第26話 エメラルド
私とフランクが女性の叫び声の上がった場所に駆けつけると、そこは宿の隣にある蔵の前だった。
「どうしました?」
私は、蔵の前で青い顔をしている若い女性に声をかけた。
「蔵に物を取りに来たんです。そしたら……蔵の中から人が飛び出してきて……。その人、綺麗な箱を持ってそのまま走り去ったので不審に思って蔵の中を確認したら中が荒らされていたんです。私もう怖くて……」
その時のことを思い出したのか、女性はがくがくと恐怖で震えている。
フランクは、女性の肩に優しく手を置いた。
「我々が来たのでもう大丈夫ですよ。ここからは騎士団に任せてください」
「えっ、あ、はい。ありがとうございます……」
爽やかなフランクの笑顔に、女性はなぜか先程まで青くしていた顔を赤くし、きらきらした瞳でフランクを見つめている。
(前から思ってたけど、フランクって女好きだよね。少し顔がいいからってすぐ女性に優しくするのは信用ならないわ!)
「ゴホゴホ……それでは蔵の中を見せていただきます。おい、フランク行くぞ」
私がわざとらしく咳をして蔵の中に入ると、フランクは肩をすくめて渋々私の後ろから蔵に入ってきた。
「待てよ、ジュール。あ、お前もしかして嫉妬してんのか?」
「なぜ俺がお前に嫉妬するんだ?」
「俺がモテるから嫉妬してんだろ?」
フランクは、ニヤニヤしながら私の顔を覗き込んだ。
「馬鹿を言うな。今はそんなことを言っている場合ではないだろう。気を引き締めろ」
「うへぇ。そういうところは記憶喪失になる前から全く変わらないよな、お前」
(鉄仮面の好感度アップだわ!)
フランクは、やれやれというように両手を上げると思い出したように私に尋ねた。
「ところでロザリー姫とはどうなんだ?」
「ロザリー姫?」
「ああ。堅物のお前が国に女性を招待するなんて初めてだったから、気に入っているのかと思ってな」
フランクは、私がどう答えるのか興味津々のようだ。
(な、何を言っているの?)
「ジュールにもそういう相手がそろそろ必要だと思うんだが。ロザリー姫はなかなか可愛らしい姫だし、お前の相手としても相応しいんじゃないか?」
「おい、勝手に決めるな! この話はこれで終わりだ!」
(ジュール王子が私のことを気に入っているわけないじゃない……入れ替わってるのよ、私たち……)
ふとジュールから抱きしめられたことを思い出し、顔がほてるのを感じる。
私は、それを悟られないためにフランクから顔を逸らした。
気を取り直し蔵の中を進んでいくと、蔵の一番奥の辺りに物が散乱している。
「こりゃ、酷くやられたな」
床に落ちた物を拾いながら、フランクがそうつぶやいた。
同じく女性の悲鳴を聞きつけた宿の主人が、走って蔵の中に入ってきた。
「なんてことだ! 大事にしまっておいた年代物の宝石が盗まれてしまった……」
宿の主人は、へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「宝石?」
「はい……先代が当時のこの土地の領主様に賜ったというエメラルドです」
「エメラルド……」
私は、エメラルドという言葉に懐かしいような、なんともいえない気持ちを感じたが、それがなんだったのかを思い出すことは出来なかった。




