第23話 小さな茶屋
「すごい……」
一人の取り巻きがそうつぶやくと、メレーヌがキッとその取り巻きを睨んだ。
取り巻きが慌てて扇子で顔を隠す。
メレーヌは、再びジュールのほうを見ると興奮した様子で言った。
「な、なんなの? ロザリー様はどこでそのお話を聞いたのですか?」
「ミア王国に招かれた時、控室で紅茶を頂いた。説明はジュール王子からしてもらった」
「な、なんですって? ジュール王子から? 羨まし……じゃないわ! この紅茶がミア王国王宮御用達の紅茶じゃないだなんて、嘘は言わないでいただきたいわ」
「嘘じゃない。それから、一つ忠告するが……。このような陰湿な行動は控えたほうがいい。もう我々は学園時代の子供ではない。それに、お互いの立場というものをもう少し理解したほうがいいのでは?」
ジュールがメレーヌに冷ややかな視線を送ると、メレーヌは青い顔をしてその場に立ち尽くした。
「では、私はこれで失礼する」
ジュールは、席を立ち優雅にお辞儀をすると、立ち尽くしているメレーヌの横を颯爽と歩いていった。
ジュールがいなくなった中庭では、取り巻きたちがメレーヌの周りで慌てふためく様がしばらく続いていた。
***
メレーヌの屋敷から馬車で城に帰る途中、ジュールはメレーヌが言っていたことが気になっていた。
ロザリーは、街中の小さな茶屋の紅茶がお気に入りらしい。
紅茶好きなジュールは、ずっとそのことが頭から離れず、従者にその茶屋に寄ってもらうよう頼んだ。
「ロザリー様、到着いたしました」
馬車が止まると、従者がそう言って馬車のドアを開けた。
ジュールが馬車から降りると、そこには、こぢんまりとした古い建物があった。
外に出されている古い看板に『茶』と書いてあることから、ここが茶屋だとかろうじてわかる。
ジュールは、興味深そうに建物を眺めた後、店のドアをゆっくりと開けた。
「いらっしゃいませ……。あら、ロザリー様ではありませんか。あらあら、お久しぶりですわね。嬉しいわ」
店主であろう老婆は、ジュールを見ると嬉しそうに近づいてきた。
「え、ええ。久しぶりですね。今日は、いい紅茶がないか見せていただこうと思いまして参りました」
老婆は、ジュールの態度に少し驚いている様子だ。
しかし、すぐに笑顔になって答えた。
「まあ、しばらく見ない間に立派になられて……。国も安泰だわ。ささっ、こちらへどうぞ。新しい茶葉も入荷していますよ」
「ありがとう」
老婆は、茶葉が入っている多くの棚の前にジュールを案内すると、一つ一つ棚を開けて香りを確かめさせてくれる。
ミア王国の紅茶とはまた違った物もあり、ジュールはこの時間を存分に楽しむことが出来た。
気に入った香りの紅茶を何種類か購入したジュールは、レジカウンターの後ろのガラスのショーケースに指輪が飾られていることに気づいた。
とても大事にしていることが一目でわかる。
ジュールは、老婆に指輪のことを尋ねてみた。
「その指輪は年代物ですか? とても素敵な指輪ですね」
「まあ、ありがとうございます。これは、私が結婚する時に母から譲り受けた大事な指輪なんです。私、エメラルドの輝くようなグリーンがとても好きでね。でももうこんな歳だし、身につけることが出来ないのでここに飾ろうと思いましてね」
ジュールは、指輪のことを幸せそうに語る老婆に微笑むと、もう一度その指輪を眺めた。




