第42話 姉の推察
その日の夜、喉が渇いたジュールは、自分で厨房に行きコップ一杯の水を飲むと、再び自室に戻るため部屋に通じる廊下を一人で歩いていた。
「ロザリー、少しいいかしら?」
突然、誰かが小声で話しかけてきたが、ジュールはそれが誰なのかすぐにわかった。
そして、自室の隣にあるエステルの部屋のほうを見つめると、そこには部屋のドアから少し顔を覗かせているエステルがいた。
「どうされたのですか? お姉様」
他の者に気づかれないよう、なるべく小声でそう言うと、エステルはジュールに手招きをした。
「ちょっと私の部屋に来ない? 聞きたいことがたくさんあるの」
「ええ……今からですか?」
「今だから呼んでるの! いいから早くいらっしゃい」
有無を言わせないエステルに、ジュールは少し躊躇したものの、仕方なくエステルの部屋の中に入った。
「さあ、こちらに座ってちょうだい」
「はい……」
(こんな時間に一体なんなんだ)
ジュールは、エステルが何を聞きたいのかが全くわからず、勧められた椅子に不審そうに座った。
「さて、今日はフランク様とジュール王子、二人の男性とお散歩に出かけてきてどうだった? 楽しかった?」
「はい?」
「はい? じゃなくて。お散歩が楽しかったか聞いてるの」
戸惑うジュールとは真逆に、エステルは目を輝かせてジュールの答えを待っているようだ。
(そんなことを聞いてどうするんだ、全く……)
エステルの質問にジュールは若干引いていたが、エステルの後ろの本棚に飾られているたくさんの小説のタイトルを見てなるほどと納得がいった。
エステルは、きっとすごく恋愛話が好きなのだろう。
男二人に挟まれたヒロイン。
そんな恋愛小説のような話を期待しているのだと思う。
「別に、楽しいとは感じませんでした。フランク様とはお話が合いそうもないですし、ジュール王子は途中で帰りましたから」
期待しているエステルには悪いが、事実を伝えることのほうが大事だろう。
「お姉様が期待しているような話が出来なくてすみません。では、私は部屋に戻ります」
ジュールがそう言って椅子から立ちあがろうとすると、エステルはジュールの手を握った。
「お待ちなさい。ロザリー、あなた何もわかっていないのね。呆れたわ」
「何を、ですか?」
もう一度椅子に座り直したジュールは、訝しげにエステルを見つめた。
すると、呆れた顔をしていたエステルが急に嬉しそうに笑顔になった。
「なぜ途中でジュール王子が帰ったかわかる? ロザリー?」
「何か用事でもあったのでしょう。ん、まあ、私が帰った時、城の裏庭のベンチに座っているのを見かけましたが……。それと関係あるのでしょうか?」
「まあ! 城の裏庭のベンチで……。きっとお辛かったのね」
「はあ……? 辛い?」
エステルが何を言っているのかわからず、ジュールはますます混乱してしまった。
(疲れたと言っていたがそうではないのか?)
「よく聞きなさい、ロザリー。ジュール王子はね、あなたのことが好きなのよ」
「は?」
「本当に鈍感なんだから! 私ずっとジュール王子を観察してたんだけど、間違いないわ。ジュール王子はロザリーのことが好きなのよ、だからあなたとフランク様が仲良くしているのが耐えられなかったのねぇ」
(なんだと? 俺のことが好き?)
なぜか満足そうにうなづくエステルに、ジュールは驚きを隠せなかった。




