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前編 戦艦大和に挑んだクマさん

 その昔、北の果ての羅臼山に、一頭のくまがいた。名はほのか。雄である。


 ちいさなころから、さいきょう、ということばに、なみなみならぬ いとおしさ を いだいていた。さいきょう。つよいこと。いちばんになること。だれにもまけないこと。それは、ちいさな ほのか のこころを うずかせるには じゅうぶんだった。


 山には つよいやつら がいた。おおきなエゾシカ、すばしっこいキタキツネ、こわいふくろうのおじいさん。だけど、ほのかは おもった。「やまのなか だけじゃ、たりない」と。


 そんなある日、ふもとの人間の村にあそびにいったキタキツネが、こういった。


「ひとのつくった、すごい ふね がある。うみにいるのに、やまより おおきい。てっぽうも ついてて、どーん ってするらしい」


 ほのかの くまごころ が、びりびりと ふるえた。


 うみのむこうに、つよいやつがいる。

 たたかいたい。みてみたい。


 そのふねの名は──戦艦大和。


 ──果し状をかく。


 でも、もんだいが あった。

 かくものが、わからない。

 くまの ゆび は ふとくて、えんぴつは にぎれない。


 ほのかは、山のおばあちゃんぐまと相談した。「おまえさん、つちの うえに えだで かいてごらん」といわれ、れんしゅうした。


 それから三日三晩、ほのかはひらがなをおぼえた。


 そして、いよいよ 本番。

 なけなしの ふで と かみに、つたない字で かいた。


 『せんかんやまとさま

  ぼくは、ほのか。くま。

  つよいひとと たたかいたいです。

  うみにいきます。たたかってください。

  くま より(けっぱん)』


 かみのすみには、じぶんの ち をつけた。

 それが、「けっぱん」というものと、きいたから。


 ──旅立ち。


 みちのりは とおかった。

 くまの あし で、山をくだり、村をぬけ、いくつもの川をこえて、やっと「くれ」という港町についた。


 にんげんが いっぱい いた。ふねが いっぱい ういていた。

 ほのかは、そのなかでも ひときわ おおきな ふね をみつけた。

 「……あれだ」


 たかぶる こころ。

 ふるえる しっぽ。


 ほのかは、ふところから くだんの かみ をとりだし、ふねにむかって さけんだ。


 「やまとー! たたかいに きましたー!」


 そのときだった。


 「く、くま!?」

 「銃を持て! 銃を──って、手紙持ってる!?」


 しゅういが さわがしく なった。

 けむりのなか、ひとりの へいし が、ほのかの かみ を ひろいあげ、しずかにいった。


 「……これ、読めるのか?」「ひらがなだ。……くま語じゃない」


 そして、くまは おわれた。


 まっくらな夜、ほのかは 山へにげもどった。


 ──ほのか、かえる。


 山にのぼった その夜、ほのかは ひとりで かんがえた。


 「ぼく、まだ つよくないかも」


 ふねには とどかなかった。

 てがみは とどいた。でも、たたかいには ならなかった。


 「もっと、もっと つよくなって、また くる」


 ほのかは、そう こころに きめた。


 そして、月のひかりを あびながら、また 山をのぼっていった。


 それから──

 ひさしい年月が すぎる。


 やまとは、うみに しずんだ。

 くには、かわった。

 でも、山には まだ、くまの「ほのか」が いた。


 いまも どこかで、つぎの さいきょう を さがしている。


 その すがたを みたものは、まだ いない。


 ──つづく

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