確認すると本を手に取り、顔に被せて目隠し代わりにした。


「全く…少しくらい私に安眠させてくれてもいいだろう」


 アリシアは布団で全身を覆い隠し、目を閉じた。

 柔らかいマットレスに全身の体重を委ねたのは数週間ぶりだろう。そのため彼女は相当深い眠りについてしまった。

アリシアは眠りについてしまいました。彼女の思惑はなんなのでしょうか?

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