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プロローグ

皆さんこんにちはチャハーンです。

こちらの作品は中学生頃に私が描いた漫画作品を原作として執筆しています。漫画の方は未完結で終わってしまいましたが、幾つかの修正を経て小説作品として投稿することになりました。

応援よろしくお願いします。

 飛行戦艦四隻が編隊を組みながら雲の上を飛ぶ。

 いつ雲の下から敵が現れるかわからないため兵士たちは少しも休まらない。無論、高度6000mまで追ってくる敵など存在しないが。


「教授、残り三十分で到着です」


 破れた毛布に包まった女に兵士が声をかけた。戦術構築家のアリシア・フローライト教授が目を覚ました。アリシアは金縁の眼鏡を手に取ると指紋を拭い始めた。


「君も少し寝たらどうだい」


「私は十分に休息を取っております」


 眼鏡を着けると二三度瞬きをし、立ち上がった。


「下に行ってくる」


 アリシアは何か気になることがあるのか、銃座のある弾薬室へと向かった。機関銃の弾帯が数十個、榴弾が十数発。弾薬だけで見れば五千発を軽く上回る。12.7mmの弾丸が大半を占めていた。

 ハシゴを降りると対空防御のための銃座が待っている。

 一番艦であるにも関わらず腹につけられた対空防御は、機関銃が八挺、カノン砲が僅か二門だった。


「教授、何用でしょうか」


「少し代わろう。君は少し休んで煙草でも飲んでるといい」


 兵士は快諾した。アリシアは固い椅子に腰掛けると機関銃のチャージングハンドルを引いた。曳光弾が一発床に落ち、空薬莢の上で跳ねた。


 トリガーを引けば、驚いた銃手たちが一斉に射撃を始めるだろう。引いてみたい気持ちと人としてそんなことは出来ない気持ちが交錯する。

 やがてアリシアは小さな眠りについた。



『ブリッジ!聞こえますか!』


 無線越しに怒号が聞こえると、アリシアは目を覚ます。無線機をスピーカーにすると、ブリッジからの合図を待った。


『警告!警告!真下で龍を観測した。総員警戒せよ!』


(こんな所まで龍が…?)


 アリシアは機関銃を真下に構える。ガラス張りの足元を見るが、大洋のように広大で雪のように白い雲が広がっているだけだった。


「何もいない…のか?」


 アリシアが静かに呟いた刹那、以前軽く読んだ図鑑の写真を思い出した。腹は水色、背中は白の龍が存在するという。これは空の風景に擬態するためだそうだ。


『赤外線センサーに反応あり!敵は───』


 機体が大きく揺れた。


『敵は、敵はイェゼル・ドナだ!』


 空獣龍(くうじゅうりゅう)イェゼル・ドナは体長20mを超える中型の龍だ。性格は獰猛で狡猾、雲よりも下に生息しており、滑空が得意な個体だ。


 イェゼル・ドナは上空に浮かぶ四つの飛行戦艦を視界に捉えた。翼開長は30を優に上回るだろう。薄く頑丈な皮膜が開ききった時、翼を一回だけ上下に動かした。


『来るぞ!すごいスピードだ!』


 体を折りたたみ、弾丸のように回転しながら編隊に向かってくる。誰かが対空砲の引き金を引いた。

 銃弾が霧雨のように降ったが、龍は高速回転しながら弾丸の雨を弾き返した。至近距離の炸裂弾も軽くいなし、艦隊との距離は縮まっていく。


(まずい…!)


『四番艦が食われた!雲に入るぞ!』


 全長50mはあった四番艦は空中で爆発四散した。一方で龍は無傷だ。艦隊の上に影を見せると、急降下してくる。

 旗艦の指示で残った三機の飛行戦艦は雲の海に入る。


『全速力で基地を目指せ!そうすりゃあの化け物を倒せる!』


 無線がノイズ混じりで途切れ途切れに聞こえる。

 船内であってものこのノイズの量だ。恐らく二番艦と三番艦には指示がほとんど届いていないだろう。


 アリシアは暫しの危険が去った間に、弾薬のベルトを交換した。先の邂逅で弾を無駄撃ちしてしまい、空冷式の銃身も焼けている。

 残り二十分耐えれば基地に到着する。微かな希望がアリシアの闘志に火を灯した。


『砲手たちよ、応答せよ。異常は無いか?』


 アリシアは壁に貼られた数字を一瞥した。

 無線機を取ると一言。


「こちら八番パドック、異常は無い」

『教授ですか…?なぜそんなところにいらっしゃるのです』

「気まぐれだ」


 たった一言喋っただけというのに、オペレーターは教授が最も危険な腹の銃座にいることに気づいた。平常時であれば一分もしない内に兵士が強制的に連れ戻しに来るだろうが、今は些か状況が違う。


