第46話 ジュールの計画
シヤン王国に戻ってきたジュールは、フランクの屋敷で会ったロザリーのことを考えていた。
あの時、フランクの声にかき消されてしまったが、ロザリーの口から確かに「ジュール王子のことが好き」と言う言葉が聞こえた。
(エステル様が言っていたことは本当だったのか!?)
人間不思議なもので、相手が自分に好意を寄せていることを確認した瞬間、その人のことが気になってしまうようだ。
なぜか胸の辺りがモヤモヤする。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてで、ジュールは戸惑いを感じていた。
「気分転換にクッキーと散歩に行くか」
気持ちを落ち着かせるため、部屋を出てクッキーと一緒に廊下を歩いていると、前から一番上の姉のブリジットが歩いてくるのが見えた。ブリジットもこちらに気づいたようで、にこにこしながらジュールに近づいてくる。
「クッキーとお散歩? あら……ロザリーどうしたの? そんなに元気のない顔をして」
ブリジットは驚いたようにそう言うと、ジュールの頬に優しく触れた。
ジュールは、ブリジットの優しい手のぬくもりを感じながら、同時に新鮮な驚きも感じていた。
(今まで表情の心配などされたことがなかったが、俺はそんなに元気のない顔をしているんだろうか)
「どうしたの? 何か心配なことでもあるの? よかったら話してごらんなさい?」
「実は……今更ながらフランク様との婚約に前向きになれなくて……」
ジュールが素直にそう言うと、ブリジットはまるでそれがわかっていたかのように申し訳なさそうに微笑んだ。
「そう……。お父様とお母様にも困ったものね。娘の気も知らないで話をどんどん進めてしまって。あなたが記憶喪失だから余計に将来を心配しているのでしょうけど」
「そうかもしれません」
国王と王妃の気持ちもわかる。
ジュールが下を向くと、ブリジットは何かを思い出したように話を続けた。
「そうそう。そういえば、最近エステルが生き生きとしていると思わない? なぜかフランク様と接し始めてからなのよねぇ」
(ん?)
「それは、どういう意味なのでしょうか。ブリジットお姉様?」
「あら、私ったら。フランク様との婚約を控えているロザリーにする話ではなかったわね」
ブリジットは苦笑いをすると、元気を出してね、とジュールに告げてその場を後にした。
ブリジットを見送ったジュールは、今ブリジットから聞いた話に引っかかりを感じていた。
「エステル様が生き生きとしている? それも、フランクと接し始めてから、か。はっ、もしかして……」
頭の中にある考えが浮かび、ジュールは、はっとして顔を上げた。
もしも自分の考えが正しいのなら、これを試してみる価値はあるかもしれない。
ロザリーにはそれまで悲しい思いをさせてしまうかもしれないが、何もかも終わった後にちゃんと説明してわかってもらおう。
ジュールは、あることを実行することを決意し、念入りに計画を練り始めた。




