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第6話 記憶喪失と来訪者

 年配の医者は、私を椅子に座らせると持っていた鞄の中から塗り薬を取り出し、私のタンコブの状態を確認してから優しい手つきで薬を塗布した。

それから医者は私にいくつかの簡単な質問をしたが、私はそれら全てに対して「わからない」と答えた。


「うーん。やはり記憶喪失ですな。一時的なものだとは思いますが、あまり無理に思い出させようとはしないでください。逆効果になることもありますので」


 医者は国王と王妃にそう説明すると、「また後日診察に参ります」とお辞儀をして帰っていった。

その場に残った国王と王妃、そしてメイドは、憐れむような目で私を見つめている。

私は、そんな三人を騙してしまっていることに心が痛んだ。


「ま、まあ、一時的なものだろう。ジュール、無理せずゆっくりと思い出せばいい」


 国王は、そう言って私の肩に手を置いた。


「そうね。しばらく公務や騎士団からは離れてゆっくりするのがいいわね」


 国王の後ろにいた王妃も、そう言って私に微笑みかけた。

私は、優しい二人に何か言わなければと思いつつもいい言葉が見つからない。


「申し訳ありません……ありがとうございます……」


 下を向いてなんとかそれだけを言うと、国王と王妃は寂しそうにうなづいてメイドと共に部屋を出ていった。


***


「ようジュール! 元気か?」


 記憶喪失のフリを始めてから数日経ったある日。

自分の部屋で本を読んでいた私の耳に、部屋をノックする音と同時に部屋に入ってくる男性の声が聞こえてきた。


「なんだ。元気そうじゃないか。具合はどうなんだ?」


 突然の出来事に、私は読んでいた本を持ったまま固まってしまった。

そんな私を見て、その男性は私の前まで来るとぐっと顔を近づけた。


「あ、あの……、あなたはどちら様ですか?」


 (ち、近い!!! 何なの、この人!)


 少し赤みを帯びたブロンドの短髪、好奇心旺盛そうに見つめる切長の目、高く整った鼻と少し意地悪そうに笑う唇……。

よく見ると、なんとなくジュールに似ているような気がする。

私がそんなことを考えながらその男性を見つめていると、男性からすっと笑顔が消えた。


「おいおい……マジかよ」


 男性はふーっとため息をつくと、私から顔を離して壁にもたれかかった。


「記憶喪失なんて嘘だろって思ったんだが本当だったのか?」


「え? はい……」


「はぁ……嘘は言っていないようだな。いつものお前なら俺が顔を近づけると、近づくな! だの、帰れ! だの冷たく突き放すからな」


 男性は苦笑いしながら壁から身体を離し、私の横の椅子に並んで座った。


「俺はフランク。フランク・アントワーヌ。

アントワーヌ公爵家の次男。王国騎士団の副団長であり、お前の父方の従兄弟だ」


「従兄弟……?」


 (だから何となく似てるのね)


 私は、私の言葉にうなづいたフランクの顔を改めてまじまじと見つめた。


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