第50話 悪夢再び
結婚式を待ち侘びている招待客たちが、教会関係者の案内で次々と教会の中に入っていく。
そろそろ結婚式が始まるのだ。
私は、そんな人々を遠くから眺めながら教会の中に入るのをためらっていた。
しかし、騎士団長という立場に立っている以上、結婚式に参列するのをやめるなど絶対に出来ない。
それこそ、ジュールの顔に泥を塗ってしまいかねないからだ。
「仕方がないわよね……そろそろ行かなきゃ」
教会の中に入るには、今いる教会前の広場から長い階段をのぼらなければならない。
私は、暗い気持ちで階段を一歩一歩、重い足を引きずるようにのぼっていった。
そろそろ教会の入り口が見えてくるだろうというところまで辿り着くと、何やら女性たちの声が聞こえる。
私は、見つからないように隠れながらそっと聞き耳を立てた。
「あらぁ、ロザリー様。本日はおめでとうございます。結婚式に招待していただけるなんて光栄ですわ、オホホホ!!!」
(この声は! メレーヌ!?)
声の主がメレーヌと知り、私はもっと暗い気持ちになってしまう。
たしか、メレーヌはジュールのことを気に入っていたはずだ。私が今、彼女の前に出ていったらきっと絡まれるに違いない。
それにしても、なぜジュールはこんなところにいるのだろう。
花嫁って、お世話係に案内されながら登場するものなんじゃないの?
不思議に思っている私の耳に、ジュールの焦ったような声が聞こえた。
「メレーヌ。早く教会の中に入ったらどうだ? 私は忙しいんだ。あなたと話している時間はない」
「まあ。こんなに美しい花嫁姿ですのに、お話される口調は変わらないのですね……あら? こんなところに手紙とブーケが……」
「あ、よせ! それに触るな!!!」
「怪しいですわね!」
ジュールとメレーヌは、何かトラブルがあったのか急に言い合いを始めている。
こんな時に何をやっているのか。
私は、言い合いを止めようと思わず二人の前に出てしまった。
「やめろ、二人とも!」
急に目の前に現れた私に、ジュールとメレーヌはびっくりしたような顔をしている。
しかし、メレーヌはすぐに満面の笑みを浮かべた。
「まあ! ジュール様! こんなに近くでお目にかかれるなんて……うふ」
私を見て嬉しそうに笑うメレーヌから目線を逸らすと、そこには花嫁姿のジュールが困惑した表情で手に何かを持って立っている。
いつも冷静なジュールが困惑しているなんておかしい。
もしかしたら、ジュールは何かをしようとしているのではないか。
そう判断した私は、ジュールを助けるために咄嗟にジュールを抱き上げた。
「何をするんだ?」
「こっちのセリフよ! 何か考えがあるんでしょう? だったら、私も協力するわ!」
私がジュールに小声でそう言うと、ジュールは申し訳なさそうにうなづいた。
私は、ジュールを抱きかかえたまま今来た道を戻るために階段を下り始めた。
「ま、まあ! なんてこと! 花嫁を連れ去るだなんて!!! 誰か! 誰か来てちょうだい!」
メレーヌの叫び声に、教会の中から何人かの招待客が出てきた。
「あっ! あれは、ジュール王子ではないか? おい、ジュール王子がロザリー姫を連れ去ったぞ!!!」
一人の招待客が、私とジュールを見て大声を上げた。
すると、たくさんの人々が教会の外に集まり出したが、それを掻き分けるようにしてフランクが息を切らして前に出てきた。
「ジュール!!! お前、何をしているのかわかっているのか?」
「すまないフランク! わかってくれ! こうするしかないんだ!!!」
「そんな……」
花嫁を連れ去られたフランクは、へなへなとその場に座り込んだが、国王の命によって放たれた従者たちが私とジュールを追いかけてくる。
私は、従者たちに捕まらないように階段を下る速度を早めようとした。
その時。
「うわぁ!!!!」
私の足がもつれ、私とジュールはそのまま長い階段を転がるように落ちていった。