『うわっ!二番艦がやられた!』


 視界が制限されているにも関わらず、龍は寸分の狂い無く二番艦の心臓部を貫いた。爆弾とニトロを満載していた艦は四番艦よりも更に大きな煙と爆発音をあげた。


「オペレーター、聞こえるか!」


『教授──聞こえます!』


 アリシアは一瞬だけ考え、指示を出した。


「基地と通信して要塞砲(マウンテン)を準備させろ!まずは急降下だ!」


 数分前までの眠そうな顔は消え、仕事人の顔と成った。

 船体が急降下し全身にGがかかる。腕が震え、頭が異様に重く感じた。


 海が見えた。

 雲から抜けると大海原が見えた。

 静かで波一つ無い海。一足遅れて龍が姿を現す。出てきたところを集中砲火するがほとんど効果は無い。親指大の弾丸ではかすり傷程度にしかならないだろう。


「後ろを取られたか…三番艦は何をやっているんだ」


 アリシアは唇を噛む。早く引き金を引きたいが、今撃つと三番艦に被弾する可能性がある。龍の皮膚に傷を付けられなくても、飛行戦艦の軽金装甲を蜂の巣にするのは容易かった。


『こちらブリッジ、要塞が見えたぞ!』


 アリシアは機関銃から手を離すと後ろを向いた。山をコンクリートで覆った外見で、崖からは無数の砲身が覗いている。そして山の頂上、旧世紀の大戦で使われていたという巨大な大砲がこちらを狙っている。


「要塞砲…生で見るのは初めてだがデカイな」


 46cmの砲弾は例え龍の外皮であろうと正面から貫き、肉片に変えることが出来る。三連装の主砲が今か今かと発射の命令を待っていた。


「オペレーター、聞こえるか。イェゼル・ドナを引き付けてから急旋回、主砲を命中させるぞ」

『しかし…あまりにもリスクが大きすぎます!』

「心配するな、このままドッグファイトをしていたら私らどころか要塞も全滅しかねない。決めるのはあんただ」


 無線を放り投げるとアリシアは祈った。

 ───どうか、主砲が命中しますように。


「ええい、一か八かだ。こちら旗艦、こちら旗艦、応答せよ」

『こちら管制塔、聞こえるぞ』

「我々の艦隊に向けて主砲を撃ってくれ」

『なんだと?敵とはいえ仮にもあんたらは使節だ。外交問題に発展する』

「そうしないと俺たちとお前らは全滅だ!責任は取る!」


 主砲の砲手は慎重に艦隊を狙った。迫るイェゼル・ドナと艦隊が一直線に並んだ瞬間、その僅かな瞬間を狙い、


「撃て───!」


 近くの空気が爆発したような衝撃が走る。


「面舵一杯!」

「面舵一杯!!」


 フックがかかっていない積荷が重力に負け、右方向に滑る。空の薬莢が空を飛んだ。一番艦、二番艦の窓からは凄まじい速さで風を切る砲弾がほんの僅かな瞬間だけ観測出来た。

 88ミリの榴弾を弾き返し、飛行戦艦に正面から体当たりしても傷一つつかない強力な外皮に大きな風穴を開けた。


「やったか!」


 龍の体は揚力を失い、大海原に落下した。

 白い水飛沫が上がると艦内に歓声があがった。


「ふぅ……」


 アリシアは流れた汗を拭う。本来は平穏なフライトになるはずだったが、多くの犠牲を出してしまい若干の申し訳なさが心の中に残った。

 要塞に到着するまでの準備運動と言ったところだろうか。


「教授、勝手に前線に立ってもらっては困ります」

「おかげで二つ残った」

「それはそうですが……別に銃座に行かなくてもよかったでしょう。窓が割れたら海に真っ逆さまですよ」


 士官がアリシアを叱りつけた。渋々コントロールルームへ連れられると、熱狂の最中に小さな笑顔を浮かべた。


「要塞まで五分くらいか?」

プロローグが終わりました。

アリシアたちは一体どうなるのでしょうか?

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