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第19話 欲しかった温もり

 城の者たちが寝静まった深夜。

私とジュールは、舞踏会の会場近くにある大階段の上に来ていた。

上から下を見下ろすと、階段をのぼった時には感じられなかった恐怖がひしひしと感じられる。


 (怖い……)


 私は、恐怖のあまりずっと下を見ることが出来ず、すぐに目を逸らした。


「大丈夫か?」


 そんな私の様子に、ジュールは気を使って声をかけてくれる。


「うん……大丈夫……」


 昼間、来賓用の部屋で二人で話し合った結果、もう一度この場所に来てみようという結論になった。

私は、明日にはシヤン王国に帰らなくてはならない。

その前に、どうしてもここに来たかった。

しかし、実際この場に立ってみると転落した時の恐怖が蘇る。


「で? どうするんだ? ここからまた二人で転がり落ちるのか?」


 ジュールは、確認するように私にそう尋ねた。


「うっ……。でも、早く元の身体に戻りたいじゃない! ジュール王子もそうでしょ?」


 自分の恐怖心や優柔不断さを隠すように、私はジュールに強く言い放った。

ジュールは、そんな私の返事に肩をすくめた。


「無理をするな。怖いんだろ? 足が震えているぞ。もう少し様子を見てから……」


「もう嫌なの! こんな生活耐えられない!

早く元の私に戻ってシヤン王国に帰りたい。うっ、ううっ……」


 ジュールはなぜこんなに平然としていられるのだろう?

そう思うと、怒りややるせなさで涙が出てくる。


「なんでそんなに平気な顔が出来るの? 早く元に戻りたくないの? 私は早く戻りたい。男性としてなんて生きたくないし、男性の言葉を使うのももう嫌なの。それに、あなた、私の顔をして男性の言葉を使うのはやめてちょうだい! きっと周りから変だって思われてるわ……うううっ」


 ずっと一人で抱えて言えなかったことを、私はジュールに全部ぶつけてしまった。

ジュールだって、きっと早く元の姿に戻りたいのは一緒なのに……。

でも、一度不満が爆発してしまったらもう止められない。

私は、意を決してジュールに詰め寄った。


「お願い! 私ともう一度階段から落ちて!」


 ジュールの服を掴んだ私は、無理矢理階段から落ちようと試みたがやはり足が震える。

もう一度、もう一度と、何度も試そうとした私を、突然ジュールがギュッと抱きしめた。


 (……っ!)


「もうやめろ。少し落ち着け」


 身体が入れ替わってから、ずっと不安で誰かにこうして抱きしめて欲しかったのかもしれない。

欲しかった温もりを感じて、私はジュールの肩にそっと頭をもたれかけた。

そんな私を、ジュールはしばらく抱きしめてくれた。


「落ち着いたか?」


「うん……ありがとう。冷静さを失ってごめんなさい……」


「いや。君の気持ちはよくわかる。俺も同じ気持ちだ。早く元の身体に戻りたいし、こんな女性物のドレスを脱ぎ捨てたいと何度思ったか……。それに、王国騎士団のことも気になるしな。焦る気持ちはあるが、だからといって無理をしてはいけない」


 私を抱きしめていた手を緩めると、ジュールは私の背中をトントンとあやすように優しく叩いてくれる。


「そうね……私、すごく焦っていたわね」


「俺が必ず元に戻る方法を見つける。それまで俺と一緒に耐えてほしい」


 そう言って私の顔を見上げたジュールは、初めて私をちゃんと見て笑ってくれた。


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